第8話 え!?何でこんな事に~
リンと影山蔵人が、土日を二人で過ごすようになり、休日のごはんも一緒に食べるようになっていた。
ファミレスが多かったが、この時期桜花駅近くにオープンしたクレープ屋さんをリンが気に入り、行く頻度が増えた。
そして、6月半ば。
学校でリンがアンナとカレンと話していると、アンナとカレンがリンをジーっと見る。
「え、どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「あ、えっと、」
アンナが微妙な笑顔になり、言葉の歯切れが悪い。
「ねぇ、リン。体重増えた?顔、パンパンだよ?」
「あ、カレン!そんなストレートに!」
リンは笑顔のまま固まる。
「私、太った?」
「多分。」
カレンは、ズバッとリンに言い放つ。
リンは心当たりしかない。
絶対、クレープの食べ過ぎだ。
す実は土日以外にも、学校帰りに寄っては食べていて、運動はしていないのだから、そりゃ、肉もつく。
「少し運動しな?一緒にボクシングやる?」
カレンがリンに言う。
実はカレン、実家がボクシングジムで、カレンも中学時代はボクシング選手として活躍していた。
高校に入ってから、「もうボクシングはいいや。私は青春する。」と宣言し、ボクシング選手はやめたらしい。
が、体型維持のため、ボクシングのトレーニングは続けているらしい。
たしかに、カレンのスタイルは良い。
リンは少し悩む。
リンは、中学時代に美術部に入っていたが、絵の才能はなく、学校でのトラブルがあって、すぐにやめている。
そもそも、運動部じゃない。
体を動かすのは嫌いじゃないが、ボクシングまではと思ってしまう。
「とりあえず、ウォーキングから始めるよ!」
「そうだな。リンがボクシングやったら、すぐ倒れそう。アンナはやる?」
「やらないよ!ムリムリ!」
「だよね~私もガチじゃやらないよ。私、高校生活は彼氏作って沢山甘酸っぱい思い出作りたいからね!」
カレンが力が強く答え、それを見たリンは苦笑いを浮かべる。
その夜。
リンは体重計にのり、現実を見た。
「何でこんな事に~」
リンは叫ぶ。
リンの体重は、4月に比べて、三キロ増えていたのだ。
翌朝。
リンは、朝6時に起きて、ジャージを着て出掛けた。
着いたのは、桜花公園。
影山蔵人が犬と戯れた場所だった。
リンは、スマホを操作してノリノリの音楽を流し、イヤホンで聞きながら早歩きし始めた。
公園の外周は一キロくらいあり、一周した頃には、少し体が暑くなっていた。
「朝は涼しいから歩きやすいね。散歩してる人もいるから私浮いてないし。」
リンは、どんどん歩いていく。
目標は五周。
あと四周すれば終わり。
リンが早歩きしている後ろから、走ってくる足音がする。
リンは
朝から走るなんて、素晴らしいランナーだね!
と思い、追い越される時に顔を見た。
前髪を上げた髪型、鋭い眼光、イケメンフェイス。
って、影山蔵人じゃん!?
リンは気付き、影山蔵人に声をかけようと追ったが、全然、追い付かない。
「はぁ、ひぁ、まっ、て、か、か、影山君!」
しかし、リンの声かけ虚しく、影山蔵人は走って行ってしまった。
「はぁ、はぁ、はぁ、影山君、早。」
リンがまた歩き始め、しばらくすると、後ろから走ってくる足音が聞こえたので、振り向き、影山蔵人を確認する。
リンは、「一周早!」と思いながら、今度は大きく手を振って、影山蔵人を呼ぶ。
「影山君!おはよう!」
影山蔵人もリンに気付き、耳に入れていたイヤホンを外しながら、
「おはよう。冴木さん、朝からどうしたの?」
「人生を踏破するためにトレーニングを、」
「あ、ダイエット?最近、食べ過ぎちゃった?」
「ストレートに言うなよ~」
リンはジタバタする。
「それにしても、影山君、走ってるなんて以外。」
「そう?走るのはタダだから、走った方が得だよ?」
「私、損してていいかも~歩くので精一杯だよ~ねぇ、歩こう?一緒に歩こう?」
リンは影山蔵人に顔を近づけながら言う。
こんなやり取りができるようになったのも、最近、一緒にいる事が多いからだろう。
影山蔵人は、リンの顔が近づいてきて、顔を真っ赤にする。
「さ、冴木さん!近い!分かったから!歩くから!」
リンは笑顔で影山蔵人から離れて、隣に立ち、二人で歩き始めた。
「まさか、影山君がいるとは思わなかったな~いつから?」
「4月からだよ。体力維持のためにね。冴木さんは今日から?」
「そ!色々あってね・・・世の中の体重計、全部無くなれば良いのに。」
影山蔵人は苦笑いを浮かべる。
「でも、1人で歩くより、二人のが楽しいから良かった。」
「そう?なら良かった。」
「ねぇ、私達、友達だよね?」
「え!?まぁ、そうかな。」
「今さら恥ずかしくなった?」
「いや、別に。」
「ねぇ、クーって呼んで良い?」
「え?あ、え?」
「私の事はリンで良いから!はい!呼んで!」
「あ、え、分かったよ。リン。・・・殿?」
「声小っさ!てか、殿って、武士!?」
影山蔵人の顔は真っ赤だ。
リンは勢いに乗る。
「じゃ私ね?クー!」
「あ、はい。」
影山蔵人もといクーの顔が真っ赤に染まる。
リンの顔も赤い。
第三者から見れば、バカップルが名前を呼びあってると思う光景だ。
「じゃ、歩こ?クー。」
「う、うん。分かったよ。リン・・・殿?」
「だから武士か~!」
リンは爆笑しながら突っ込む。
二人は歩き始める。
リンも自分が影山蔵人の事をなぜクーと呼んだのか分からない。
が、なぜかドキドキが止まらない。
でも、嬉しい気持ちでいっぱいだった。
あー、今日は、朝から幸せだなぁーと感じるリンだった。
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