最終話『親友たちとエロゲ世界へ転生』
これはとある物語だ。
とある少女たちの人生を大きく動かす転機となる出来事。
出会いは芽となりたくさんの触れ合いを通じてやがて花開く。
たとえこの先に何が待っていようとも少女たちは歩みを止めることは無い。彼女たちの心は強いのだから……。
けれど時には弱さも見せる、心が強いと言ってもやはり女の子なのだから。
今はまだ誰にもわからない、この出会いがもたらす結末を……。
その物語に突如現れた貴方というプレイヤー。
貴方は本来存在しないはずの因子。
しかし貴方の存在を世界は認識し、物語は違った方向へシフトすることが確定された。
貴方に抗う知識は無い、けれども貴方は関わることになってしまった。
賽は投げられた、貴方にはふたつの選択がある。
――見守るか……?
――それとも介入するか……?
『見守る/介入する←』
『残念、余計なことをして世界は滅びました!』
「ちょっと待てぇーっ!?」
画面が真っ暗になり、そして表示される『NEW GAME』の文字。
え、これで終わり? バッドエンド?
「いやいやいやふざけんな! さっきのとこに戻んぞ」
さっきみたいな選択肢の所でセーブするのはAVGでは基本だよな。
ロードコマンドよりデータを読み込む。そして再び表示される選択肢。
『→見守る/介入する』
『貴方にやり直しの選択肢はない』
再び画面が真っ暗に、今度はゲームごと終了させられたようだ。
「ヒロシぃぃっ!」
とにかく叫んだ、ゲームの製作者に。当の本人は涼しい顔をしているのがまた腹立つ。
「どうなってんだよこのゲーム! 最後のあれなんだよ、やり直しはないって!」
ヒロシがこちらに振り返る様子が微塵もないので自ら向かう。
パソコンの画面は片方がエロゲで絶賛セックスシーンだ、オートで流しているらしい――しかも爆音で。
そして当の本人はキーボードを一心不乱に打ち込んでいる。
「おいヒロシ、聞けっての!」
「あのなぁ……」
肩を掴もうとするより早く反応が返ってきた。しかし返ってきた声はやけに低くて少しびっくりする。そしてヒロシはゆっくりと椅子を回転させ俺へと向いた。
「人生にやり直しなんかねぇんだよ!」
「……」
「以上」
パソコンへ身体を向き直し作業を再開させるヒロシ、スピーカーからは声優の喘ぎ声とセックス行為の音が流れ続ける。
そして当の俺は空いた口が塞がらず、立ち尽くしていたのだった。
「ちくしょー、なんなんだあいつ……」
ヒロシのたった一言のあれで言い包められてしまった俺はトボトボと席へ戻って来た。
「はははっ、ヒロシらしいな」
「なにが人生だ、ただのエロゲだろ」
「ヒロシにとってはエロゲが人生だからでしょ」
「言えてんな」
ソーマはゲラゲラと笑いながらマウスをクリックしている。彼の画面は主人公がヒロインに告白をしたシーンが流れていた。
「人生にやり直しがないって……そもそも転生したオレたちが言うことじゃねぇよな」
「たしかにねぇ~」
「……転生?」
「いや何でもない、アオはルート終わったか?」
「ん、終わった」
休日前のとある週末。
俺たちはとあるエロゲをプレイしている最中。このエロゲは公式で発売している物ではなくヒロシ自作のオリジナルゲームだ。
絵やBGM、シナリオまで全てヒロシ監修のもの。
おまけにフルボイス仕様となっており男声優は全部ヒロシが撮っている(クオリティが謎に高い)。
女キャラの声もちゃんと女性の声で入っていて、いつ、どこで、誰と撮ったのかはわからん。すべて謎だ。
何故俺たちがこのエロゲをプレイしているのかというと単なるバイト。
ヒロシは不定期的にゲームを作る。ジャンルは様々でエロゲやボードゲームやリズムゲームやらRPGやらなんでもござれ。
そしてゲームをプレイした俺たちはレポートを書いてヒロシに提出する。するとヒロシから報酬が出るわけだ。
ただしゲームは必ず全てやり込まなければならない、今やっているエロゲは全ルートをやってレポートもA4用紙10枚は超えるくらいにまとめないと報酬が貰えないのだ。
全ルートを一人でめんどくさいので俺、ソーマ、ユーリ、アオの一人1ルートずつの役割分担をしている。
ちなみにエロゲを女の子であるアオにやらせるのはどうなのかという問題であるが――。
「新鮮で楽しい」
と、意外にも楽しんでいるようである。
但し――。
「こういうプレイ好き?」
とか、エロシーンで好みを聞いてくるのは止めて頂きたい、そしてそれを実践するのも更に止めて頂きたい。
……話は逸れたが、こういった理由のため今日も四人でヒロシのエロゲをテストプレイしているというわけだ。
「お、当たりの選択肢を引いたらしいぜ」
話をしている間にソーマのゲームは場面が切り替わっていた。エロシーンに突入したのはいいが、告白を終えた主人公がヒロインと即セックスをしている。
「展開はえーよ」
「誰かさんみたいだねぇ」
「だ、誰のことでしょうね?」
「ウサのこと」
アオから冷ややかな目線が飛んでくる。
はいそうです、告白した朱奈とすぐにセックスに突入しましたよー。
そうこう脳内で開き直ってる間にもアオから口づけをされる。
「ちゅっ、わたしが童貞ほしかったのに」
「いやほんとごめんて……」
「もっとキスしたら許してあげる」
「あいよ……んっ」
「唐突にイチャイチャするんじゃねぇよ」
「セックスするならあちらでどーぞ」
ユーリが例の寝室を指差す。
いやここではやらんし……と、言おうと思ったが何度かここでアオたちとしたことがあったな……。
指差されたあの部屋は、初めてアオと一夜を共にした所。別名ヤリ部屋(ヒロシ命名)
あの夜から劇的ビフォー〇フターばりの大改造が行われラブホ顔負けレベルのセックス大特化部屋となった。
あの部屋の中は全面鏡張りになりバスルームまで追加されてしまった(もちろんガラス張り)
超絶防音特化もしており音が漏れる心配もない、盗撮などという無粋な真似はヒロシは絶対にしない。
そんな部屋が誕生したもんだから、もはや親友三人がいようがいまいがヤリ部屋へ彼氏を連行する彼女たちはすげぇなと思う、最初は恥ずかしがってたのに……(アオは堂々としてた)
これがエロゲヒロインのメンタルってやつか……。
とはいえ今の状況でさぁセックスしにいこうという展開にはならん、いやアオさん期待した目をしないで。
こら、腕を引っ張るのを止めなさい、なんか段々力が強く――お願いします勘弁して!?
「話してる所ごめんね」
もはやヤリ部屋へ連行寸前になっている所に朱奈から声を掛けられる。
彼女は今夕食の準備をしていてくれている所だった。
た、助かったぁ……。隣のアオからは『チッ』と舌打ちが聞こえる。
いや、ヤリたくないわけじゃなくて、いついかなる時でも俺は雰囲気って大事だと思うんですよ?
もはや誰にしている言い訳なのかもわからないが。
「夕食に使う食材が足りないみたいで……誰か買いに行ってくれない? 私今ちょうど火を使ってる所で離れられないの」
「お、じゃあ俺いくよ」
「ありがとウサくん」
「……逃げた」
逃げるわけではない、彼女からの頼み事に率先して引き受けるのが彼氏というものだ。
アオの非難する目線を避けながら出かける支度を始める。
――そこへ。
「あと、ウサくん」
「なんだ?」
「……んっ!」
朱奈が人差し指を自身の口元へ当てている。
「私たちの誰かにキスしたら残りの二人にもキスする約束でしょ?」
「あぁ、そうだったなごめん」
「いいよ、だから早く……んっ」
軽く口を合わせるだけのキス、それだけではあるがやはり愛する彼女たちと唇を重ねるとそれだけで幸せな気持ちに満たされる。
「あと夜は覚悟しててね?」
「あの……もう確定なんです?」
「もちろんっ、あ、碧依はフライングしたから一番最後だからね」
「ガーン……」
朱奈へと宣告を受けてショックを受けるアオ。
それを見たソーマたちはゲラゲラ笑っている。
「じゃあいってらっしゃい。あ・な・た」
「……おう」
まるで夫を送り出すかのような口ぶりに思わず照れる。
結婚か……。
こうして三人の女の子たちと結ばれているから普通に結婚という形は認められず事実婚という形になるだろう。
それでも彼女たちが傍にいてくれるのなら、きっと幸せな生活になるだろう。そんな予感がたしかにあった。
「ヒロシ先輩ゲームの喘ぎ声大きいですっ! ナノちゃんの活躍が聞こえないです!」
「……」
「音をさらにおっきくするなですっ!?」
大画面テレビで魔法少女モノを見ていた翠から苦情が入るも無言で更に音量をあげたヒロシ。
翠がぷんすかと怒っているが、いつもの事といった様子で諦めたようだ。
彼女たちが居てもいつものように爆音でエロゲをプレイするヒロシである。
ちょっと怒られたぐらいじゃ効かないのは当たり前だろう。
「翠」
「なんですかウサせんぱっ――」
「ちゅっ…ん、ごめんな急に」
「んぅ、いいです。ウサ先輩とはいつだってキスしたいですからっ!」
えへっ、と翠は、はにかんだ笑みを見せた。
「あと、今夜……私は大丈夫な日ですからね?」
「お、おう……」
「いっぱい愛してくださいっ、でも本当は早くウサ先輩との赤ちゃんが欲しいです……」
「……翠が大学を卒業するまでは我慢してくれ、今度こそ翠のお父さんと兄貴に殺される」
「えへへ、そうでしたっ」
無地来家のご両親に挨拶へ行った日、当然のように殴られた。
何故か同席していた無地来白にも。
まぁ結果的に交際は認めてもらえたのだが、子供は絶対に翠が大学へ行き、無事卒業するまで絶対に作らないようにと念を押された。
多分破ったらその時は殺される予感が確実にある。
あと無地来……もう面倒だから義兄でいいや、彼から最近よく絡まれる。
内容は決まって『最近の唯莉君はどうだ?』『今度デートに誘いたいんだけど彼の好きな所を教えてくれ』とか。
自分で何とかしてください。
あと義兄と相川は親友になったと聞いた、心の底からどうでもいい。
とまぁ、大分話は逸れたが彼女にも買い出しに行くと伝えその場を離れる。
「ところでヒロシはなにやってんだ?」
買い物に出掛ける用意を終え、ヒロシの所へ目を向けると一心不乱にキーボードを叩くヒロシを見る。
パソコンのモニターには大量の文字が。
「小説を書いてる」
「へぇ~、また何かゲームの原案でも作ってんのか?」
「いや……これはそうだな。これまでの日記みたいなもんだ」
「日記?」
訝しんで首を傾けていると画面をスクロールさせヒロシがすっと椅子を移動した。
見てもいいということだろう、画面を見てみると……。
「『親友たちとエロゲ世界へ転生』……これってさ」
「あぁ、そうだ。お前の物語だ」
彼はふっと笑みを零し。
「ウサは報われなかったヒロインたちを幸せにしてくれた。おれがあの時女神様へ望んだことを叶えてくれた……本当にありがとう。お前のおかげでこの物語はハッピーエンドを迎えられた」
ヒロシからの感謝の言葉、なんとなく後ろを振り返る。
エロゲのテストプレイを続けるアオ、ソーマ、ユーリ。
大画面で魔法少女を応援する翠。
台所で料理を作る朱奈。
……そっか、これがハッピーエンドってやつか。
――でもよ。
「その小説は終わるし、本来の原作も時期的に終わったはずだけどさ、俺らはこれからも生きていくだろ」
「あぁ、もちろんだ」
「んじゃまだまだだ。これからももっと楽しく生きていこうぜ」
ぐっとサムズアップをしてヒロシへと伝える。ヒロシは薄く笑い『そうだな』と一言言った。
「あ、まだウサいるよ」
「早く買い出し行ってこいよ」
「ウサ、お腹空いた」
「ナノちゃん頑張れです! あ、そこ、敵が迫ってるです!」
「ウサくーん、気を付けてね!」
それぞれ声を掛けられる。
俺は『行ってきます』と告げてヒロシ家を出た。
夕暮れの街並み、転生先はエロゲだけど今の俺にとっては現実。
これからも俺たちの人生は続いて行く――。
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