第36話 支配

全力で足を回し、快の下へと走る。早く、早く戻してあげないと心が蝕まれてしまうかもしれない…


「快…?大丈夫か…?」

「五月蠅い。話しかけるな。もう僕はここに居られない。」


身を翻し、僕らの視界から急に消える。【隠密】を使ったようだった。

「ほんと…死神と適応しなくてよかったよ。まさか、こんな風になっちゃうなんてな…」

「?」


走るときに下ろした愛瑠が隣に立ち、状況が良く分かっていない顔でこちらを見てきている。あぁ…こいつにも説明しなきゃな…どうしよ。


とりあえず、近くにある棒で地面に文字を書く。

『快が、なんだろう。闇堕ち…?みたいなことになった。それで、「もう僕はここに居られない」なんて言って、どっか行った。』

「へ…?なんれ?」

酷く驚いた顔でこちらを見る。それはそうだろう。クラスメイト、しかも好きな人がそんな事になってたら無理はないだろう。


『まぁ…追跡者で位置は追えているから大丈夫。ほら。追いに行くぞ。好きな人だろ。』


愛瑠の顔が真っ赤に染まる。図星を突かれ、っ…あ…あ…なんて言っていたが、それを気にせず走る。数秒後、フリーズしていた脳が再起動したようで、速度を上げて僕の隣に並んだ後、同じスピードで走る。


風に当たっているが、愛瑠の顔の火照りは収まらない。むしろ、さっきより酷くなったような…

そんなことを呑気に考えていると、急に胸倉をつかまれる。


「なんれそんなことをしってふの!?だれにもいっへなかったほとなんだけと!しかも、はひめて、あんははあっはのにおはしい!」

「ちょっと全部聞き取りづらかったが、お前の好意の寄せ方はわかりやすいぞ?


そうはっきり言うと、更に顔を紅潮させ、何も言わなくなってしまった。

。ただ、僕の胸倉にかかっている手はより一層強さを増し、危うく落ちそうになったが。



「………」


先輩から貰った能力をフルに活用し、逃げるようにして、いや、逃げてきた。先輩なしじゃ生き残れない境地だって何度も経験した。なのに、僕はその先輩に悪態をつき、見捨てた。まるで自分が正しいと言わんばかりに。


この死神の能力は僕が使ってはいけないかもしれない。使ってしまったら、自我を持っていかれるような。そのような感覚がしてしまうから。


なのに、死神の同化が解けないのはなぜだろうか。先輩の場合はこの能力を使った挙げ句、死んだ。だけど、自分が死なないということは死神に気に入られたか、適応したか。


「最悪だ…僕…」

側の木に凭れ掛かって泣く。こんな森の中に入ってしまったからには自分でどうにかするしかない。分かってる。分かっている。だけど、後悔と不甲斐なさが自分を襲う。


「なぁんだ。まだ泣けるぐらい自我持ってんじゃん。」

何回も、何千回も聞いた声。声がした方に顔を向ける。


「先…」

助けを求めようとした。早くここから救ってくれと願った。だが、無常にも脳内に声が響く。


『壊せ。殺せ。お前はもう人殺しだ。朱く手を染めたんだよ。もう戻れない。全て壊しつくすしか選択肢はないんだよ。』


抗う意思とは裏腹に、声と身体は死神に支配される。


「…コロス」

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