第34話 そしてまた、新たな日々が始まる
「よし、これで完成だな!」
パンケーキはモニカのおかげでいい感じに焼きあがってるし、ホイップクリームは念のため大量に作った。これで大丈夫だろう。
「ボクたちの方もできたよ~。メニューはソフィアにおまかせだったから、料理名はわからないけどね!」
「これは、異世界から伝わった料理、お好み焼きね! それに、焼きそばも! ご飯が欲しくなるわね」
ハヤテたちの方も完成したみたいだ。
……そしてアキナは、お好み焼きをご飯で食べる派だということが発覚した。
「パンケーキと聞いて、お好み焼きを連想し食べたくなりました。もちろん、ご飯と味噌汁も用意してあります」
うん、いつものソフィアだな。
「あ、俺のいた世界だと、焼きそばやお好み焼きはご飯と一緒に食べない人も多いんだ。というか、俺の住んでいた場所だと、ほとんどの人が一緒には食べていないと思う」
「えっ! そうなの!?」
アキナが、信じられない! といった表情でこちらを見ていた。
……ここ、異世界でいいんだよな? 関西じゃないよな?
「おいしいから大丈夫です」
「そうね!」
ソフィアが某アニメで聞いた迷言を言っていた。
そして、それに即答するアキナ。
……いや、まあ、本人たちがそれで納得するならいいんだけど。
◇
ということで、さっそくみんなで食べよう! となった。
ただ、クレアの方は……
「念のため、先に私が毒見をさせていただきます。……。なるほど。では次はこちらを」
と、メアリさんが先に食べていた。
「最後にこちらのパンケーキをいただきます。ホイップクリームも確認しないといけませんね。……。なるほど。クレア様、こちらは美味し、いえ、クレア様に召し上がっていただくのは難しいです」
「今、美味しいって言いかけたのですわ!
「冗談です。ただ、是非とも独占させていただきたくなる味でした」
このメイド、とっても自由だ。
ちなみに俺は、試しにお好み焼きや焼きそばをご飯で食べてみた。
まあ、これはこれでありかな? とは思ったけど、わざわざご飯を用意して、ってほどでもないかなぁ。(個人的な感想です)
あ、多めに作ったホイップクリームも含め、すべて皆でおいしくいただきました。
……ちょっと物足りなそうなメイドと天使なんていなかった、うん。
◇
食事が終わり、それぞれが自然と談笑タイムになった。
俺はアオイ、ベイラと一緒に、魔道具について話すことにした。
「それで、どうだい? あたしが試作した魔道具は」
「そうだな。材料が飛び散ったり、回転が不安定になったりとかはなかったし、問題なく使えたと思う。ただ、しばらく使っているとちょっと腕が疲れてきちゃったから、少し重たいのかもしれないな」
と魔道具をベイラに渡しつつ答えた。ベイラは重さを確かめながら、
「なるほどな。今回は試作ってこともあって、比較的頑丈な素材で作ったからなぁ。耐久性と相談しながらだけど、強度を落とせば軽量化はできそうだな。それで、アオイの方は何かあるか?」
アオイに魔道具を渡しつつ、ベイラが質問した。アオイは魔道具に魔力を流しながら、
「そうだね。もう少し魔力の消費を抑えられるかな? 魔法陣に流し込んだ魔力を考えると、もっと回転が速くてもおかしくないからね」
「うむむ。歯車の組み合わせの問題かねぇ。それとも……」
うーん、専門的な会話が始まりそうだ。
◇
そういえば、他の皆はどんな感じかな、と他の人の様子を見てみると、ハヤテ、ソフィア、アキナ、イズレの組み合わせて会話をしていた。
「お好み焼きも焼きそばもパンケーキも、すっごくおいしかったよ~! お好み焼きとか焼きそばは簡単に作れたし、ボクの家でも作ってみようかな?」
「そうですね。それと、お好み焼きには先ほどの焼きそばを組み合わせたような種類もあります。ただ、それを広島焼き、というと一部の人たちが
いや、ソフィア。流石にこの世界に怒る人はいないと思う。
……まあ、ごく低確率でそういった人が迷い込む可能性はあるけどさ。
「それで、ソフィアはこの教会の巫女ってことでいいのよね? 噂によると、ここら辺のお店に異世界の料理を広めていたみたいだけど、何か目的があったのかしら?」
「そうですね。お店にメニューとしてあれば、食べたいと思った時にすぐ食べられますので」
「そ、そんな理由だったのね……」
「ふむ。それは効率的だな」
「それと、異世界の料理に詳しいみたいだし、色々教えてもらえないかしら?」
「わかりました。ただ、誤った知識だとハクトさんに訂正されることも多いので、後でハクトさんに確認すると良いかもしれません」
……。後でめちゃくちゃ質問がきそうだし、訂正も色々必要そうだ。
◇
あっちの会話への対応は未来の俺に任せるとして、もう一方に注意を向けてみた。
こちらはモニカとクレア、メアリの組み合わせか。
「それと、魔道具の使い心地はどうだったのですわ? うちのシェフにも使ってもらう予定なのですわ!」
「本当はシェフもこちらに来れれば良かったのですが、仕込み等もありますので」
魔道具に夢中になって、仕込みまでには帰らなさそうだもんな。
「そうですね……。長時間使っていると腕が疲れそうな感じはしましたが、すぐにでも欲しくなるくらい、使いやすくて便利だと感じました」
「なるほどですわ! モニカさんが使いやすいと感じるのであれば、うちのシェフでも問題なく使えそうですわ。作った方たちにも色々聞いてみるのですわ!」
と、こちらにも話を聞きに来るみたいだ。
そして、もう一方も
「それじゃ、他の人にも料理の感想を聞いてみよう!」
と、ハヤテは自分が作った料理の感想を皆に聞いて周るみたいだな。
◇
その後も、魔道具について質問があったり、実際に体験してみたい、あれが美味しかった、次はこの魔道具であれを作ってみたい、などなど、色んな話で盛り上がった。
……考えてみれば、この場には魔皇やドワーフ、エルフ、王族(あと天使)と、種族や立場の違う人たちが集まっているんだよな。
そして、皆で食事をしたり、談笑をしたりと、楽しい時間を共有している。
こんな光景が、この世界のあちこちで見れるようになるといいな、なんて、そう思える時間だったな。
◇
というわけで次の日、ではなく、またその次の日である。
あの後は色々あって大変だったな……。
まず、さっそく改良だ! と、ベイラのお店へとアオイに連行され、魔道具を修正しては色々な意見を求められた。
そろそろ夕飯が食べたいな、なんて思った頃に、ようやく納得できる完成度になったみたいだった。
そして次の日、アキナに朝から呼び出され、魔道具を量産している部門の責任者に会って、契約を結んだ。
正直、細かい部分は分からないのでアキナにお任せしておいた。
これくらい売れれば、これくらいの収入になります、という試算を見せられたが、なんだかゼロがいっぱいだぁ、としか覚えていなかった。
……あまりの金額に、軽く現実逃避してしまった。
そしてその後、アキナの父親、つまりアキナの商会の代表を含めたメンバーで食事会を行うことになった。
娘さんを下さい! というシチュエーションとはまた違う緊張があったな。
とはいえ、アキナの父親も話しやすい人だったので良かった。
……流石は大きな商会の代表、ってことかな?
「ハクト、うちの商会に入らんか? 好待遇を約束するぞ!」
なんて、前の時と合わせ親子揃って勧誘されてしまったけど、異世界に帰ることを理由にこちらも断らせてもらった。
その後、気が変わったらいつでも言ってくれ! なんて言ってくれたな。
◇
そんなこんなでこの二日間も大変だったし、今日はのんびりするぞー! と思っていると、リンフォンがリーンと鳴った。
確認してみると、ホムラからで
『あー……。まずはハヤテからの伝言なんだが、また忘れた! 次は会ったらすぐ連絡できるようにする! だとさ』
あっ! すっかり忘れてた。
『それと、明後日はハクトの予定は空いているか? 魔皇全員が集まれそうなんで、また魔界に招待するぜ!』
……ついに魔皇全員と会う日が来たか。
もうそんなものだと思っているけど、俺の異世界生活、落ち着くことはなさそうだな。
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