義兄の館で溺愛生活。~婚約者候補になったので義兄の館で同居生活を始めたら溺愛されて困っています~

シュンスケ

第1話 同居生活の始まり


 王都リンデベルグの舗装された道を、一台の魔導馬車が走っていく。

 馬車はとある館の前でゆるやかに停止した。

 御者が扉を開けると、二人の少女が顔をのぞかせた。


 先に馬車から降りたエディリスは二階建ての建物を見上げて感嘆の声を上げた。

「立派な建物ね。これからここで生活をするのね」

 約100年前に建てられた館には重厚感が漂っていた。 

 続いて降りたフローリスは、眉をしかめて館を眺めた。

「まるで呪いの館みたい」


 館の入り口には茶色い髪の細身で長身の青年が立っていた。

「ようこそフィッシャー邸へ、義妹いもうとたち。僕はリチャード、王立魔法学園の4年生だ」

 義妹いもうとたちはスカートの端を少し持ち上げて挨拶をした。

「はじめまして、長女のエディリスです、この度4年生に編入します」

「次女のフローリスです、あたしも4年生です」

 シルバーブロンドの髪を背中で纏めたのが姉のエディリスで、肩で切りそろえたのが妹のフローリスだ。


 リチャードは二人の義妹いもうとたちを館の中に招き入れた。

「同級生の義妹が二人もできるなんてこんなに嬉しいことはない。双子なのかい?」

「いいえ、年子なんです」

「そうか。長旅で疲れただろう。夕食の時間までゆっくりと休むといい」

「はい、リチャード義兄様おにいさまとお呼びすればいいですか?」

「それでかまわないよ」

 義妹いもうとたちは同年代のメイド、パメラの案内でそれぞれの部屋に向かった。


 先に荷物の整理が終わったフローリスが姉の部屋にやって来た。

「顔はまあまあだったね」

 身長は185センチ以上ある義兄は、ある意味大きな館にふさわしい主と言えなくもなかった。

 エディリスはクローゼットの中を確認して、パタンと閉じた。

「わたしたちは選ぶ立場ではないのよ」

「知ってる」

 妹の隣に腰を下ろしてエディリスは言った。

「フィッシャー家は上級貴族よ。ここにいれば何不自由なく暮らせるわよ?」

「興味なーい」

 足をぶらぶらさせながら返事をする妹にエディリスは苦笑した。

「その態度はどうにかならないの」

「なりませーん」

 義父と母の結婚に妹はもともと乗り気ではなかった。それが影響してか、いまだにこの態度である。

 投げやりというか、無関心というか。

 義兄の存在が、また状況を難しくしていた。

 あの話さえなければ、妹の態度ももう少し軟化していたのではとエディリスは思った。


 夕食時、さっそくリチャードがあの話を切り出した。

「君たち二人のうちどちかが僕の婚約者になる予定だけれど、もう聞いているかい?」

 エディリスは食事の手を止めて返事をした。

「はい、学園での成績が優秀な方が義兄様おにいさまの婚約者に選ばれると聞きました」

「成績が絶対条件ではないよ。いろいろな要素を加味して最終的に僕が決めることになると思うけど。ちなみに、君たちの編入試験の結果は?」

「わたしはCクラスでした」

「あたしはAクラスでーす」

「エディリスはもう少しがんばったほうがいいみたいだね」

「お姉様は、栄養が行く場所が他の人とは異なるのよねー」

「ちょ…。食事の時間にその話はやめなさい」

 義妹いもうとたちの会話をリチャードは顎に手を当てて聞いていた。

「ふむ、なるほど」


 翌朝、礼拝堂で朝の祈りを捧げているとメイドがやってきた。

「お嬢様、馬車の準備が整いました」

「はーい」

 赤毛のメイドのパメラに告げられて二人は急いで玄関に向かった。

 義兄の手を借りて乗り込むと、リチャードが御者に声をかけた。

「ライオネル、出してくれ」

「はい、坊ちゃま」

 魔導馬車はゆっくりと走り出した。

 この日から、リチャード、エディリス、フローリスの三人は、魔導馬車に乗って王立魔法学園に通うようになった。

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