星掘りの雪モグラ

五三六P・二四三・渡

雪中船

 水はすべての代わりになる。

 水は肉体の代わりになる。

 氷は大陸の代わりになる。

 雪は土の代わりになる。

 雲は日の代わりになる。

 流れは時の代わりになる。

 雪は星の代わりになる 

 雪はあなたの代わりになる。


 ◇ ◇ ◇


 何光年もの距離を――振り積もった雪の中を調査隊たちは雪中船で掘り進んでいた。

 流動する積雪のうねりに舵を取られ、数年もの漂流を経験した彼らは、流石にもう故郷の地は踏めないと絶望しきっていた。しかし、はるか遠くから、わずかではあるが計測器が重力を観測た。起死回生とばかりに全力で燃料を投入した結果、小惑星帯から抜け出し、観測した重力源への道筋を見つけることが出来たのだった。 雪の中は実に奇妙な法則が働いている。常識では計り知れないと言っていい。地球時間で数年前、敵対するコロニーの雪中船と交戦となり、見事破壊することに成功した。しかしその数か月後、全く同じ型番の船と遭遇した。そして交信したところ、乗組員もまた全く同じ人間だったのだ。隊長は恐怖に駆られて、逃走を図り大きく進路から外れてしまったのだった。

 考えられる理由としては、雪の中では時間が歪んでいる、と言うことだった。雪は積もりすぎて土に似た性質を持っている。そして地層とは地下へもぐるほど過去に遡ると言える。だがこの広大な雪中空間にとって上下など意味をなさない。また流動する積雪により、地層ならぬ雪層は意味をなさない。これにより時間の流れがいびつになっているのだった。

 そのことを踏まえて、船は進んだ。

 見つけた重力源は間違いなく星であった。

 奇妙なことに星に近づくにつれて雪は柔くなっていった。これは重力によって積雪が押しつぶされ固まっていくという常識とは真逆の事実で、これが意味することとは一つ。

 先客がいるはずであった。

 一度別の雪中船が通ったために、雪がほぐされているのだ。すなわち星へつ続く道はわだちとも言えた。

 その先客が友好的であるとは限らない。このまままっすぐ進めば、争いになるかもしれなかった。


 隊長は考える。そもそもの話、この船の目的は新天地の調査である。

 雪――と言っていいのだろうか。常夏に降り注いだそれは最初は異常気象と言う甘い言葉で表現された。「これは雪に似た別の何かである」と断言されたのは大地を埋め尽くし、海を白く染め、成層圏よりも高く積もった時点でようやくだった。人々はシェルターに閉じこもり雪中船を作って何とか生きながらえていたが、限度はあった。資源をめぐって争いが起こり、雪の上に多くの血が染み込んでいった。そして戦いに夢中で、いつの間にか地面と言うものを見失ってしまった。

 現在ではコミュニティごとに雪洞コロニーに住み着き、何とか生きながらえている。生き方自体は雪が降る前から変わってはいなかった。だからこうやって新天地を探していた。

 つまりは。

 「先客」とやらが敵である可能性は非常に高い。先にこちらが気付いたのだから、先手必勝のチャンスがあった。


「武器を準備しろ」

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