テキストデッサン

@ishiiyuriko

第1話

bl 土井が水谷に、彼に対して抱いている相反する感情について話す。


「僕はね、水谷君が好きなんだ。」


土井は、きっと水谷を見つめてそう言った。


「でもね、それと同じくらい君が憎い。」


「好きで憎いってどういう意味。」


水谷は戸惑ったような笑みを浮かべて尋ねる。


「何ていうのかな。水谷君ってピアニストでしょう。ピアノという自分の才能を存分に活かして活躍しているでしょう。君の演奏すごいよ。デビューコンサートの熱情とか、強制的にその音に意識を集中させるような演奏だった。僕はそんな君を見て、そんな君をもっと見たくて好きになった。でも、君を見ていると、自分が平凡だということをいやというほど思い知らされる。もちろん、僕は君と違って怠惰だから、平凡なのは当然なのだけど。それでも、君に嫉妬せずにはいられない。僕は君と一緒にいたい。だって君が活躍するさまを傍で見たいから。僕は君と一緒にいたくない。だって君が活躍するさまを傍で見たくないから。僕はこの気持ちをどうすればよいのかな。」


「いやそれを俺に聞かれても困るんだが。」




土井と菊池の会話劇 土井が小説のネタのために、菊池に自分は宇宙人ですという


土井 僕はエリス星から来た宇宙人です。


菊池 君は急に何を言い出すの?


土井 だめだよ、そんな100点満点中34点のツッコミは。君は、「君の脳内には愉快な世界が繰り広げられているね。」みたいな、もっと語彙力の高い罵倒をするべきだよ。


菊池 なぜ僕は君に頭のおかしな告白をされたうえで、それに対する反応を採点されなければいけないのだろう。


土井 それは僕が小説を書いているからだよ。


菊池 小説?


土井 そう、エリス星という地球から25億6354万光年離れた星から来た宇宙人ハルヴァが、正体を隠して地球の高校に転校して、地球の文化を学ぶというスラップスティック・コメディ。ハルヴァが、同じクラスの里中に自分の正体を明かすシーンを、実際の人間の反応を参考にして書こうと思って、菊池君に、自分は宇宙人です、言ったんだ。


菊池 そんなの土井君の想像で書けばいいだろう。僕を巻き込むなよ。それに、100点満点中34点とか25億6千なんとか万光年って何?数字中途半端すぎるだろ。


土井 だめだよ。小説にはリアリティが必要なんだから。実際の人間の反応をもとに小説を書くことで、登場人物はより生き生きと動くんだよ。


菊池 数字に関するツッコミはスルーかよ。




bl 土井が菊池に土井は宇宙人だと告白する シリアス 菊池視点


菊池は、2年3組の教室の扉を開けた。午後6時なので、他の生徒は皆帰っており、教室の中には誰もいなかった。夕日が差し込む窓辺には土井がいた。彼は窓枠に頬杖をつきながら外の景色を見ていた。その様子を見ていると、ふと土井が、今にもどこかに消えてしまいそうに見えた。


すると、土井は扉を開ける音に気付いたのか、後ろを振り返った。


「あれ、菊池君。今来たんだ。」


「そうだよ、土井君が午後6時にここに来てって僕に言ったから。とても大事な話って何?」


すると、土井は、うつむき、そわそわしながら、あー、とか、えー、とか言い始めた。


「ひょっとして何か言いにくい話?」


菊池はそう尋ねた。すると土井は、ためらうようにゆっくりと答えた。


「言いにくいというよりも、君に信じてもらえないのではないかと思っている。」


「どういう意味?」


「そのままの意味だよ。」


「信じるか信じないかは君の話を聞いてから判断する。まずは話してくれないか。」


すると、土井は菊池の方に歩み寄り、彼の両肩に両手をおいた。そして、意を決したかのように目を菊池に向けた。その目はあまりにもまっすぐで、菊池は、普段儚げな彼がこんな目をできるのかと驚いた。土井は息を吸い、菊池に告白した。




「僕、宇宙人なんだ。」




一瞬、空気が止まった。


「え?」


菊池は思わずそう言った。


「いや、土井君何を言っているの?何かの冗談?」


「もちろん、最初はそう思うよね。だから詳しく話すね。」


中略


「ほら、やっぱり信じてくれなかった。」


土井は、どこか諦めたかのような声でそう言った。彼の顔には悲しげな微笑が浮かんでいた。菊池はその瞬間、自分が土井を傷つけたこと、自分と彼の間に修復できない溝を生んだことを悟った。




bl 菊池が土井に好きなタイプについて聞く 二人は両片思い 土井視点 


「土井君は、どんな人と付き合いたい?」


大学の生協食堂で昼食を食べていると菊池が急にそんなことを言い出した。


「何でそんなことを聞くの?」


「いや、僕たち出会って1か月くらい経つだろう。もっと土井君のことを知りたくてさ。」


土井は思わずドキリとした。彼が自分のことを知りたいというのは、単に友達としてであって、恋愛感情を向けているわけではない。それでも、彼が自分に好意を向けてくれることが嬉しい、そう思わずにはいられなかった。


「そうだね……」


ひとまず相槌をうちながら、どのように答えるべきか考える。もちろん、間違っても君のことが好きですとは言えない。多様性の時代とはいえ、世間では同性同士が付き合うことは、まだ十分に受け入れられていない。それに仮に彼が女性でも、いきなり告白というのは非常識だ。とりあえず、適当に当たり障りのないことを言おう。


「やさしい人、かな。」


「やさしい人というと具体的にどんな人」


「そうだね、中略」


言ってしまってから、自分が、菊池君を念頭において、やさしい人を描写したことに気づいた。顔がかっかと熱く、火が出そうだ。ふと彼を見ると、彼は苦虫をかみつぶしたかのような顔をしている。自分が考えているやさしい人とは彼のことだと、彼にばれて、気持ち悪いと思われたのだろうか。羞恥と不安で頭が混乱してくる。

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