初コンサート編 1

「…はぁ、はぁ、」


思うように体が動かない。


初コンサートをすると知らされてから、いつもより練習のメニューが厳しくなった。


だけど、これぐらいで疲れてたら駄目だ。


本番では完璧にしないと。


こんな姿、ファンの方には見せられない。見せたくない。


「純怜、最近あんまり寝てないんじゃない?」

陽向くんが心配そうに尋ねた。


「寝てます…」

私は嘘をついた。


寝てる時間が勿体ない。

私にはもう時間が無い。


もっともっと…


「ほんとに?ちゃんと休まないと、体壊しちゃうよ?」

陽向くんがさらに心配そうに言った。


「大丈夫です。大丈夫大丈夫…」

私は笑顔を作って答えた。


「…純怜ちょっといい?」

凛月くんが声をかけてきた。


「え?はい」


そして手を引っ張られ、メンバーがいない別室に連れてこられた。


「凛月くん、なんでこんなところに…」

私は戸惑いながら尋ねた。


「純怜が大丈夫って2回言う時は大丈夫じゃない。そうでしょ?」

凛月くんが真剣な表情で言った。


「…え?何言って…」

私は驚いた。


自分では気づいてなかったけど、そうなのかな。


「俺が純怜に冷たい態度をとってた時も大丈夫大丈夫って言ってた。だけど声が震えてた。純怜が無理してるって事ぐらいすぐに気づくよ」


と凛月くんが続けた。


自分でも気づかなかったことを凛月くんはすぐに分かってしまうんだ。


もうこれ以上は騙せない。


「私っ、本当はすごく怖い…私の事を応援してくれるファンがいる事は分かってる。だけど、もし失敗したら…私に失望して応援してくれなくなるかもしれないっ」


私は涙をこらえながら言った。


一度きりのチャンスを無駄には出来ない。


「それをどうして誰にも言わないの?言わないと」凛月くんが優しく問いかけた。


「だけど、これぐらい一人で…」


一人でどうにかしないと、

私の問題なのに。


みんなコンサートのことで余裕ないはずなのに、私のせいで


「ずっと一人で抱え込むつもりだったの?」


私は静かに頷いた。


「純怜は人間なんだよ。完璧になんて出来るはずない、ロボットじゃないんだから。頑張ることは良い事だよ。陽向だって、他のみんなだって、そこについて言ってるんじゃないよ」


私の求めてる完璧が虚像だってことも、叶いっこないってこともちゃんと分かってる。


だけど、それを言い訳にはしたくないから。


「一人で頑張ろうとしてる事が問題なの。心がダメになったら今まで頑張った事が無駄になると思わない?」


凛月くんが真剣に言った。


「私は完璧な人間じゃない。だけど、完璧なふりをしないといけない。だってファンの皆がそれを望んでるから。私は何がなんでもステージに立ちます」


私は決意を込めて言った。


「純怜」


凛月くんが私の目を見つめた。

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