勇者パーティを追い出された勇者様。

瑠璃

第1話 勇者パーティを追い出された勇者様

「俺と最強にならないか?」


 思えば、この一言が始まりだった。

 俺のくだらない夢をそのまま言葉にしたような一言が。

 これは一体、誰に言った言葉だったんだっけ……。

 その思い出にはところどころのノイズと、ガラスが割れたかのような景色の欠如が沢山ある。


「あ◼️fakが%、mかrr5◼️%?」


 ほら、誰かも分からない声は、ノイズだらけで聞き取れない。

 俺は「なんて言ったのか分からなかった」と言うために口を開く。


「そうだよ!いつか二人でさ、最強の冒険者になって、世界中に俺らの名前を轟かせるんだ!」


 自分は何を言っている?

 今、俺の意思は疑問をぶつけるために働き続けているはずだ。

 だが、それとは関係なく俺の体の全てが勝手に動いている。


「◼️◼️、こ%wk「)-。でPys」

「別に良いじゃんか!夢はデッカい方がいい!」


 ここで俺は気付く。

 ああ、そうか。これは夢か。

 だからこんなにもあやふやな気分なるんんだと、若返ったような感覚が気持ち悪くてたまらなかった。

 でもなんだろう。俺と話しているこの少女、見ているとなんだか、心が暖かくなる……。


「だからさ、二人で最強を目指そう!」


 俺の意思とは関係なく、少女に手を差し伸べる。

 少女は少し面白そうに笑ってその手を取り──。


「じゃあ、一緒に最強になりましょう?私の勇者様」


 なぜか、その言葉だけは淀みが無く、ハッキリと聞こえた。


♢♢♢♢♢♢


「……んぁ、ふぁああ……」


 目を覚ますと、見慣れた天井が俺の朝を出迎える。

 俺はベットから体を起こし、体を伸ばしながら時計を見る。

 時間は5時ピッタリ。身体が慣れすぎて、もはやこの時間に目を覚ますのが日課になりつつある。

 ただ、なんだろう。いつもとはなんだか違う。なんというか、違和感がある。

 そういえば夢を見てたんだっけ……。

 どんな夢だったかは思い出せないけど。

 多分、少し体調が悪いのだろう。生活に支障は無いはずだ。

 俺は身支度をしてから軽く部屋を掃除して、その部屋を後にした。


♢♢♢♢♢♢


 俺が下の階に降りると、人の気配があることに気付き、リビングホールを覗く。

 どうやら先着が居たみたいだ。

 俺は気付かれないように彼女の座ってる席の後ろに回り込み、彼女の目を手で覆い隠した。


「うわっ!」

「だーれだ!」

「……その声は、ルクくんですか?」

「せいかーい!」


 俺がパッと手を引くと、彼女は嬉しそうな表情でこちらに振り向く。


「おはようございます。ルクくん」

「おはよう。ミセリア」


 お互いに挨拶を交わし、俺はミセリアの隣の席に腰を下ろす。

 彼女の名前はミセリア・アンサングル。

 代々、賢者の名を受け継いでいる家の出身で、当代の賢者だ。

 あ、俺の自己紹介がまだだったな。

 俺の名前はルク・ベルセルク。

 ミセリアみたいなご貴族様出身ではなく平民出身だけど、人類唯一の精霊使いで勇者をやらせてもらっている。

 ちなみに歳は16で、ミセリアよりも3つ下だ。

 そのため、ミセリアとは姉弟のように仲がよく、暇さえあればミセリアと一緒に街に出掛けたりもしている。


「ミセリアはまた勉強か?」


 そう言って俺が視線をミセリアの手元に落とす。

 そこには大量の魔導書と、独自の術式がギッチリ書かれたノートが置かれていた。


「ええ。魔法は勉強してなんぼですから!」


 ミセリアは「これぐらいなんともありません!お姉ちゃんですから!」と笑顔で拳を握りしめる。

 その笑顔の目元には、薄くはあるがくまが出来ていた。

 俺ははあっと小さくため息を吐き、席を立つ。


「ミセリア、コーヒーいるか?」

「え?はい。……でもルクくんにはまだ早い気が……」

「俺は飲まねえよ!?」


 気遣ってやってんだよ!相変わらずの天然だな……。

 俺は苦笑いを浮かべながら厨房へと足を進めた。


♢♢♢♢♢♢


 俺がリビングへ戻ると、ミセリアは本を片付けてニッコニコでこちらを待っていた。

 うん、分かる。絶対、「ルクくんが淹れてくれるコーヒー、楽しみ!」って思ってる。

 だって顔に出てるもん。残念。これはインスタントなので正確には淹れていない。

 俺はミセリアの期待を裏切った罪悪感に駆られながらも、テーブルにコーヒーを置いた。


「あいよ。いっちょお待ち」

「ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げて、ミセリアはコーヒーを口に運ぶ。


「うん、美味しいです」

「そりゃ良かった」


 インスタントだけどね。

 ミセリアはど天然だから絶対気付かない。

 けど、俺から明かすことはない。

 なぜなら、期待を裏切れないから!

 この罪悪感は、ちゃんと墓まで持っていこう……。


♢♢♢♢♢♢


 数時間後、俺らは四人で魔物の森に潜っていた。

 魔物の森というのは、魔王が生み出した超広大な樹海で、圧倒的な魔力量によって魔物が大量発生する森だ。

 その広さといったら、大陸の2分の1を占めており、大陸の中心に位置している。さらに、この森の奥に魔王城が建っているらしい。

 “らしい”というのは、実際に見た者がいないからだ。

 森の奥に行けば行くほど強い魔物がわんさか出て来るし、空からの攻略を試みた人もいたみたいだけど、空飛ぶ魔物も当然大量におり、無惨な死によって失敗に終わった。

 なぜここまで攻略に拘るのか。理由は二つある。

 一つ目は魔王が魔族以外の全ての種族に宣戦布告したこと。これはまあ、どちらかと言えば表面的な理由だろう。

 二つ目。こっちが本命。

 魔物の森が大陸の中心に位置しているから。

 大陸全ての国は、魔王が現れる前から互いに協力し合っていた。

 そのため、貿易する際は大陸の中心が最短ルートとなる。

 だが、魔王が魔物の森を大陸中心部に置いたことによって、その最短ルートが潰れ、全ての国は遠回りの貿易をせざるを得ない状況となった。

 当然、遠回りすればコストがかかり、経済的瓦解が将来的にやって来るだろう。

 そのため、各国は一丸となって魔王討伐を掲げた。


「せやああああ!!」


 と、なんだかんだ耽っているうちに戦闘が終わったみたいだ。

 俺は基本的にサポートの立ち回りで戦闘しているため、前には滅多に出ない。

 まあ、頑張ってくれてるのは精霊たちなんだけどね。


「今日もありがとう。お疲れ様」


 俺は精霊たちにお礼を口にした後、座ってた木の根から立ち上がる。


「ありがとう、二人共。お陰で今日もスムーズに進むことが出来たよ」


 声を掛けたのは前衛を担当している男性二人。

 赤髪の高身長イケメンが『剣聖』レストル・アガルス。18歳。

 スキンヘッドの筋骨隆々な大男が、シェル・アゴニアス。22歳。

 二人とも、俺の大切な仲間だ。

 そんな二人は、俺の言葉を聞くなり、嫌そうな顔をして剣を鞘に仕舞った。


「……ルク」

「ん?なんだ、レストル」


 レストルが怪訝そうな顔で俺を見つめる。

 何かあるのだろうか。

 そう思っていると、彼から思いもよらない言葉が口から発せられた。


「俺たちのパーティから出て行ってくれ」


♢♢♢♢♢♢


「俺たちのパーティから出て行ってくれ」

「……は?」


 俺は意味が分からず、その場で立ち尽くしてしまう。

 俺が、このパーティから出て行く?

 なぜ?どうして?

 俺はフツフツと怒りが込み上げて来る。

 俺はその怒りのままに──。


「どういうことですか!レストル!」


 俺が言葉にする前に、ミセリアが激昂していた。


「どうしたもこうしたも、言葉の通りだ。ルクには、今日限りでパーティを抜けてもらう」

「そんなの、私は聞いてません!」

「言ってないからな」

「……っ!シェルはどうなんですか!ルクくんはこのパーティに──」

「──必要ない」

「どうして!」


 3人がああだこうだと言い争っている中、俺は意外と冷静になっていた。

 よくよく考えてみればそうだ。

 戦闘は仲間に任せっきりで、俺自身は何もしていないじゃないか。

 これを快く思う奴なんていない。

 精霊たちが何か言っているような気がするが、何も聞こえない。


「──分かったよ」


 3人が言い争っている中、その声はよく響いた。

 その声を聞いた3人は俺を見て固まる。


「GUWAAAAAA!!!」


 後ろから熊型の巨大な魔物が現れる。

 どうやら3人は、これを見て固まったらしい。

 だが、俺にはそれは道端に落ちている石ころぐらいにどうでも良かった。


「──頼む」


 俺の口からその声が発せられた瞬間、魔物は見えない何かに切り刻まれ、先程まで魔物だったとは思えないほど無惨な肉塊と化した。その時に返り血が顔に掛かるが,そんなこともどうでもよかった。

 精霊術・一の星『つるぎの精霊・レフィティリア』。

 俺が『斬れ』と命じただけで、どのような硬さを持つ物体も先程の魔物のように切り刻む、斬撃の王。その斬撃は、剣聖であろうと捉えることは出来ない。

 俺は静かにレフィティリアに「ありがとう」と告げ、別の精霊に切り替える。


「──頼む、『精霊術・二の星』」


 俺が次に頼った精霊は、『空間の精霊・マユザ』。

 俺は転移先を指定し、静かにその場を去ろうとする。


「ま、待って……!」


 ミセリアが俺の手を握る。

 いつの間にそんな近くにと驚いている中、マユザの転移が発動。

 俺はミセリアと共に転移してしまった。

 その場に残ったレストルとシェルは、ただ沈黙するしかなかった。

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