第42話 姫ちゃん会合

「それじゃー鬼の集落?村?連れてってもらおうか」

「ふざけるな!人間なんかに誰がそんな事を!」

「素晴らしい反抗心だ、だがいつまで続くかなぁ?受けてみろ!水芸・鬼水車!」

 ドバババババ!

 鬼の足首を掴んで縦に回転させる!繰り返し顔面から水に叩きつけられる痛み!必死に呼吸をして生き残る事しか考えられない苦しみ!鬼の意識は崩壊寸前だ!


「話す気になったかなぁ?大丈夫、俺は姫さん達とは知り合いだぁ。3.4年前に助けてやったんだぜぇ?」

「っ!あ、アレキサンダー!?」

「そうそう、ちゃんときいてるんじゃねぇか。それじゃ頼むぜ」

「この悪魔め!死んでも貴様を姫巫女様に会わせるわけにいかん!」

「あぁ?俺は恩人だろうが」

「殺せ!殺せぇ!」

「ふむ、わかった。水芸・鬼水車!」

 ドバババババ!

 10分後。

「すぃまぇんでじだぁ」


 こいつは俺に屈服してびびり散らしていたが、それでも案内は拒否した。それでも俺が姉の方の姫さんとお友達であり、地面車しながら辺り一帯を探したらどうせ見つかるぞと説得した事でやっと理解してくれた。

 忠誠心が高くて結構なことだ。

 どうも俺の事は恩人ではなく悪党として伝わっているらしい。なんでだ?ちょっとミスはあったが無事に返したじゃないか。まるで心当たりがないな。

『どうせ酷い事をしたのです』

「さっきの面白かったね!ぼくもやってみたいなぁ」

「鬼の集落に行ったらやって欲しいってやつがいるかもなぁ!」

 姉の方の名前なんだっけ?あんなに面倒見てやったと言うのにどういうつもりなのか?ちゃんと確認しねぇとなぁ!



 案内された鬼の集落は実に貧相な物だった。

 こいつらは平均的にノーマル人間より強い。狩りをすれば成果は多いだろうし、農耕でも力を発揮するはずだ。なんでこんななんだ?技術が低いのか?

「俺はアレキサンダーだ!姉の方の姫さんに会いに来た!」

 捕まえていた男を放り投げて名乗った。


「人間だ!人間が来たぞ!また攫うつもりか!!」

「人間だと!野郎ぶっころしてやぁる!!」

 あ、わかったこいつら馬鹿なんだ。まぁ鬼は比較的丈夫だから大丈夫だろう。たぶん。


「かかってこい!俺が勝ったらお前らは奴隷で姫は俺の物だ!」

「うぉぉぉぉぉ!死ねえぇぇぇ!!『鬼火蜂』!」

「間抜けめ!それは既に見たのだ!死ねぃ!」

 武器を構えて身体ごと1つの矢の様に飛んでくる突撃技、スキル補正により自動追尾があるので回避は面倒になるが誘導が容易くなる欠陥スキルだ。引き込んでから穂先を掴んで槍投げのように放り投げてやった。

「うわぁァァぁぁー・・・!」

「ファファファ!貴様らのスキルは既に見切っている!俺を殺したいんだろう!スキルなんか捨ててかかってこい!」


「人間の子供風情が侮るな!喰らえ!『鬼乱舞』!」

 棍棒を握った戦士が訳のわからん動きをし始めた!

「乱舞系は嫌いなんだよカスがっ!鬼殺し!高速・ドラゴンスープレックス!」

 ドゴンッ!

 くるくる回っている隙だらけの鬼を後ろから抱えあげて後頭部から叩きつける高速低空スープレックス!そしてそのままの体勢で固めて首と呼吸器にゴリゴリダメージを叩き込きこむ!乱舞技は嫌い、絶対潰す。

「んぶぅっ!」

「ふんっ、頭が割れてないだけマシだな」


「ヤンゴス!今助けるぞ!『地獄三連突き』!」

「またそれか、スキルにばかり頼りやがって馬鹿どもが!鍛え上げた肉体の力を見ろ!!ふんっ!」

 バキャアア!!

 突き立てたはずの槍が逆に粉砕する!圧倒的密度を誇る俺の肉体は既にその密度は地上に並ぶ物質無し!ガチガチに固めた俺の皮膚は、鉄の100倍の硬度を誇るダイヤモンドでさえ傷一つ付けられない!貧相な鉄の槍ごときでは何をしても無意味なのだ!


「あ、ああぁっ!あああああ!」

「お仕置きだぁ、拷問式・回転鰻固め!」

「あぎゃああぁぁぁぁぁ!!!」

「ファファファ!強い戦士はおらんのか!鬼の戦士とはこんなものか!」



「何の騒ぎだ!何をやっている!」

「あ、ギ、ギニイの兄貴!人間の餓鬼が暴れているんです!」

「なんだぁ、人間のガキなんかにやられやがって!どけ!俺が殺してやる!」

 なんか偉そうなやつが出てきた。どこかで顔を見たことがあるような、何か救命行為を行ったことがあるような、思い出せない遠い記憶……。


 向かいあって立会う。随分と自信満々じゃないか、鬼風情がいきがりやがってイラついてきたぜぇ!

「怖いかクソッタレ、当然だぜ。元親衛隊の俺に勝てるもんか」

「知るかぼけぇっ!死ね!メガトン・ドロップキーック!!」

 鍛え上げた超重量ボディから繰り出される長滞空ドロップキック!質量10000kg!時速2500kg!相手は死ぬ!

「あっやべ」

「ぐあぁぁぁあぁぁぁ」

 なんとか攻撃は外したが衝撃波で吹っ飛んだ鬼は死ぬ寸前ギリギリ崖っぷちのズタボロボディと化した。いやぁ外すことが出来てよかった。大丈夫そうだな。


「前にもこんな事があったような気がする」

 かなりの爆音が鳴り響いたので集落の奥からも鬼が沢山集まってきた。これ全部しばいたらステージクリアかな?俺ってこういうの得意なんだよ。

「お待ち下さい!あぁ、あ、あなた様はアレアレアレキサンダー様では?」

「あぁ?最初にそう名乗ったが?」

「あひぃ!申し訳ございませぇん!!」

 ボーナスステージは終わった。鬼は弱い、しかし丈夫だ。兵士になったら鍛えてあげたいな。



「久しぶりだなアレキサンダー殿!大きくなった!」

「久しぶりだな、姫さん」

「姫などと!名で呼んでくれ」

「あ、うん。ぶら、ぶらん、でも姫だし姫でいいじゃん。あ、そっちの即鬼も代わってないよな、久しぶりだなぁちょっとあっちで話しようぜ!」

「アレキサンダー様、姫のルバンカ様がル・バ・ン・カ・様がおなりですので」

「ん?急にどうした?ルバンカ、あいつ変だよな?」

「緊張しているのかもしれないな。アレキサンダーは以前よりずっと強くなったようだ」


「わかっちゃう?そうなんだよねぇ!まぁそれについても色々あってな、今度建国して王になるから、その儀式って言うか記念っていうかで俺を王と認めて祝福してくれる奴を集めてるんだよ。ルバンカ来てくれるか?」

「そうなのか!それは…それはとてもめでたいし個人的には祝福する。ただ、我らは今、勇者の庇護に入ろうと準備をしているのだ。アレキサンダーを王と仰ぐのは私の一存では、出来ないんだ」

「勇者か。まぁそれは置いといて、個人的に来てくれりゃいいんだよ。朝迎えに来てその日の内に送り返す、鬼族として何かしてもらいたいわけじゃない」

「本当か!私に祝福してもらいたいという事だな!もちろん行く!絶対行くぞ!そして我がお、お、お、お、お……としてだな」


「いやだから我が王とかじゃなくていいんだ。他国の即位式で拍手するくらいの気持ちでいい。鬼族の姫個人として俺を祝ってくれ。えーと、6日後だな。ここに迎えにくる」

「わかった。こちらも準備しておこう」



「それで、さっき言ってた勇者の庇護に入るっていうのは?」

「あぁ、以前にも勇者を探しているのは言っただろう。我が一族は困窮している、一部の商人を受け入れたが妹を攫われて更に溝が広がってしまった。普人からは鬼族は魔王の側だと思われている、実際に魔王側の一族もいるが我らとは敵対しているのが現実だ。勇者の魔王討伐を手伝って庇護下に入るというのが我らの悲願なのだ」

「ふーん。勇者は見てきたが、あんまり庇護とか仲間とか考えるタイプじゃなさそうだぞ」

「会ったのか!?どうだった!本物の勇者だったか!?」

「話はしてない、だが間違いなく本物の勇者なのは保証できる。鬼族があいつの下に入るってなら止めないが、あまり期待はしない事だな」


「うむ、勇者の動向は聞いている。だが父は勇者に頼っているし、姫巫女である妹が、ちょっとな」

「あん?そういや俺のことを悪魔だとか教え込んでるらしぃなぁ?」

「それがな、妹にはアレキサンダーが助けてくれたことを何度も伝えているんだが。恐怖を刻み込まれしまったようで」

「ふむ」

 それは……、間が悪かったな。ちょっと演出をしていただけなんだ。あくまで町の住人から鬼族が悪感情を受けないように、可哀想な妹姫を演出しようとしただけなんだ。


「あの事件以来不思議な力も手に入れてな。元々貴重な巫女だった事もあり、今では私に従ってくれるのはこの二人くらいのものだ。一族が勇者に庇護を求めるのは私には変えられない。」

「そうか、人が欲しかったが仕方ないな。俺の国は勇者と争うからいずれ鬼とも戦う事があるだろう。恨みっこ無しでいこうぜ」

「あぁ」






 鬼族の兵士は借りられなかったが、とりあえずルバンカの出席は確約された。

 これで現役の姫三人、滅亡した元市長の娘、元聖女、竜、精霊が出席するわけだ。実情はどうあれ、王の建国宣言として一応面目の立つ構成に出来たな。それぞれ立場もあるので暫くは内緒だ。


 学園長の婆さんは流石に見つけられる気がしないので放置。特に式典なんてするつもりは無いので、豪華な昼飯の準備と新品の服を用意して当日を待った。






 そしてあっという間に当日。

『おはようアリーちゃん!』

「おはようフレア、隣の建国屋さんは今日はまともな服を着てるのね」

「お前学園の制服のままかよ、姫としてそれでいいの?」

「うるさいわね十分でしょ!大した式典でもなし」

「まぁ」

 こいつには俺を祝おうという気持ちが清々しいほど存在しないな。



「次はここだ」

「え?」

「お、カバンちゃんはドレス着てるな。フレアゆっくり降りてやってくれ」

『はーい』

 ドズゥン!

「おはようございますアレキサンダーさん」

「おうカバンちゃん、ちょっと狭いけど辛抱してくれ」

「え?待って待って待って!あれってトーリアの姫!?始めて顔を合わせるんだけど!?」

「うるせぇな、そりゃ建国の式典にお前呼んでるんだから他もそのレベルって分かるだろ」

「私制服なんだけど!?」

「誰も気にしねぇよ、だよなカバンちゃん」

「………一旦ちゃんと紹介してください」


 あまり時間も無いんだが、二人の顔合わせとして少しだけ時間を取った。

 カバンちゃんの本名はエリセラ・リリアーナ・トーリア・ヴァリエル。愛称はエリナ。

 アリーの本名はアリシア・エリゼ・アンティカ・フェアリス。愛称は当然アリー。

 ちなみに姫姉ちゃんの本名はアストリア・カリーナ・トーリア・ヴァリエル。愛称はアスナだそうだ。姉妹共に一度も名前で呼んだことが無い。



「あ~すんごい恥ずかしい、他所の国の王族が来るなら言いなさいよ!」

「俺も王族になるんやが?」

「そこはちゃんと通達するのが常識ですよ」

 時間も食っちゃったのでそろそろ村に帰ろうとしたその時。

「追いついたわよ!待って!ずっと探してたの!」

 元学園長の婆が現れた。


「いいとこに来たな、俺も探して…は無かったが頼みたい事があったんだ」

「いいわ!お姉さんが何でもしてあげる!だから花の聖女がどうなったか教えなさい!」

 やめろ詰め寄るな、というか花の聖女という単語を俺に突きつけるな。想像したくない。


「オババは最初は実なんていらないと言っていたんだが、お前が2つ食べた話をしたら自分は3つ食べると言い出してな。見た目10歳くらいの少女になっちまって、頭の方も子供みたいで困ってるんだよ。あぁそれと、なんかそれただ若返ってるんじゃないみたいだぞ。老化も遅くなるから、オババが学園長の見た目になった頃には学園長は40のおばさんくらいには戻れるんじゃないか?」

「ぎ、ぎ、ぎいぇえぇぇぇぇえぇぇぇええ!」

 学園長は奇声を上げながら頭を掻きむしって発狂してしまった。姫二人はドン引きである。


「仕方ない、置いといていこうか」

「待ってください!頼みがあるんでしょう!なんでもしますから!私にももう一つ実をください!沢山持っていたでしょう!?分けて!お願い!」

「いやお前何でもする引き換えに質問したじゃん。何サラッと流してんの?」

「す、すいません!2つ!ちゃんと2つ聞きます!お願いします!お願いします!」

「ふーん。じゃあ今から俺が建国するから勇者のトコの国?の偉いやつとして公式に参加しろ、その後は勇者のスパイだ」

「はい喜んで!!」

 あっさりと国を売る元学園長。姫さん二人は更に引いた。




 よかったなアリー、こいつが国から離れてくれて。とりあえず村に帰ろう。

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