グルメドラマ語り

雲条翔

第1話 孤独のグルメ


 ・「孤独のグルメ」 (2012年~)


 時間や社会にとらわれず 幸福に空腹を満たす時

 束の間 彼は自分勝手になり 自由になる


 誰にも邪魔されず 気を使わず ものを食べるという孤高の行為


 この行為こそが 現代人に平等に与えられた 最高の癒しと言えるのである



 こんなナレーションで始まるこのドラマは、個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎(演:松重豊)が、仕事で出かけた先で空腹を覚え、見つけた店(実在の店)にふらりと入り、そこで飯を食うという、それだけの、ただそれだけのドラマである。

 しかし!

 ついつい「美味そうだなあ」と見入ってしまう、飯テロドラマである。


 現在(2024年)、シーズン10まで製作されており、何度かスペシャル版も放送している。

 2025年には、主演の松重豊自身が監督を務める劇場版も公開予定!


 食事中の主人公のモノローグが独特で面白い。(結構ダジャレ好き)


 撮影する時はモノローグを先に収録し、そのセリフを覚えて、タイミングを合わせて表情芝居をしつつ、食事シーンを撮影している、とのこと。


 食べながら、面白いセリフが思いついた時は、あとでモノローグを変更することもあるというが、映像で見ていると「食べながらニヤリとするシーンなんて、芝居とは思えないもんなあ、美味そうに喰うなあ」と思っちゃう。


 松重豊はロケ弁当を抜いて、空腹状態で撮影に挑んでいるそうで、

「食事シーンが美味しそうに見えたなら、本当に美味しいんです」

 とのこと。


 個人的に思い出すメニューは、シーズン1の「門前仲町の焼き鳥屋」で、つくねをピーマンで包んで食べるというやつ。

 ピーマンの皮を噛む時のパキッとした歯ごたえに、肉の塩味……想像しただけで、よだれが出てきそう。


 このドラマは、台湾でもリメイクされている。

 中国版の「ニコニコ動画」とも言える「ビリビリ動画」でも日本版が公開されており、酒が飲めない主人公が「ウーロン茶ください」と言うたびに、自国発祥の飲み物が出てきたことに対して「烏龍茶! 烏龍茶!」と流れるコメントの大波で、異様なほどに盛り上がるのも特徴。


 原作コミックも、海外の様々な国で翻訳されて出版されており、セリフが縦でも横でも描けるように、吹き出しが縦長の楕円というよりは、「丸」になっている、という工夫がされている。


 ちなみに、原作となるコミックは2巻のみ。(作画担当の谷口ジロー氏が急逝してしまい、続刊は望めない)

 原作では、主人公が店の主人と口喧嘩して、食事の途中で店を出てしまうなど、気が荒い描写もあったりするが(店選びに失敗したエピソード)、ドラマ版では性格が丸くなっている。


 ドラマの最後、原作者の久住昌之が、撮影で使ったお店を訪ねて実際に食事するミニコーナー「ふらっとQUSUMIクスミ」がある。

「おっ、炭酸入りの麦ジュースが来ましたね」なんて、笑顔でグラスを受け取りながら、よくビールを飲んでいる。

(ドラマの主人公は下戸という設定なので、作中で酒を飲むシーンは無い)


 久住氏は「The Screen Tonesザ・スクリーントーンズ」という音楽ユニットもやっており、このドラマの楽曲もそのバンドの演奏によるもの。


 このドラマが人気を博してから、グルメドラマはホントーに増えました。


 自分でも、知らない初めてのお店に入った時は、メニュー選びから注文の食事を食べる時に至るまで「孤独のグルメのモノローグを真似して考えてみる」と、ひとりの食事も結構楽しめます。

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