第54話 デート延長戦?

 アキナに予定を伝えると、さっそく明日行きましょ! となった。


 なんだか、えらく前のめりな気がするな。

 ……何かまた、商売のネタを掴んだ、とかだろうか?



 待ち合わせ場所はいつもの教会前。

 目標はアームズフォー……、いかん、ちょっと思考がずれた。


 アキナは俺が着いたときには既に待っていた。


「ハクト、おはよう! 今日はよろしくね!」


 今日はなんとなく、服装がお洒落しゃれに見えるな。

 それに、雰囲気もどこか気合いが入っているみたいだ。


 今日の用事はいったい何なのだろう。

 ……何だか、デートとは違う理由でちょっと緊張してきたな。

  

「それじゃ、ハクトはどこか行きたいところはある?」


 あれ?

 今日はアキナに誘われたってことで、アキナが主導権を握って何かをするものだと思ってたけど。

 

 ……うーむ、やっぱり聞いてみるしかないか。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うしな。

 

「違ったらすまないけど、今日のデートはアキナが俺に何か用があって誘った、ってわけじゃないのか?」


「えっ? あ、まあ、そうね。それじゃ、まずはちょっと街を案内しようかしら」


 アキナに聞いてみると、何となくあせったような感じで答えて来た。

 ……どうしたんだろう?


 とりあえず街を散策しつつ、アキナが色々な説明をしてくれた。

 ただ、何かを見つけるとその都度つど説明をしてくれるため、段々と話疲れしてるようだった。


「なあ、アキナ。そこまで暑くはないとはいえ、歩いていたら喉がかわいてきてないか? この辺りに教えてもらった喫茶店きっさてんがあるんだが、一度そこで休憩しないか?」


「そ、そうね。確かに話をしていたのもあって喉が渇いた気がするわね。それじゃ、行きましょう!」


 ということで、前にホムラと行った喫茶店に行くことにした。

 ……何かに焦っているのか、緊張しているのか、理由はわからないけど、これで落ち着いてくれるといいんだけど。



「このお店は初めて入ったわね……。けど、この雰囲気はいいわね、気に入ったわ。教えてもらった、って言っていたけど、誰に教わったのかしら?」


「ここはホムラ、じゃなくて火魔皇えんまこうと来たことがあるんだ。それと、彼女がカツサンドを頼んでいたんだけど、かなり大きかったな」


「そうなのね。……もしかして、軽食系のメニューは量が多いのかしら? ハクト、もしよかったらどれかひとつを頼んでシェアしない?」


 確かに、あの大きさなら一人で食べるには大分多そうだったからな。


「そうするか。アキナは食べたいものはあるか? 俺はこれとこれが気になるかな?」


 と、この前見たカツサンドとフレンチトーストを指さした。

 ……異世界でフレンチって、とは思ったけど、まあ翻訳さんがなんかいい感じに訳した結果だろうな。


「うーん。色々気になるけど、やっぱり大きいカツサンドっていうのを見てみたいわね。……それじゃ、カツサンドにしようかしら」


 ということで、それぞれの飲み物とカツサンドを頼んだ。

 俺はアイスコーヒー、アキナはよくわからないお茶、多分異世界特有のものだろう、を頼んでいた。

 

 少し待って、運ばれてきたカツサンドを見たアキナが


「サイズも大きいし、分厚い……。軽食として食べるには、ちょっと多いわね」


 やっぱり、改めて見ても何かの辞典くらいのサイズがあるな。

 食べやすいようにカットしてあるから、食べるのが物理的に大変、ってことはないけど。


「それにしても、火魔皇はこの街について色々知っていそうね。わたしも結構この街にいるけど、このお店は知らなかったわ」


「それと、鉄板焼きのお店にも行ったな。高かったけど、ワイバーンのステーキを提供してたよ」


「そうなの? ワイバーンの肉が食べられるお店って珍しいし、そのお店はすごいわね……」


 確かに、結構高級な感じだったもんな。


「それに、このお店もそうだけど、そういった珍しいお店を知っている火魔皇とは、一度会って色々話してみたいわね」


「結構気さくな感じだし、お互い、時間のあるときにでも会ってみるといいんじゃないか? なんなら俺が連絡を取ってもいいしな」


 認識を誤魔化してはいたけど、店員さんとかとは気楽な感じで話してたしな。


「そうね。それじゃ、今度お願いしちゃおうかしら」


 アキナは魔族とは仲良くしたがっていたし、ホムラも人間界の人ともっと交流をしたそうだったから、いい機会になりそうだ。


 それにしても、アキナは喫茶店に入って話してるうちに、落ち着いたみたいだな。

 よかったよかった、なんて思っていたら、


「注文した物も食べちゃったし、そろそろおいとましないとね。次は……、ええと、今カツサンドを食べっちゃったし、そもそもお昼にはかなり早いわよね。……うーんと、その、どこに行こうと思っていたか忘れちゃったわ。ちょっと思い出すわね」


 といった感じになってしまった。


 ……なんだか、思い出すって言うより、次にどこへ行こうか考えているよな。


 お昼を気にしてるし、何か話したいことがあるのか?

 うーん。


 ……聞いてみるしかないな。


「アキナ。もしかして何か俺に別の用事があるのか? 質問とかがあるなら、遠慮なく聞いてくれていいぞ」


「あー、えっと、そのね。……笑わないで聞いてほしいんだけど、ただデートがしてみたかっただけなの。アオイから初めてデートをしたけど楽しかった、みたいな話を聞いて、なんとなくうらやましく思ったのよね」


「そうなのか?」


「商売の事に夢中になっていたら、デートとかをする機会がなくてね。まあ、行きたいと思える人がいなかった、っていうのもあるんだけど。……わたしが今井商会の娘ってことで、変に近づいてくる人も多かったから余計にね。それに、商売は商売で楽しかったし、正直、あんまり興味を引かれなかったのよね」


「確かに、商売の事について話してる時は楽しそうにしてたもんな」


 最初に会った時も、元気そうな子って印象だったし、話をしている時もなんとなく楽しそうだった気がしたな。


「ただね、この前ハヤテやアオイと会って魔族について話したじゃない? その時のことがあって、商売とは違うことも色々やってみようかな、って気持ちになったの。そんな時に、アオイからデートをしたって話を聞いて、何となくわたしもやってみたくなった、ってわけ。でも、肝心かんじんのデートって何をすればいいかわからなくて、空回りしちゃったみたいね」


「なるほどなぁ。俺も、こっちの世界に来るまではデートなんてしたことがなかったし、魔皇たちとのデートっていうのも、楽しくお出かけしたって感じだったからな。だから、今日はただ俺とお出かけする、みたいな感じでいいんじゃないか?」


「……そうね。デートっていうのを意識しすぎていたみたい。うん、これからはいつも通りいくわね!」


 うん、いつも通りのアキナに戻ったな。

 変に意識するより、その方がお互い楽しめるだろうから、よかった。


「それなら、飲み物を追加して、もう少しここでお話していかないかしら?」


「ああ、それもいいな。アキナがさっき頼んだ飲み物も気になっていたし」


「これ? このお茶に使わている茶葉はね……」


 なんて話しながら、追加で飲み物を注文した。

 飲み物が届くと、さっそくアキナが話を始めた。


「今日はデートだから商売の話はやめとこうと思ったけど、やっぱり色々話そうかしら。この前緊急でベイラにお仕事をお願いしちゃった時に、ハクトから面白い話を聞いたって言われてね」


 あれ?

 なんだか雲行きが怪しくなってきたような……。


「確かガチャガチャ、とか言っていたかしら? それについて詳しく聞きたいわ!」


 うん、完全に墓穴ぼけつを掘った感じな気がする。

 ……まあでも、こういうのがいつものアキナって感じはするな。



 俺が思い出せる範囲で、ガチャガチャについて説明したりアキナからの質問攻めに答えた。


 飲み物も無くなったし話の区切りもいい、ということで、お店を出ることにした。

 今日はデートっていうことだし、俺が奢ろうとしたのだが、


「前に、ベイラたちの話をを邪魔しちゃった埋め合わせをする、って言ったじゃない? 今日のデートは全部わたしが出すわ! それに、ガチャガチャについて質問攻めしちゃったし」


 あ、質問攻めの自覚があったのね。

 ……そして、今日も俺は奢れないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る