うち、魔法少女さやか!よろ〜⭐︎

佐藤 多部杉

第1話 魔法少女にならない?

 シュバーン!!耳を刺すような破裂音と共に、さやかの目の前に何かが墜落した。

「うわぁぁ!!痛っ!……え、何!?」

 爆風に吹っ飛ばされ、困惑するさやか。砕かれたアスファルトの中には、淡い桃色の毛の塊がピクピクと動いている。

「え〜、何これ毛玉?……いや動物じゃん!やばっ!何処から落ちてきたの!?」

 長い尻尾に長い耳。兎と猫を足したような可愛らしい見た目をした小動物はヨロヨロと起き上がる。

「うぉ〜生きてる!!君、凄い勢いで落ちてきたけど大丈夫そ?」

「君は……。」

 突然、空気を裂くような金切り声がさやかの耳を襲った。

「今度は何ぃぃぃぃ!!!!」

 さやかは混乱しながら声のする方に視線を向けると、8階建てのビルよりも巨大な、カマキリの鎌を持ったムカデが出現していた。

「えー……。」

 ありえない大きさの化け物に街を壊されている状況にさやかは唖然とした。

「ねぇ、君!」

 巨大生物に目が釘付けになっているさやかの前に、小動物がよろめきながら歩いてくる。

「ねぇってば!」

「……うわっ、はい!」

「君は高校生?」

「え、あぁそうだけど?」

「急で悪いんだけど、魔法少女になってアイツを倒してくれる?」

 小動物はさやかの膝の上に右前足を乗せて言った。

「は?」

「だから、魔法少女に……。」

「いーや、いやいやいやいや意味不過ぎぃ!!巨大生物?魔法少女!?漫画かよって!!」

 頭を抱えながら悶絶した。さやかの心のキャパシティはとうの昔に限界をに達していたのだ。

「お、落ち着いて!あのね、僕もあの巨大な生物も宇宙から来たんだ。この星、地球はね、あの生物達に侵略されようとしているんだ。」

「しん、りゃく……?」

「そう!それで僕らはそれを阻止する手助けをしにきたってわけ!」

 漫画のような話が淡々とされていく。こんなあり得ない話を普通は信じない。そう思っていたさやかだったが、目の前で起こっていることは、まさに漫画の世界のことで、信じざるを得なかった。

「ってか、うちのお気にのお店の方に向かってない?あのデカいの!」

 某有名コーヒーショップを指差してさやかは叫んだ。

「アイツに壊されちゃう!ヤバっ!!」

「じゃあこのステッキを持って力を込めて!そうしたら魔法少女になって、怪物を倒す力を授けてくれるよ!」

「うーん……しょうがない。今回だけだからな!」

 先端に大きな桃色のハートの宝石が付いている30センチほどのステッキをグッと握る。すると、ハートの宝石が超高速回転し光を放ち始めた。

「うひゃー!何これ!ヤバいっ!」

桃色の光にさやかの身体は包み込まれた。リボンがボディラインに沿って巻きつかれあっという間にフリルたっぷりのコスチュームに着替えさせ、さやかの金髪を器用に結び縦巻きツインテールに仕上げた。

「何これ!すごい!手品じゃん!早着替えじゃーん!!」

「魔法だよ!君は魔法少女になったんだ!」

「魔法すっごーい!しかもコスめっちゃ可愛い!」

「君の持ってるステッキが君の思いに答えてくれる!使いたい武器をイメージしてみて!」

「使いたい武器。ムムム……!」

ポンッと音とともにステッキの形状が柄の長い、巨大なピコピコハンマーへと早変わりした。

「こ、これは……。」

「しょ、しょうがないじゃん!急に武器なんて言われたってわからないしー!こないだ友達と叩いて被ってジャンケンポンやってたんだもんっ!」

 巨大なピコピコハンマーを持ちながらさやかは必死に弁明した。

「まぁ……いいよ。魔法の力であいつにはダメージ入るからね。」

「うん。ありがと。」

「それじゃあ、脚に力を込めて思いっきり空にとんでみよう!魔法の力で空を自由に飛べるようになってるはずだから!」

「脚に力を……。」

 さやかは一旦しゃがんでから思いっきり地面を蹴った。すると、怪物の目線くらいの高さまで簡単に飛ぶことができた。

「おっとと……。やばぁ!浮いてる怖ぁ〜。」

「大丈夫。魔法を解かない限りは落下しないよ。」

「オーケー!じゃあ、やっちゃいますか〜!」

さやかが近づいていくと、怪物は金切り声をあげながら威嚇する。

「はいはい〜!じゃあお仕置きやっちゃうよ〜♡」

さやかは巨大ピコピコハンマーを振りかぶった。

「せーのっ!!!」

 ピコンッ!という軽快な音と同時に怪物の頭は地面に叩き落とされた。

「まだまだ〜!!」

 さやかは何度も怪物の頭を叩き潰した。そうしているうちに、怪物は光を帯び、消えてしまった。


「ふぅ〜。お仕置き完了っと!」

「初めての魔法少女、お疲れ様。」

「おつ〜!じゃあ、はい、ステッキ!ありがと!」

さやかは小動物にステッキを渡そうとする。

「え?一回なったら、三年は戻れないよ?」

「え?」

「言ってなかったっけ?」

「聞いてないしーー!!!!」

 さやかは三年間魔法少女として活動しなければならなくなってしまい、絶望した。SNS、カフェ巡り、プリクラ……やりたいことがてんこ盛りなさやかにとって拘束されることが何よりの苦痛だったからだ。

「無効でしょ!マジ最悪なんだけどー!!」

 悲痛な叫びが木霊する。さやかの魔法少女生活が始まった。

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