風見星治

インタビュー録音

 ――それではご友人のお話について聞かせて頂いても宜しいでしょうか?


「はい。アイツ、いわゆるミニマリスト的な思考に傾倒していて、とにかく家に物がないんですよ。家に行ってみれば『本当に何もない』と全員が口を揃える位には。なんですが、ある日ソイツの家に行ったら何もない部屋の白い壁に絵が飾られていたんです。


 ――その絵というのは、いわゆる絵画ですか?あるいはアニメとか映画のポスターの類でしょうか?


「ええと、絵画ですね。酷い、それはもう酷い違和感でしたよ。部屋の中には本当に無駄なものが何一つなくて、部屋の端には仕事用に使う本がギュウっと並べられた小さな机、その直ぐ傍には折りたたまれた布団。服はクローゼットに片付けられる分だけ、それ以外だと後は小型の冷蔵庫に洗濯機位しか部屋に無いんです。そんな殺風景な部屋の壁に大きな絵がドンと飾られてたんです。大きさはえーと、確か大体50センチ以上はあったと思います」


 ――その絵についてもう少し詳しく教えて貰えますか?どんな物が描かれていたんでしょう?


「それが酷く不気味というか、抽象的というか、絵心が無いので上手く表現できないんですけど、多分……不気味な夜の森、ですかね?真っ黒い中に幾つか縦の線みたいなのが入っていたから、恐らく森か何かだと思います。その森に赤く丸い染みというか点というか、まるで目みたいな二つの円が描かれたよく分からない絵でした。スイマセン、上手く表現出来なくて。ともかく、酷く不気味で部屋の雰囲気に全く合わないんです」


 ――そのご友人、絵画収集とか描画が趣味という訳ではないんですね?


「はい。絵よりは字の方、小説とか好きでしたね。だから尚の事で。だから、一度聞いてみたんですよ。そしたら返答は一言、『知らない』でした」


 ――成程、おかしな話ですね。絵を買う趣味があって部屋に沢山飾ってある、とかなら記憶にない絵があったとしても不思議ではないんでしょうけど。でも何もない殺風景な部屋だったんですよね?となると誰かから貰った、とかでしょうか?その辺について何か知っていますか?


「いえ。そんな話もしていなくて、『何時から』とか色々と聞き方を変えてみても『知らない』の一点張りでした。でも、間違いなく買ったか貰った筈なんですよね。まさか拾ってきたなんて有り得ないでしょうし、貰うにしたってあんな不気味な絵なら頼まれたって。だから、アイツ何時の間にか部屋に飾られていた絵と一緒に暮らしていたって事になるんです。何時からあるか不明な絵も、その絵が飾られた部屋も、何より由来不明の絵と暮らす同僚も、何か酷く不気味でした。あぁ、そういえば」


 ――どうされました?


「ソイツとの最後のやり取り何ですけど、そう言えば変な事を言っていたなって」


 ――どんな内容です?


「誰かに見られている気がする、って。そんな事をボソッと零してました」


 ――最後、という事はその後に?


「はい。死んだのはその3日後でした。見つけたのは俺で、その後の警察とのやり取りで死因を教えて貰いました。心臓発作だったそうです」


 ――そのご友人、同年代ですよね?とするとまだ20代ですか


「はい。で、漸くココから本題になるんですが。警察の人が妙な話をしていたんですよ」


 ――漸くですね。で、妙な事というのは?


「凄く苦しんでいたらしく、壁をひっかいていたそうです。ソレだけならただ苦しかったんだろうというのが現場を見た誰もが思ったそうなんですが、ただ……」


 ――ただ?


「扉を掻き毟ったような痕跡があると話していまして。で、それを見た何人かが『まるで何かから逃げようとしている』様に見えたと言っていたそうです」


 ――つまり、先の話題にあった不気味な絵から逃げようとしていた、とお考えなんですね?


「はい。で、実は問題なのはこの先でして。もっと不思議な事が起きたんです」


 ――と、言いますと?


「絵が、消えたんです。アパートの管理人とご両親が遺品の整理やら何やらで部屋を訪れた時にはそんな絵なんて無かったと語っていました。気付いたのは管理人で、そういえば壁に掛かっていた奇妙な絵が消えていると両親に相談した事で交友関係のあった俺に連絡が来まして。そもそもあの日以降、一度もあの部屋に行ってないんですから持ち出しようが無いんですよね。実際、警察の人が管理人と一緒に防犯映像見たんですけど、関係者以外の誰も部屋に入った形跡が無かったらしいです。不審な人物もいなければ、絵を持ち出した形跡もない。本当に、まるでフッと消えてしまったみたいに絵は何処かに行ってしまったんです」

 

 ――つまり、何時の間に部屋に現れた絵画が借主の死亡と同時に姿を消してしまった、と


「勿論、僕も警察も管理人さんも妙な絵画が死因だ、なんて荒唐無稽な事は考えていませんけど。だけど、あの不気味な絵を中心に幾つか奇妙な出来事が重なってしまうと嫌でも意識してしまいまして。僕の話はこれで終わりです」


 ――成程。有難うございます。ところで、私の方からも一つ伺いたい事があるんですが宜しいですか?


「はい。とは言ってもこの話はこれで全部で、後は特に何もないですけど。何です?」


 ――えぇ、あの……先の話にあった絵画というのは、あの壁に掛かっているヤツとは違いますよね?話に聞くモノと余りにも類似点が多いので気になったんですが


「え?壁の絵?あぁ、あれ……何時からあるんだっけ?」

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