第36話 ふーん? 魔皇城

 さて、本日は例のごとく


「お、もう来てるな。それじゃ、さっそく魔界に行くぜ!」


 と、ホムラによって魔界に連れていかれたところです。

 

 ……それで、ここは一体どこなんだろう?


 周りを見回すと、いくつかソファがあり、そこに魔皇まこう全員がすでに座っていた。


「あっ、ハクトが来た! リンフォン、持ってるでしょ! 知ってるんだよ? 早く出して!」


 興奮したハヤテが、リンフォンを持ちながら声をかけてきた。

 ……なんだか、リンフォンが危ない何かに聞こえてくるので落ち着いてほしい。



 ホムラがハヤテを落ち着かせ、無事に俺とハヤテのリンフォン間で魔力を交換できた。


「それじゃ改めて、自己紹介でもするか。オレ、ハヤテ、アオイはお互い知っているし、それ以外でだな」


「その前に聞きたいんだけど、ここはどこなんだ?」


「ん? そういや説明してなかったな。ここはオレたち魔皇の城にある、雑談とかをする部屋だな」


 あー。何となく豪華な造りだなと思ったけど、だからか。

 ……って今、城って言った!?


「ちょ、ちょっと詳しく聞きたいんだけど、お城ってどういうこと!?」


「? どういうこともなにも、オレたちの城だけど?」


「あー、いや、そういうことじゃなくて」


「ホムラちゃん。ハクトさんはきっと、このお城がどういう存在かを知りたいんじゃないかしら?」


 ホムラちゃん!?

 前に光魔皇こうまこうが、ハヤテに対してハヤテちゃんと呼んでいたけど、ホムラにもそうだとは……。


「えっと、そんな感じかな。そもそも魔皇についても、魔界のトップってことくらいしか知らないし」


「ああ、そういうことか。んじゃ、後で纏めて説明するか。オレを含め魔皇が全員揃っているし、大体のことはわかると思うぜ」


 魔皇全員が揃って色々教えてくれるって、贅沢すぎるな……。


「それじゃ、まずは俺からいこうかな。俺の名前は……」


 とりあえず無難に、異世界から来たこと、ホムラ、ハヤテ、アオイそれぞれと、どんな感じで会っていたかを簡単に説明した。


「次は、私でいいかしら? 私は光魔皇。ここにいる魔皇全員の中で、一番最初に生まれたの。だから、皆のお姉ちゃんみたいな存在、と思ってもらえばいいかしら? ハクトさん、よろしくおねがいしますね」


 光魔皇は姉的な存在だったのか。本人の話し方とか、ちゃんづけするところとかも姉っぽい感じ……なのかな?


「昔ならともかく、今でも私たちを小さい子供みたいに扱っているけど、あんまり気にしないでほしいわ。……こほん、それじゃ改めて、私は水魔皇すいまこうよ。人間界の武具に興味があって、剣術もたしなんでいるわ。これからよろしく」


 ……確かに、ハヤテや闇魔皇ならともかく、他の魔皇にもっていうのは違和感しかないし、気にしないでおこう。

 

 それと、言われてみれば水魔皇が座っている椅子の横に、刀のような物が置いてある。

 人間界の、って言っていたけど、魔族はあんまり武器とかは使わないのかな?


「……闇魔皇やみまこう。……趣味は読書。……よろしく」


 言葉少なに喋った彼女が、ハヤテの被害者か。……まあ、闇魔皇も感謝しているっぽかったけど。


「さて、自己紹介も終わったし、次は三人の名前だな。紙とペンも用意してあるぜ!」


 ついに来たな。

 まあ、前から名前をつけてって言われていたから、こっちの準備もできているけど。


「それじゃ、自己紹介した順番ってことで、光魔皇からにしようか。色々悩んだけど、あえてシンプルに”ひかり”っていうのはどうかな?」


 紙に文字を書きつつ聞いてみた。

 魔皇で一番最初に生まれたみたいだし、あえて属性そのものの漢字を提示してみた。


「ヒカリ……、いい名前ですね。それに、名前が光そのものというのは、なんだかますます皆の姉、という感じがして素敵です。ハクトさん、ありがとうございます」


 ……そんな意図はなかったけど、喜んでもらえたなら良かったかな?


「次は水魔皇で。いくつか候補があったけれど、”れい”っていうのはどう? 左側の、点が三つある部分がさんずいっていうもので、水に関係する漢字につくことが多いんだ。そして、右側がしずくっていう漢字で、雨水が落ちる様子を表しているんだ」


 それと、なんとなく凛とした感じもあって、漢字の雰囲気とも合っていると思ったんだよね。


「レイ、ね。いい響きだと思うわ。それに、漢字を構成するもの全てが水に関連するもの、というのもいいわね。ハクト、感謝するわ」


 読みも含めて気に入ってもらえてよかった。

 みお、って読み方もあったけれど、こっちはなんとなく少し合わない気がしたからな。


「さて、最後は闇魔皇だな。これは少し特別な感じなんだけど、”めい”っていうのはどうかな。暗い、みたいな意味だったり、”冥土めいど”っていって、死者がくらす暗い世界、みたいな使われ方をするんだ」


 冥と書いた横に、メイド、ではなく冥土という文字も書いて説明した。

 某音楽ゲームでは好きな曲だったけど、皿でもつまみでもクリアできる気がしなかったな……。


「……メイ。……私だけ特別な名前。……うん、気に入った。……ハクト、ありがと」


 表情はあんまり変わってないけれど、喜んでいるみたいでよかった。


「よっしゃ。これで全員の名前が決まったな! それじゃ、さっきのハクトの疑問に答えるか」



 ホムラが中心となって教えてくれた。

 まずこの城は、人間界で見た王城に影響され、魔皇全員の城として建てたみたいだ。


 主に人間界の代表者と会談する用途を想定しているが、魔皇が人間界に行くばかりで、その目的で使用されたことはないらしい。

 

 ハヤテが、


「ハクトがこのお城の最初のお客様だね!」


 なんて言っていたが、最初の客が俺という事実にかなり驚いた。

 というか各国の王様たちに先んじで招かれたのが俺って、いいんだろうか?

 いや、魔皇全員が招いたようなものだし、問題はないんだけどさ。


 それと、お城には魔皇それぞれの部屋や、生活するための設備があるみたいだ。

 それぞれ、自分の住む場所は別にあるみたいだけど、たまに遊ぶために泊まっているそうだ。

 お城の扱いがそれって、いいのか。


 ちなみにお城の管理だけど、使用人を雇ってなんとかしているみたいだ。



「それと、魔皇の位置づけなんだが、人間界の王様みたいに、どこかを統治しているわけじゃないんだ」


「え、そうなの?」


「前に説明したと思うが、魔界っていうのは強い奴が偉いんだ。んで、まあ自分で言うのもあれだが、ここに集まっているのはそれぞれの属性で一番強いやつなんだよな」


 魔界のトップっていうのは、確かにそういうことなんだろうけど、あんまりそんな感じがしないな。

 ハヤテとかは見た目からそう感じないけど、皆が力をアピールしたり、横暴おうぼうな態度じゃない、っていうのもあるかな?


「一番強いってことに加え、六人全員が同じ目的を共有することになって、自然と皆で魔界をまとめるようになっていったな」


 同じ目的っていうのは、前にアオイが言っていた当時の魔界をどうにか改善したい、ってやつだろうな。


「ただ、完全に魔界のトップになったのは、人間界との交流が始まってからなんだけどな。人間界とのやり取りをするために、代表者が必要になったってことで」


 なるほどな。改めて、魔界っていうのは特殊な場所なんだな、と感じる。


「んで、何か問題が起きたり、必要があれば口や手を出すって感じで、基本的にはそこの代表者に色々任せてる感じだ」


 口だけじゃなくて手も出るっていうのが、何だか魔界っぽいな。

 まあ、意見を押し通すために無理やり、ってことはしていないだろうけど。


「まあ、簡単に説明するとこんな感じだな」


「なるほどね。何となくだけど分かった気がする。ありがと」


 ホムラたちの説明がひと段落したところで、リーン、という音が鳴った。

 音のなった方向を見ると、ヒカリがいた。


「あら? 私のリンフォンかしら? ……。また、問題が起きちゃったみたいね。ハクトさん、申し訳ないけれど、席を外させてもらいますね」


 と、転移でどこかに向かった。


「また、何かあったみたいね。今日は誰かに代理を頼んだみたいだけど、代理では解決できなかった、ってことかしら」


「……今日くらいは、放っておいてもいいと思う」


「まあ、ヒカリは責任感が強いからね。無視をしようとしても落ち着かず、話しをするどころじゃなくなると思うよ」


「何かあればすぐ、あっちこっちに駆けつけてるもんね~」


「えっと、どういうこと?」


 俺はどういった状況かわからず、混乱していると、


「ヒカリのやつは、魔界をどうにかしたいって思いが、オレたちの中で一番強いんだ。だから、何かトラブルがあるとすぐに仲裁に入っていて、今ではあちこちで頼られるようになっちまったんだよな。本人は頼られるのは嬉しいみたいだけど、そのせいで忙しくしているんだ」


 と説明してくれた。


 ……ヒカリって、姉っていう立場を意識しているからか、面倒見が良いんだな。


「昔、部族間での争いを平和に解決した事もあって、あっちこっちで聖人とか救世主とか言われれるみたいだよ~」


 人間界だと、天使がそういった役割をすることがあるんだろうか。

 ……ソフィアが呼ばれるとしたら、救世主メシアじゃなくて飯屋メシヤになりそう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る