泳げぬ人魚に讃美歌を
@fukdb6u8rv5
プロローグ
「〜♪」
世界中の優しさを掻き集めたかのような声が、僕の耳をフワリと撫でた。柔らかな温もりを感じ、そっと瞳を閉じる。何百回、何千回と聴いてきたメロディ。続きのリズムも、音程も、全て知っている。それなのに飽きないどころか、もっと聴きたいと思わせるのは、彼女が生まれ持ったある種の才能だろう。
爽やかな日差しが僕らを照らす。深呼吸したくなるような空の下、深い青が向こうへ引いては押し寄せる。控えめに輝きを放つ砂浜の上、彼女が気持ちよさそうに歌を歌う。くるり、と一回転。純白のスカートがフワリと揺れる。無邪気に笑いながら音色を紡ぐ姿を見て、ああ、彼女は本当に音を楽しんでいるのだな、と眩しさに目を細めながらカメラを構える。
カシャリ。
「…あ!ねえ、撮ったでしょ、今!」
麦わら帽子を片手で押さえながら、彼女が怒ったように振り向く。曖昧に微笑むだけの僕を見て、文句を垂れながらも撮ってくださいと言わんばかりにポーズを取った。また少し笑いながら、僕はカメラを構える。カシャリ。小気味の良い音が海辺に響いた。
「…撮れた?見せて見せて〜」
彼女の無邪気な声が聞こえ、カメラを下ろす。レンズがピカリと光った。砂の乾いた音が、僕らの距離を知らせる。
ファインダー越しに覗いた彼女の姿は、今でも脳裏に焼きついている。
泳げぬ人魚に讃美歌を @fukdb6u8rv5
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