第4話 謎の貴婦人現る
そこにこつぜんと現れた、半世紀以上前の北軽井沢の別荘地から抜け出してきたような貴婦人。
「夏物でしたら、こちらの
シャモの母が提案したほおずきや柳、
「こちらの柄は娘世代でも合いますかしら。娘は高校三年生なのですが」
「そうですねえ。お嬢様の
うつむき加減で高校の制服に身を包んだ少女の写真を見ると、シャモの母はお世辞抜きで感嘆のため息をついた。
「奥様やお嬢様のような方にこそ、着物も着られて
「漢太! 夏物の
久方ぶりに腕の鳴る相手が来たと大張り切りで店奥へと引っ込むと、シャモを呼ばわった。
「うちの愚息です。高校三年生ですが、お嬢様とは大違いで。本当に行儀が悪くって落ち着きのない子でしてまったくもう」
シャモは無言で手早く
「奥様、
シャモ母がシャモに目くばせをして再びしほり母と一緒に
「まあ、お若いのにしっかりした息子さんですこと」
きめ細かく立てた
その軽く下げた頭に、貴婦人の声が掛かる。
「今日は娘と共用できそうな夏物を見に来たのです。こちらがうちの娘。どんな着物が似合いそうでしょう。それから娘の浴衣も仕立てようかと思っておりますが、若い男性ならばどんな見立てをなさるのかしら」
にっこりと口角を上げてスマホを見せる客に、シャモは思わず息を飲む。ほぼ無意識で呼吸を整えたシャモは、常になく落ち着いた様子で口を開いた。
「お嬢様のパーソナルカラーは冬タイプとお見受けいたします。ですので、こちらの
「確かに、私には思いも付きませんでしたわ。娘用だと思うとついつい淡い色や優しい柄ばかりに目が行って。やはり男性は女性と少し目の付け所がちがうのかしら。本当に息子さんはお目が高い事。いっそ娘の
とびきりの上品な笑顔でとんでもない事を口走ると、貴婦人はシャモが入れた薄茶を飲んだ。
「まあ御冗談を! うちの愚息など荷物持ちでももったいない位です」
おほほほほとシャモの母が脂汗を流しながら笑う中、シャモは深く頭を下げて店奥へと引っ込んだ。
※※※
その声が止んで、いつものだみ声がシャモをつかまえる。
「まったく何て日だ。あのお客さん一人でうちの二か月分の売上が立っちまった。こっちは仕立ての段取りを組むから、
無言でうなずいて伝票を受け取ったシャモ。
〔シ〕「やべえ、マジでやべえよ」
店のパソコンを立ち上げて
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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