第51話 平和な時間

『無とはいったい・・・・・・うごごごごご!』

「知るか化け物が!砕け散れ!アレキサンダー流・覇王翔吼拳!」


『ここはおまえたちの世界とは別の次元、そして私は永遠の闇……』

「うるせぇ!永遠の終わりだ!アレキサンダー流・究極!マッスルスパァァ~~~クッッ!!」


『オシ…エテ…クレ…。ワレワレハ…ドウ…イキル…ベキ…ダッタノ…ドゥワアアア…!!』

「俺に殺される為に生きてきたんだよ!歓喜しろ!!活殺!無双脳天撃!!」


「ハハハハハハ!!お前たちは俺の獲物だ!必死に抵抗しろ!技を見せろ!そして俺の糧となれ!!ハハハハハハハ!アハハハハハハハハ!!」

 最近10階層ごとの守護者層の魔物が喋るようになった。愉快でいいんだがまだまだ歯ごたえが足りないぜ。頭よりも体を鍛えてくれませんかね。



「アンナお姉ちゃん!お土産だよ!ダンジョンの110階層で出た指輪なんだ。付けると姿が消えるんだよ。しかも自分は触れるのに相手からは触れなくなるんだ。消えてる間は変な目玉がこっちを見て話しかけてくるんだよ、不思議だよね」

「ありがとー、とっても綺麗なのに消えちゃうなんてもったいないね。売っちゃおうか」

「金貨8000枚で買い取るって言ってたよ」

「ブボォォォ!!」



 いつものルーチンをこなし、お姉ちゃん体温のプレイスレスベッドで眠る。

 そして訪れるパーフェクトな朝。俺の体には一片の疲れもなく、俺の精神には一片の汚れもない。


「おはよう、今日は国に帰る日だったな」

『そうなのです。稼ぎを届けないといけないのです。でもアンナに貢いだ額だけで国が数ヶ月運営出来そうなのです』

「この俺の精神を保つ生命線だ。正当な対価だろう。むしろそれだけ払える買い取り所が謎だな」

『そんなわけないのです』

「ぼくが一緒に寝てあげるよ?」

「あと倍は生きてから言え。帰るぞ、向こうでも色々話を聞かないいけないしな」


「おい!帰るなら土産を持って帰れ!あんなもん置いていくな!」

「大丈夫大丈夫。自動反撃する魔道具も渡してあるから、襲われても人間相手なら全自動でミンチにしてくれる」

「そんなもんを置いていくなって言ってんだよぉぉ!」

「時間がねぇんだ、またな」



 フレアに飛び乗って国へ帰る。今回のダンジョン行も存分に捗ったな。

 大量の金貨とともに魔石もケトが保存している。前に見せてもらったんだが、畑で魔石を使って魔法を唱えると、魔石の魔力を消費して作物がにょろにょろ育つんだ。

 魔法使いが必要なので全土で行うことは出来ないが、中央で促成栽培して配布することで民心が買える。その作業もまた公共事業となり、単純な作業員や警護の兵士等を雇う事ができる。

 支払いは大陸の共通して使える古い通貨、または他国の金貨銀貨だ。前のアルニア国が発行していた通貨は流通しているが新造はしてない。新しくかっこいいの作りたいな。


 ドズゥン!

「母者、ただいま戻りました。変わりありませんか」

「おかえりアレキサンダー、変わりないわよ。そういえばあのフワフワな羊毛はまた採ってこれないかしら」

「では今度採ってきます」


「おかえりアレキサンダー。やっぱり小さいんだな」

 魔王のニウェだ。初めて会った時は変身していたので、本当の姿を見た時は混乱して目を回していた。

「まぁな。中身は強靭な男の中の男だから安心しろ」

「何に安心するのかは分からんが、稼ぎがいいのは安心だな」


 ケトがザバーっと金貨銀貨と魔石に宝物を放り出す。

 色々混ざっているが雑用は誰かに任せよう、だって俺王様だから。

「うひょひょ!これだけあればアレもコレも!うひょひょひょ!」

 少女の下品な声が聞こえるが知らない人だな。俺の母が少女の訳が無い。


 今日はちょっと色々と話を聞いて回る予定なんだ。サクサク行こう。


「リリス、水の街の再興はどうなってる」

「はぁ、再興と言いましても一から作り直す状態ですから難しいです。地面は固められていますし、何よりあそこには水がありません」

「水か。水差しから供給するにしても魔力源が必要だな」

 チラリとケトを見るとカエルの様な大きな目でまっすぐこちらを見つめていた。やめろよ冗談だよ。


「魔石から供給できないか、ダンジョン深部の守護者の魔石ならかなりの物もあるが」

「わかりません。人の作った魔道具なら最初から魔石がセット出来るように組み込まれていますが、あれにはないですよね。あれってなんなんでしょうか?」

「ふぅむ。水の街の再興には水問題の解決が不可欠なんだよな。こちらでも調べてみる、諦めずに再興の道を探れ。それは俺にとっても必要なことだ」

「ありがとうございます。必ず再興してみせます」


 リリスの問題はとにかく水問題からだな。

 次に姫さんの元へ向かう。



「よう姫さん。ちょっと話を聞いて周ってるんだ。困ってる事とかあるか」

「ん~、特に無いですねぇ。色々落ち着いたし何かお仕事をしたいくらいでしょうか?」

「ふむ。では、真面目な話だ。王として俺に望むことはなんだ」

「……妹を何とかして欲しいです。あの子は真面目だから、国のために自分が努力するべきだと思っています。私としては役目から解き放ってあげて欲しい。あの子自身が女王になっちゃうとか最悪ですね」

「妹が望んでいなくてもか?」

「あの子は望んでいますよ。絶対言いませんけど」

「そうか、わかった。必ず実現しよう」


 姫さんの問題は妹のエリナ奪還か。姫さんはそれが妹の望みだというが、とてもそうは見えなかったぞ。これは結構難問だな。

 次はオババだ。



「お~い、おば…ベル。何か困ってる事とかないか」

「なんじゃ、国王自ら御用聞きか。困っている事と言えば魔族の受け入れかの。それに足の無い鬼共の食い扶持、痩せた鬼族の食い扶持、健康な鬼族の仕事」

「いっぱいだな」

「魔石があれば食料は作れるが、その為の魔法使いも不足しておるのじゃ。アマンダを見つけて弟子の魔道士を引き抜いてこさせて欲しいのじゃ」

「あいつどこで何してるのか分かんねぇんだよ。勇者のスパイしろって言ったのにいつの間にか離れてるし、お陰で勇者の行方も分からん」

「所詮尻の軽い女だからの」

 相変わらずさらっと悪口が出てくる。似た者同士に見えるんだが、それを口にするほど俺は馬鹿じゃないぜ。


「ところでベル、王としての俺に望む物はなんだ」

「人手、金、時間」

「いやそういうのじゃなくて、真面目に最も望むものだ」

「ふん、昔から言っとるじゃろ。しっかり学ぶことじゃ」

「学びねぇ」

「あたしは昔必死に学んだ。父と母から学び、学園で学び、そして巨人に師事しようとまでした。だがあたしは巨人の薬師に認められることはなかったのじゃ。その名残があのソーマ。同じものを造ってみせろとの課題は完成できなかった」

「巨人に会ったことがあるのか?」

「あぁ、変わり者でねぇ。あたしにもっと知識と技術があれば……。いいか、しっかりと学ぶのじゃ。いつでも学べるとは限らない、学べる時に学んで備えるんのじゃ」

「分かったよ。それと巨人の居場所も探しておく」


 オババの望みは学びか。簡単な様で厄介だ。後回し確定!

 後はアマンダ行方不明、ルバンカも行方不明、弟は前に聞いたが教えてくれない。

 エリナも教えてくれない、アリーも同様。

 母者・フレア・ケトからは貰った。


 今のところ何も困っていないが、これが当面の大目標だからな。

 巨人を探すのと、トーリア国の取り崩し、アマンダとルバンカの捜索、この3つを進めていこう。



『アレキサンダー、話が終わったならアリーちゃんの所に遊びにいかない?』

「うーん、まぁいいか。今日はあの国で泊まっていこう」

『やったー!』

 今は週6でダンジョン、1日国に帰るという労働体勢だ。これって国王のやることなの?まぁダンジョン楽しいからいいんだけど。


『私は母と過ごしたいのです。明日迎えに来てほしいのです』

「あいよ、ゆっくり英気を養ってくれ」

 水の精霊王に魔石を食わせたらまた無限に水を出さないかと考えたが、嬉しそうなケトを見て口を噤んだ。俺も成長したなぁ。




 1日ゆっくりして明日からまたダンジョンだ。


 こんなのんびりした日が続き。やがて魔族も移り住み、それも徐々に馴染んで民も安定した。

 日々は安定して何事もなく。俺はトレーニングとダンジョン掘りに勤しみ続ける。

 そうして2年の月日が平和に流れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る