第54話 デート延長戦?
アキナに予定を伝えると、さっそく明日行きましょ! となった。
なんだか、えらく前のめりな気がするな。
……何かまた、商売のネタを掴んだ、とかだろうか?
◇
待ち合わせ場所はいつもの教会前。
目標はアームズフォー……、いかん、ちょっと思考がずれた。
アキナは俺が着いたときには既に待っていた。
「ハクト、おはよう! 今日はよろしくね!」
今日はなんとなく、服装がお
それに、雰囲気もどこか気合いが入っているみたいだ。
今日の用事はいったい何なのだろう。
……何だか、デートとは違う理由でちょっと緊張してきたな。
「それじゃ、ハクトはどこか行きたいところはある?」
あれ?
今日はアキナに誘われたってことで、アキナが主導権を握って何かをするものだと思ってたけど。
……うーむ、やっぱり聞いてみるしかないか。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うしな。
「違ったらすまないけど、今日のデートはアキナが俺に何か用があって誘った、ってわけじゃないのか?」
「えっ? あ、まあ、そうね。それじゃ、まずはちょっと街を案内しようかしら」
アキナに聞いてみると、何となく
……どうしたんだろう?
とりあえず街を散策しつつ、アキナが色々な説明をしてくれた。
ただ、何かを見つけるとその
「なあ、アキナ。そこまで暑くはないとはいえ、歩いていたら喉が
「そ、そうね。確かに話をしていたのもあって喉が渇いた気がするわね。それじゃ、行きましょう!」
ということで、前にホムラと行った喫茶店に行くことにした。
……何かに焦っているのか、緊張しているのか、理由はわからないけど、これで落ち着いてくれるといいんだけど。
◇
「このお店は初めて入ったわね……。けど、この雰囲気はいいわね、気に入ったわ。教えてもらった、って言っていたけど、誰に教わったのかしら?」
「ここはホムラ、じゃなくて
「そうなのね。……もしかして、軽食系のメニューは量が多いのかしら? ハクト、もしよかったらどれかひとつを頼んでシェアしない?」
確かに、あの大きさなら一人で食べるには大分多そうだったからな。
「そうするか。アキナは食べたいものはあるか? 俺はこれとこれが気になるかな?」
と、この前見たカツサンドとフレンチトーストを指さした。
……異世界でフレンチって、とは思ったけど、まあ翻訳さんがなんかいい感じに訳した結果だろうな。
「うーん。色々気になるけど、やっぱり大きいカツサンドっていうのを見てみたいわね。……それじゃ、カツサンドにしようかしら」
ということで、それぞれの飲み物とカツサンドを頼んだ。
俺はアイスコーヒー、アキナはよくわからないお茶、多分異世界特有のものだろう、を頼んでいた。
少し待って、運ばれてきたカツサンドを見たアキナが
「サイズも大きいし、分厚い……。軽食として食べるには、ちょっと多いわね」
やっぱり、改めて見ても何かの辞典くらいのサイズがあるな。
食べやすいようにカットしてあるから、食べるのが物理的に大変、ってことはないけど。
「それにしても、火魔皇はこの街について色々知っていそうね。わたしも結構この街にいるけど、このお店は知らなかったわ」
「それと、鉄板焼きのお店にも行ったな。高かったけど、ワイバーンのステーキを提供してたよ」
「そうなの? ワイバーンの肉が食べられるお店って珍しいし、そのお店はすごいわね……」
確かに、結構高級な感じだったもんな。
「それに、このお店もそうだけど、そういった珍しいお店を知っている火魔皇とは、一度会って色々話してみたいわね」
「結構気さくな感じだし、お互い、時間のあるときにでも会ってみるといいんじゃないか? なんなら俺が連絡を取ってもいいしな」
認識を誤魔化してはいたけど、店員さんとかとは気楽な感じで話してたしな。
「そうね。それじゃ、今度お願いしちゃおうかしら」
アキナは魔族とは仲良くしたがっていたし、ホムラも人間界の人ともっと交流をしたそうだったから、いい機会になりそうだ。
それにしても、アキナは喫茶店に入って話してるうちに、落ち着いたみたいだな。
よかったよかった、なんて思っていたら、
「注文した物も食べちゃったし、そろそろお
といった感じになってしまった。
……なんだか、思い出すって言うより、次にどこへ行こうか考えているよな。
お昼を気にしてるし、何か話したいことがあるのか?
うーん。
……聞いてみるしかないな。
「アキナ。もしかして何か俺に別の用事があるのか? 質問とかがあるなら、遠慮なく聞いてくれていいぞ」
「あー、えっと、そのね。……笑わないで聞いてほしいんだけど、ただデートがしてみたかっただけなの。アオイから初めてデートをしたけど楽しかった、みたいな話を聞いて、なんとなくうらやましく思ったのよね」
「そうなのか?」
「商売の事に夢中になっていたら、デートとかをする機会がなくてね。まあ、行きたいと思える人がいなかった、っていうのもあるんだけど。……わたしが今井商会の娘ってことで、変に近づいてくる人も多かったから余計にね。それに、商売は商売で楽しかったし、正直、あんまり興味を引かれなかったのよね」
「確かに、商売の事について話してる時は楽しそうにしてたもんな」
最初に会った時も、元気そうな子って印象だったし、話をしている時もなんとなく楽しそうだった気がしたな。
「ただね、この前ハヤテやアオイと会って魔族について話したじゃない? その時のことがあって、商売とは違うことも色々やってみようかな、って気持ちになったの。そんな時に、アオイからデートをしたって話を聞いて、何となくわたしもやってみたくなった、ってわけ。でも、
「なるほどなぁ。俺も、こっちの世界に来るまではデートなんてしたことがなかったし、魔皇たちとのデートっていうのも、楽しくお出かけしたって感じだったからな。だから、今日はただ俺とお出かけする、みたいな感じでいいんじゃないか?」
「……そうね。デートっていうのを意識しすぎていたみたい。うん、これからはいつも通りいくわね!」
うん、いつも通りのアキナに戻ったな。
変に意識するより、その方がお互い楽しめるだろうから、よかった。
「それなら、飲み物を追加して、もう少しここでお話していかないかしら?」
「ああ、それもいいな。アキナがさっき頼んだ飲み物も気になっていたし」
「これ? このお茶に使わている茶葉はね……」
なんて話しながら、追加で飲み物を注文した。
飲み物が届くと、さっそくアキナが話を始めた。
「今日はデートだから商売の話はやめとこうと思ったけど、やっぱり色々話そうかしら。この前緊急でベイラにお仕事をお願いしちゃった時に、ハクトから面白い話を聞いたって言われてね」
あれ?
なんだか雲行きが怪しくなってきたような……。
「確かガチャガチャ、とか言っていたかしら? それについて詳しく聞きたいわ!」
うん、完全に
……まあでも、こういうのがいつものアキナって感じはするな。
◇
俺が思い出せる範囲で、ガチャガチャについて説明したりアキナからの質問攻めに答えた。
飲み物も無くなったし話の区切りもいい、ということで、お店を出ることにした。
今日はデートっていうことだし、俺が奢ろうとしたのだが、
「前に、ベイラたちの話をを邪魔しちゃった埋め合わせをする、って言ったじゃない? 今日のデートは全部わたしが出すわ! それに、ガチャガチャについて質問攻めしちゃったし」
あ、質問攻めの自覚があったのね。
……そして、今日も俺は奢れないらしい。
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