緋星の君
月餠
第1話
「ヨダカさん、早く早く!依頼者さんが待ってるわ!」
夏の太陽の光が降り注ぐ碧海色の上、大小の帆船達が行き交い、色とりどりのガラス細工やタイルが白磁色の街を彩るサントラルカ島。その中の複雑に曲がりくねった路地を、薄青色の蝶が優雅に飛んでいく。そしてそれを足早に追いかけていた少女…ローズが振り返ってオレの方を見てそう言った。顔の左側で三つ編みにした横髪が、彼女の動きに合わせてピョンピョンと元気に跳ねていた。
「はぐれて迷っても知らないわよー!」
「大丈夫だって。そっちこそちゃんと前見ないと危ないぞー」
そう返しながら、彼女の後ろを歩いてついていく。上空から見た経路は事前に覚えてきているし、そうでなくてもローズを見失ったりなんてのはありえないと思う。肩上で切り揃えられた薔薇色の髪を持つ彼女は、遠目からもかなり目立つし、実際すれ違う住民達全員が振り返って彼女を見ていった。とはいえその後に続くオレの方も、同じくらい周りから見られていたのだが。まぁ、彼らの姿を見るに、綺麗な赤髪の女と同じくらいには、暗褐色の肌と長い黒髪を持つ男はここでは目立つ存在なのかもしれない。
「着いた!ここが依頼者さんの家ね」
ローズは足を止め、汗を拭いながら家を見上げた。オレも道案内役のために魔術で変身させた蝶を、依頼者からの手紙に戻しつつ、その家と表札を確認する。
「…確かにここまでは空間転移魔術は使えないなー。」
「でしょ?あれは便利だけど、こんなに建物が上下にも入り組んでたら、誰の部屋にお邪魔するかわからないもの。」
ローズは笑いながら、オレと同じく白い外衣とその中の衣服を軽く正して、チリンチリン、と玄関のベルを鳴らした。少しの間の後、家の主人らしい男が陰鬱そうな面持ちで扉から顔を出した。
「はい、どちら様でしょうか…」
「こんにちは、今回ご連絡をくださったチェン・ローレンさんですね?私は…」
「もしかして、スピネル先生ですか?ああ、お待ちしておりました!お願いします、妻を助けてください…!」
手紙を見せながら話すローズの言葉を遮って、男は隣に立つオレの片手に縋りつくように両手で握りそう言った。オレは思わず真顔になりかけたが、笑顔を取り繕ったまま手を離してローズを指した。
「あー…すみません、オレは一応助手でして…ヨダカと申します。スピネル先生はこちらですねー」
「えっ?」
男は困惑の声を上げて隣のローズを見た。
それに対して、彼女は屈託なくニコッと微笑んだ。
「私が魔術医療師のローズ・スピネルです、以後お見知りおきを!」
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