第33話 シェフはおいてきた。注意をしてもこの場から帰る気がしない……

 魔皇まこう二人がいきなり来て驚かせてしまった。

 大丈夫かな? と様子をうかがっていると


「ふむ。その二人が魔法を使っている様子がなかったのでな。いきなりではベイラが驚くと思い、私が対応したのだ」


「気づいてたなら言ってよね!」


 アキナの言う通りだな、うん。


「そうだった。魔道具の方に集中してしまって、つい忘れていたよ」


「ボクは気づいてたけど、アオイがそのままだし、このままのほうが面白そうだから言わなかったよ!」


 ハヤテも気づいていたんかい!


「……ちょっと驚いたけど、客は客だもんな! あたしはベイラ。堅苦しいのとか嫌いだし、気軽に接してくれよな!」


 どうやら細かい事、いや細かくはないか、まあともかく、あんまり気にしない性格のようでよかった。

 

 ちなみに後で聞いたところ、四年に一度くらいの頻度で、この国では魔族との友好の証として魔皇全員が参加するパレードを行うようだ。そのために、魔皇の顔が広く知られているみたいだ。



「それじゃ、まずは設計図を見せてくれ!」


「ええと、いくつかのパターンがあるだけど……」


 と言いつつ、設計図を取り出してベイラに渡した。


「おお、大量だな! それで、これはどういうものなんだ?」


 設計図の描かれている魔道具のミキサーについて、アオイと一緒に説明した。


「なるほどねぇ。それは便利そうだな。とりあえず一通り見せてもらうよ」


 とベイラは設計図の確認に入った。

 時折、「これは強度が厳しいかも……」「これは大分重くなりそう……」等とつぶやいたり、アオイに色々確認していた。


「よし! それじゃさっそく、この設計図を元に作ってみるか! それと、この魔法陣はアオイが描いたんだろ? あたしも簡単なのは描けるが、アオイにお願いしたほうが早く正確にできそうだし、お願いできるかい? それと、今回は試作だし、魔石を使わない形式で頼むよ」


「もちろんだ」


 ということで、二人でさっそく試作してみるようだ。



 作業を見ていたが、ベイラが素材を持って魔力を流すと、その素材の形がみるみる変化して、どこかしらのパーツになっていった。


 それらのパーツを調整したり、アオイに何かを確認したり、魔法陣を描くのをアオイにお願いしたりと、それらを行っている内に気づけば魔道具か完成していた。


 魔法も組み合わせた魔道具とかの製作って、こんな感じになるんだな。

 それにその工程も流石は職人! って感じの手さばきだった。


「よし、とりあえず形になったな! この取っ手を握って魔力を流すと動くから、さっそく試してみてくれ!」


 と言われながら完成した魔道具を手渡された。

 見た目は普通のハンドミキサーといった感じだ。

 

 それじゃさっそくってことで、その取っ手を握って魔力を流してみると、


「おお! ちゃんと回転してる! うん、元のミキサーもこんな感じだったと思う」


 元いた世界で使ったような感じで、先端が回転していた。


「元の? まあ、きちんと動作しているなら良かったぜ」


「後は、実際に料理に使って確かめてみないとかな?」


 うーん、どこかいい場所はないかな?


「ふむ。私の店の奥は住居になっているが、流石にこの人数は手狭だな」


「私の工房は、そもそも調理できる場所がないね」


「アオイは料理とかしないもんね~。ボクはたまにするけど、自分専用に作ってるから狭いね!」

 

 まあ転移で行けるとはいえ、このためだけに魔界に行くっていうのもあれだしな。


 それで、アキナはどうかな? と彼女を見ると、そっと目をそらしていた。

 アキナも料理とかはしないのね。


「俺の泊っている部屋も一応調理設備はあったけど……。あっ! そうだ! 教会の調理場を借りれないかな?」


 とりあえず、ソフィアに連絡してみるか。

 確か、リンフォンは通話モードもあったよな?


 ソフィアに通話モードでかけてみると、すぐに出てくれた。

 魔道具の試作品を確かめたいから、教会の調理場を借りれないか聞いたところ


「問題ないです。私も調理や試食のお手伝いに参加します。それと、お昼も近いので、昼食も作りましょう。材料は……」


 とのことだった。

 ……やっぱり食べるのね。知ってた。


 それと、昼食の食材まで指定されてしまったな。


 あっ、そうだ!

 クレアにも職人が見つかったことと、試作品ができたことを伝えておくか。

 忙しいだろうし、こっちは文字を送るモードでだな。


 それと、教会の調理場で料理をして動作の確認をすること、その結果が出たら報告することもついでに送っておこう。



 ということで、朝集合した教会前に戻ってきた。

 道中、パンケーキとホイップクリームを作る材料と、昼食用の食材は忘れずに買っておいた。

 人数も多いってことで結構大量に買ったけど、ソフィアもいるし大丈夫だよな?


「到着~! それじゃ、ソフィアに会いに行こ~!」


 と、ハヤテが教会に飛び込んでいった。 


 ちなみに今回はちゃんと、ベイラの店を出る前に認識を誤魔化す魔法を使っていた。

 買い物をするたびに、お店の人を驚かせてしまうもんな。


 教会に入ると、


「こんにちは~。ソフィアと会う約束してるんだけど、ソフィアは今どこかな?」


「ソフィア様ですか? いつもの部屋にいらっしゃると思います」


 と、ハヤテがモニカに確認していた。

 それを聞いたハヤテは、すぐにソフィアを呼びに行ったようだ。


「こんにちは、モニカ。ちょっと教会の調理場を借りるね。……あっ、そうだ! これから昼食と、試作した魔道具でパンケーキを作ってみるんだ。もし大丈夫だったら、モニカにも手伝ってもらってもいいかな?」


 お菓子を作ったり食べたりするのが好きみたいだし、参加してもらえると助かる。


「パンケーキですか!? ……あ、すみません。そうですね、今日は急ぎの作業はないので大丈夫です」


 ということで、モニカが仲間に加わった!



 調理場に行くと、すでにソフィアとハヤテが来ていた。


「モニカさんも来たのですね。では、さっそく調理に取り掛かりましょうか。パンケーキと昼食で分担するのが良いと思います」


 なんとなくやる気に満ちているソフィアの言う通り、それぞれの担当に分かれることにした。

 魔道具の確認をする俺とモニカがパンケーキ、それ以外のメンバーで料理をしたことのあるソフィアとハヤテ、それとイズレが昼食を担当することになった。


 とりあえず、料理ができてからモニカに皆を紹介しようと考え、さっそく調理に取り掛かろうとしたが……


「失礼いたします。ハクト様はこちらにいらっしゃる、と教会の方にお聞きしました」


「お邪魔するのですわ!」


 クレアとメアリさんが来た。

 ……えっ?



 流石に王族が来たとあっては調理を進めるわけにもいかず、とりあえずそれぞれが挨拶することにした。

 

 とはいえ、アキナは偉い人との会話は慣れているようだし、イズレやベイラはあんまり気にしないタイプなので動じていなかった。

 ……モニカ以外は。


 とはいえ、

 

「ソ、ソフィア様……。すごい方ばかりなのですが、私がこちらにいて大丈夫なのでしょうか?」


「クレアさんも魔皇の二人も、優しい方なので大丈夫ですよ」


「ソフィア様が言うのであれば、大丈夫ですね!」


 と、すぐに落ち着いていたけど。

 ……それでいいのか、モニカ。


 ちなみに、パティオさんはあえて連れて来なかったらしい。 

 ……魔道具に夢中になって、全然帰らないイメージが浮かんでしまった。



 というわけで、パンケーキ作りだな!


 生地の材料をボウルに入れ、魔道具でそれを混ぜてみた。


「うん。ちゃんと混ざっているし、材料が飛び散るってこともなさそう!」


「これは便利ですね……。もし販売されたら、是非とも買いたいです!」

 

 動作も問題なさそうだし、どんどん作っていくか!


 魔道具の使い心地をモニカにも試してもらうため、俺とモニカで交互に材料を混ぜてみた。

 生地が混ざった後は、パンケーキをモニカに焼いてもらい、俺はその間にホイップクリームを作ってみることにした。


 ……。よし! こっちもきちんと作れているな。


「ハクトさん。パンケーキの方は全部焼きあがりました!」


「お、ありがと。それじゃ、ホイップクリームも一度作ってみる?」


「ぜひ! さっきも言いましたが、この魔道具、すっごく便利ですね! 使ってみて、さらに実感しました!」


 と、モニカにはとても好評だった。

 

 もし製品化されたら、今日のお礼にプレゼントするっていうのもいいかな。

 俺が誘ったことで、色々びっくりさせちゃったし。


 ……魔皇の二人は、魔法で誤魔化したまま、普通の魔族として紹介しようと思っていたんだけどな。


 とはいえ、顔見知りのクレアに対して、アオイが認識を誤魔化したままなのもあれだし、結果的にモニカもソフィアのおかげ? で落ち着いたし、結果オーライってことにしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る