ALTERNATIVE

たびたび

序章 繁栄は1日にしてならず。

序章 オルビスの英雄譚

〇 ある英雄の戯言

『…もし、私たちに理想を持つ権利があれば、世界を再建できたかもしれない』

『…もし、私たちに真実を知る権利があれば、世界を守護できたかもしれない』

 だが、それは戯言であると『真理』が証明している。

 始まりは終わりへ向かい、終わりは始まりへと向かう…

 そして『世界はそうやって絶えず循環する』と『真理』は世に知らしめた。

『——ならば、私にできることは、何なのだろうか?』

 英雄は、英傑たちにそう尋ねた…


〇 英傑達の晩餐


・ある純粋な預言者の場合

『…かつて栄華の時代を迎えた繁栄の國はもうどこにも存在しない。なぜなら、世界の運命が定まったことをきっかけに、人類はその記憶を放棄したからさ。それを知ってなお、真理の定義を覆し、運命の奔流に抗うと決めたならば…真実を杯に注ぎ、僕とともに理想について語ろうではないか』


・ある勇敢な戦士の場合

『人類は敗者という烙印をその身に刻まれた。しかし、人類にとって敗北は灰に返ることではない。勝利を掴み取るための過程である! そして、それを『運命』は知らないのだろう…。ならば、俺や貴様にできることは、人類の進む道をほんの少し照らすことだけだ…』


・ある聡明な学者の場合

『人類に与えられた特権は、絶対的な知者になれることでした。ですが、人類はその頂に到達することができなかった。人類の指導者として、これは恥ずべきことだと思います。ですから、私は人類が再び返り咲く時が来ることを信じて、それまで時間を稼ぐとしましょう。そして、あなたは、その時が来るのを待てばよいのです…』


・ある嘘つきの魔術師の場合

『人類に価値をつけようとする者は多くいる。ある者は、人類は欲にまみれた獣であると断言し、ある者は、人類は世界の運命さえも変えてしまう存在なのではないかと仮定した。けれど、私からすれば、どちらも些細なものさ。だって、人類の価値は私や君でさえ定義できないのだから…』


・ある熱心な開拓者の場合

『武器を手に取り、土地を開墾し、自由と責任を手中に収めた人類よ。ここで足を止めることが貴様らにとってどれほどの苦痛か、今一度考えてみるといい。豊穣の大地は耕し続けなければいずれ腐り、生命の基盤は再び起源に返る。貴様らはそれでもなお立ち尽くし、己の弱さと愚かさを責めるのか…』


・ある冷徹な救世主の場合

『過去を語るのはもうやめましょう。私たちが向かうべきは未来なのだから。…世界の運命が定められようとも人類には必ず明日が来ます。そして、明日を迎えるために今日があるのです。後悔も自責の念も後で清算すればよいことです。それよりもまず、私たちがやるべきことは、今日に全力を尽くし、反省を心に刻むことです…』


・ある厳格な王の場合

『起源も終焉も…いずれ我々の前に立ちはだかる試練であると心せよ。そして、そのために理想を掲げ、真実を飲み干すのだ。さすれば、運命の歯車は動き出し、やがて太陽が世界に光を灯す日が再び訪れるだろう。そして、人類がその未来に到達した時、我は喜んでこの身を捧げ、不条理な秩序の全てを打ち砕いて見せると誓おう…』


〇 そして英雄は心を燃やす

『ああ、なんと杞憂なことであったことか…』

 深く考えずとも、最初から答えは出ていたのである。

 『真理』が『世界の運命』を定義したとしても、人類は揺るがない。

 人類は己が生を全うするために『真理』にさえ抗うのである。

 ならば、私にできることなど、とても簡単なことではないか。

『人類が運命を変えるその日まで、私は待ち続ければよいのだ』

 そして人類が運命を変えたその瞬間に、私が目覚め、世界の秩序を変換すれば、

 ——人類は新たな未来に進むことができる。

『ああ、真理よ。お前は、人類のことを何も分かっていない…』

 ――人類は必ず運命を変える。

 ——人類は必ず世界を変える。

 英雄はそう信じて『箱庭』の扉を閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る