全てに裏切られた僕は感情が壊れてしまった
Haru
心壊し編
落日①
スマホに設定してあったアラームがけたたましく鳴り響く音で僕は目を覚ました。
目を覚ましてから数秒、動くことなくただ天井を眺めていた。今日も一日が始まる。憂鬱で虚しいだけの一日が。
そう考えてしまうと起きたばかりだと言うのに早く今日という一日が終わって欲しいと思ってしまう。
「…学校行かなきゃ」
とは言っても学校は休日や祝日以外毎日ある訳で。このまま何もせず寝転んでおく訳にはいかない。
僕は小さくため息を吐きながらベッドから立ち上がった。
頭が痛く身体も重たい。のそのそと歩きながらリビングに向かう。リビングには既にスーツに着替えて忙しそうに歩き回っている母さん、篠宮しのみや 志那ゆきながいた。
そんな母さんの姿を見て一瞬たじろいでしまう。
「…お、おはよう母さん」
僕はぎこちない挨拶を母さんにした。
「え?あぁ…おはよう叶人かなと」
母さんは僕の方を見ることなくそう言った。
うんそうだよね。朝の忙しい時間に僕から話しかけられて迷惑だよね。
母さんは僕のことを疎ましく思っている。それは僕が物心着いた頃から、いやもしかしたらもっと前からかもしれない。いつも仕事で忙しそうにしている。詳細はよく分からないが、母さんは会社のお偉いさんらしい。
「…」
僕は少しの寂しさを覚えながらも母さんの邪魔にならないように顔を洗いに洗面台に向かう。
洗面台で顔を洗い終わり再びリビングに戻ると2階に続く階段から姉さん、篠宮 花梨かりんが降りてきていた。
「おはよう、姉さん」
僕は姉さんに挨拶する。
「…」
姉さんは僕のことを一瞥すると直ぐに視線を外し何も言わずに洗面台に向かってしまった。
うんそうだよね。嫌いな僕に挨拶なんかされても嫌な気持ちになるだけだよね。
僕は姉さんに嫌われていた。それはもう憎悪と呼べる程に。どうして嫌われているのかは正直よく分かっていない。でもとてつもない憎悪を抱かれているのは気づいていた。
「…」
いつからこうなったのだろう?母さんは僕のことを子供の頃から疎んでいる。姉さんとは子供の頃とても仲が良かった。どこに行くにも一緒で僕の手を引いて眩しい笑顔を見せてくれていた。でも僕が中学生に入った頃からそれは変わってしまった。どうしてか僕は姉さん嫌われるようになってしまった。そんな姉さんが怖くなった。それでも小さい頃のようにまた仲良くなりたくて必死に話しかけた。でも関係が改善されることはなかった。
僕は自分の分の朝ごはんを作って手短く食べる。ウィンナー数本とスクランブルエッグ、それに白ご飯。簡単な朝食。
僕がご飯を食べている間に母さんは既に会社に行ってしまったようだ。姉さんはご飯を食べるんわけでもなく何故か僕の対面に座っている。
「…」
「…」
僕がご飯を咀嚼する音だけがリビングに響く。そんな僕を姉さんが見ている。どうしたのだろうか?何か話したいことでもあるのだろうか?
「えっと…何か僕に用かな?」
そう質問すると
「…別に」
姉さんは表情一つ変えることなくそう言った。
「そ、そう…」
その後は全く会話が無かった。結局姉さんが何を考えていたのかは全く分からなかった。
僕は食べ終えた朝食の洗い物を終わらせて学校に向かった。
正直家に居るのは疲れる。嫌われていると分かっている人達の中で生活するのはキツイものがある。
まだ学校の方が気が休まる。
そう思いながら学校への道を歩いていると幼馴染と待ち合わせしている場所についた。そこにはまだ幼馴染は来ていなかった。
待ち合わせの時間まではまだ時間があったし、少し待てば来るだろうと思っていた。でも約束の時間から5分経っても、10分経っても幼馴染は来なかった。
僕はメッセージアプリで幼馴染にメッセージを送った。
『今どこにいるの?』
数秒待ったがそのメッセージに既読がつくことは無かった。
これ以上待てば学校に遅れてしまう。仕方ない、学校へ行こう。
学校につくと教室には既に幼馴染の綾崎あやさき 真由奈まゆなが居て友達と楽しそうに話していた。
どうして?僕が待ち合わせ場所に行ったのは集合時間よりも前だった。なのに真由奈は来なかった。
…よそう。真由奈にも何か事情があったんだ。…そう、だよね?
僕は重たかった身体が更に重さを増したような感覚になった。
僕は真由奈に近づき声をかけた。
「ねぇ、真由奈…今朝の話なんだけど」
僕が声をかけると真由奈と楽しそうに話していた真由奈の友達が分かりやすく嫌な顔をする。僕はある理由でクラスメイトの大半から嫌われている。
「後にしてくれる?」
真由奈にそう言われてしまった僕は自分の席に向かう。
「ねぇ真由奈大丈夫?アイツに何か弱みとか握られてるの?」
「そうだよ!そんなことになったら私たちが絶対に許さないから!」
「大丈夫だよ。そんなことないから」
…全部聞こえてるよ。
更に憂鬱な気分になりながら席に座る。
自分の席に着きカバンを机の横にかけるとスマホに通知が届いた。ポケットからスマホを取り出し確認してみるとそこには真由奈の名前があった。
『放課後、公園に来て』
公園というのは僕たちが小さい頃よく遊んでいた家の近くの公園だろう。
よかった…やっぱり今日待ち合わせ場所に来なかったのは何か理由があったんだ。きっとそれを放課後に教えてくれるんだ。
僕は家族から嫌われている。そしてクラスメイトからも。普通ならそれだけでグレたり耐えきれなくなったりするかもしれない。でも僕はそうならなかった。それはひとえに幼馴染の真由奈がいたからだ。僕は真由奈のことが好きだ。それは公園で遊んでいたあの頃から。
最近は思春期が影響してか良好な関係とは言えないが家族から嫌われていた僕に真由奈だけが優しくしてくれた。
子供の頃から抱いていた恋心は歳を重ねるごとに更に大きくなっていた。そして勘違いでなければきっと真由奈も僕のことが好きなはずだ。
…決めた。僕は真由奈に告白する。ずっと僕に優しくしてくれた唯一の存在。そんな彼女が僕はたまらなく大好きだ。
あとがき
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