第四章

第52話 その鍋、めちゃんこ大変、かも?

 昨日は読書会、もといヒカリが忙しい事への相談会に予定が変更になったので、ソフィアの手伝いは今日にずらすことにした。

  

 ……よく考えたら、ソフィアの手伝いをしようと思った理由って、自由に使えるお金が欲しかったからなんだよな。


 まあ、整理することはそんなに嫌いじゃないし、この漫画は面白かったな、みたいにソフィアと話しながら作業するのも悪くないもんな。

 

 ◇


 というわけで本日も来ました、ソフィアの図書館。

 

 当たり前のようにいるメイに挨拶をしつつ、ソフィアに今日の作業を確認した。

 さて、今日も漫画の整理をやっていきますか!


 そんな感じで気合を入れて作業をしていると、


「……そういえば、ハクトは何をしてるの?」


 本を読み終わったとおぼしきメイから、そんな言葉をかけられた。

 え? と思ったけど、普通に本を読み来てると思われてたのか。


「本の整理とか、異世界の知識がないとわからない内容を説明したりとか、だな」


「……知識はともかく、整理なら私もできそう。……いつも本を読ませてもらっているし、私も手伝う」


 細かい分類はともかく、大別したジャンル分けとかならメイにもできるかな?

 何冊も漫画を読んでるみたいだし、どんな内容があるかは、ある程度分かっているだろうし。


「ということみたいだけど、メイにも手伝ってもらってもいいか?」

 

 分別した本を、収納の魔道具に入れていたソフィアに話かけると、


「そうですね。その方がありがたいです。現在も増える一方ですので」


 ……それは、ソフィアの収集速度次第なのでは?


 まあそういうことで、メイにも手伝ってもらうことになった。


「それじゃ、やっていくか! あ、もし何か分からないことがあれば聞いてくれ。異世界の知識なら色々教えられるだろうしな」


「……ありがと。……その時は、よろしく」



 作業をしていると、メイが時計を見つつ


「……ソフィア、そろそろお昼の時間。……今日のご飯は、なに?」


 と話しかけていた。

 ……メイが娘で、ソフィアがお母さんかな?


 というか、メイはいつもソフィアにご飯を作ってもらってるのか……。


「今日はハクトさんもいますし、どうしましょうか。ハクトさんの希望はありますか?」


 そして俺の分も用意する前提なのね。

 まあ、その方がありがたいけどさ。


「ちなみにメイが来てからは、どんな感じで決めていたんだ?」


「そうですね。私が漫画で見た料理の中で、その日に食べたいと思ったものを作っています」


 そういえば、いつもそんな感じだったな。

 メイの方は何かあるかな?


「メイは漫画を読んでいて、何か気になる料理とかあったか? ソフィアが問題なければ、それを作るっていうのもいいかもな。俺も手伝うし」


「……それなら、ある。……それと、簡単な作業なら、私も手伝う」


「メイさんから、料理を手伝ってみたいという提案がありました。本日は、作業を教えながら手伝ってもらう予定でした」


「……ヒカリが料理を作る時、手伝いたい」


 なるほどな。

 昨日は、各自手伝えそうなことを探してやってみる、みたいな話が出たんだけど、さっそくそれを実践じっせんしてるのか。


「それはいいな。それで、メイはどんな料理が食べてみたいんだ?」


「……これ」


 と、さっきまで読んでいた漫画の表紙を見せて来た。

 

 ……俺が知らない漫画が出てきた。

 表紙やタイトルからすると、相撲についての漫画っぽいな。


 マニアックな方向にいっているな、と思ったけど、よく考えたら異世界の文化自体が馴染みのないものだったな。


「……魔族の中には、魔法を使わない、純粋な力比べが好きな人もいる。……このスポーツは、そういった魔族にぴったり。……それと、何かで揉めると、戦って勝った方に従う、っていう魔族が、結構いる。……そういうときにも、周囲に被害が行かない」


 魔族ってもしかして、脳筋な人が多いんじゃ……、いや、まだ色々な魔族に会っていないのに決めつけるのは早計そうけいだな。


「もしかして、今までは周囲に被害があったの?」


「……うん。……地面とか建物とか、壊れたりする。……ヒカリは、揉め事を収めた後、それを修理してる」


 ヒカリが万能すぎる! というか、それは忙しすぎるな。


「って、話がそれちゃったな。メイが食べてみたいっていう料理はどれなんだ?」


 それを聞いたメイは、漫画のページをめくり、その料理が描かれたページを見せて来た。


「……これ。……ちゃんこ鍋、っていうみたい。……どんな味の鍋か、気になる。……この漫画には、鶏の出汁だしで作ってる、ってあった。……鍋は食べたことがあるけど、そんな鍋は食べたことはない、かも」


 おおう、夏なのに鍋か。

 ……まあ、夏と言っても日本と違ってそこまで暑い! って感じではないけどな。


 そういえば、相撲では二本足で縁起がいいから鶏をよく使う、っていうのを聞いたことがあるな。

 地面に手がつかないから負けない、みたいな感じだったっけ?


「でも、鶏の出汁って結構時間が必要だった気がするんだよな。ソフィアは作り方を知っているか?」


「前に漫画で見たことがあります。鶏の骨を綺麗にして、臭みを消す野菜やお酒と一緒に強火で煮る。アクを取った後で、弱火で度々アクを取りながら長時間煮る、といった工程でした」


 おお、流石ソフィア。具体的な作り方が出てきたな。

 とはいえ、やっぱり時間が必要で、手軽に作れなさそうだ。


 ……ん? 時間がかかる煮込み料理といえば


「ソフィア。圧力鍋とか持ってない? それを使えば煮込む時間を短くできないかな?」


「圧力鍋、ですか? 私の知る限りでは、この世界にそういった物はなさそうです」


 うーん。

 そもそもこっちには存在してないのかな?


「……ハクト。……それって、どういった物?」


「詳しくは知らないんだけど、密閉することで中の圧力が高くなって、普通より高い温度で加熱できるから、だったかな?」


「……それなら、食材が熱に弱くなれば、同じこと、かな?」


「食材が熱に弱くなる、ってどういうことだ?」


「……闇属性の魔法は、物の耐久力を弱くできる魔法がある。……それを使って、相手の武器や鎧を壊すみたい。……私は、使ったことはないけど」


 なるほどな。つまり、闇属性の魔法はデバフをかけられるってことか。


「その魔法で、食材が熱に弱くなれば、煮込む時間が短くできる、かも?」


 ……デバフを食材に?

 その発想はなかった。


「どうなんだろ? ソフィアはどう思う?」


「そうですね。気になりますので、実際にやってみましょうか」



 ソフィアも流石に鶏の骨は準備していないってことで、お肉屋さんに行って買ってきた。

 ……ソフィアの収納魔法には、いつも何かしらの食材が入ってるんだよな。


「それでは、作っていきましょうか。鶏の骨はこちらで下処理をしますので、ハクトさんはメイさんに教えながら、食材を切っておいてください」


「わかった。それじゃメイ、やってみるか?」


「……うん」


 今日使う食材は、鶏肉に白菜、にんじんやネギなど、まあ普通の鍋に使いそうなものだな。

 ちなみに、俺の元いた世界でいうハウス栽培的なものは、魔法を使って昔からやっているみたいだ。

 やっぱり、魔法って便利だな。


「白菜は比較的切りやすいけど、にんじんは硬いから気を付けてな」


「……わかった。……まずは、白菜から切ってみる」


 そういったメイは、ちょっとぎこちないながらも順調に白菜を切っていった。


「……次は、にんじん。……確かに、硬くて切りにくそう。……あ、そうだ」


 メイは何かを思いついたようで、にんじんに魔力を流し始めた。

 ……あ、もしかして。


「……これなら、簡単に包丁が通る、かも? ……。……うん、思った通り、簡単に切れた」


 食材を切った後で、魔力を流すのを止めた。

 ……なるほど。

 魔法を使っている間だけもろくなる、みたいな感じなんだな。


 うん、メイは大丈夫そうだし、俺も食材を切っていくか。

 ……よく考えたら魔皇なんだし、ミスしても怪我はしなさそうだったかも。



 それぞれの下ごしらえが終わり、ついに鶏の骨を煮込む時が来たな。


「一度強火で煮て、アクを取ってあります。次の工程は、本来であれば弱火で煮込みつつアクを取る、といった工程ですね」


「それを闇魔法で短くできるか、っていう実験だな。ソフィア、どのくらい煮てみればいいと思う?」


「そうですね……。試しに十分ほどやってみましょうか。メイさん、大丈夫でしょうか?」


「……余裕。……半日くらいでも全然へいき、だと思う」


 ということで、メイが闇魔法を鍋の中に使いながら、十分ほど煮込んでみた。



 十分後、ソフィアに味見をしてもらった。


「そうですね。今のままでもいい出汁が出ていると思います。ただ、そうですね。さらに五分くらい煮込むと、より出汁が出ると思います」


 おお! 実験は成功みたいだ!


「やったな、メイ!」


「……よかった。……それじゃ、あと五分、やってみる」


 メイは嬉しそうな雰囲気を出しつつ、そう答えた。


 追加で更に五分煮込み、それをこして、食材とともに鍋で煮込んで……


「……これで、完成?」


「そうですね。食材も良く煮えているようです」


 ついに、ちゃんこ鍋が完成した!

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