第39話 試練の時
勇者達は去っていった。戻るのかまだ周るのかは知らん、捕らえた人間を引き連れてご苦労なことだ。
俺の力も戻ってきた。だがこんな物は偽物だ、俺はこの世界のシステムの中で最強を気取っていただけの間抜けなんだ。俺の自尊心は地の底に落ちた。
取り戻さなくてはならない、そうでなければ生まれた意味がない。その為には勇者も殺すし、世界が阻むと言うなら世界を破壊してやる。
『元気を出すのです、アレキサンダーは強いのです』
「一旦帰る。懐に入れ」
知恵が欲しい。今はみんなに頼ろう。
すっ飛ばして実家の村に帰ってきたんだが…、村が要塞化してる!?
「ただいま。母者、村は一体どうしたのですか?」
「おかえりなさいアレキサンダー。知らないかしら?隣の国で勇者が暴れまわって色々荒れているらしいのよ。それでベル様やアスナさんの助言で城塞を作ったの。うちにはフレアちゃんがいるから、攻城戦になったら焼き払って無双する予定よ」
なにそれ、やっぱり母者はすげぇや!
「ところでベル様とかアスナさんって誰です?」
「オババ様と元お姫様よ」
「あぁ……」
そういえばそんな事を言っていたな。お姫様はともかくオババはきっつい。
「そうだ、ちゃんと紹介してなかったけど精霊のケトです。ケト、あるだけの金貨とダンジョンで拾った使わない物を出しておいてくれ」
『はじめましてなのです、金貨とアイテムを出しておくのです。ゲェコゲッコ!』
ドバー!っと出てくる金貨達。深夜のトレーニング兼狩りの成果を溜め込んでいるのに加えてダンジョンの稼ぎもあるので凄まじい額だ。山になった金貨の間には装飾品や使わない魔剣なんかも刺さっていて、隠された海賊の財宝みたいになってる。
「あらあら!素晴らしいわ!ケトちゃんよろしくね!金貨ちゃんもよろしく!ずっとここに居ていいのよ!」
「よかったなケト、ずっと居ていいってさ」
『違う風にしか聞こえないのです』
「ところで母者、フレアは村にいますか?」
「フレアちゃんなら昼間はアリーちゃんの所まで出掛けてるわよ、夜になったら戻って来るはず」
随分遠くまで出掛けてるんだな。そう言えば以前アリーがここに来ていたが何しに来ていたんだろう?まぁとにかく夜になってからだな。
先にみんなに会っておこう。
「よう姫さん」
「アレキサンダーさん!母共々お世話になっています、姉妹達も沢山お世話になってて、本当にありがとうございます」
「あぁ、不便があったら言えよ。そういや妹は来てないのか?」
「んん?やっぱり妹の事が気になっちゃいますかぁ?仕方ないですよねぇ、男の子ですもんねぇ」
うぜぇ。
「あの子は国の最重要人物になっちゃいまして、次の国母になる予定です。女王の可能性もありますけど」
「は?ミソッカス姫じゃなかったの?」
「王冠をかぶって竜とお友達アピールしちゃいましたからね。国民からの支持が凄いことになっています」
ふむ、つまり俺のせい。無意識に王の振る舞いをしてしまったようだな。
「王の言いなりになって貴族の物になるのを助けてくれるんですよね?妹の隣、空いてますよ」
「ガキには興味ねぇんだ」
「あらら、じゃあお姉ちゃんがいいんですねぇ。よしよしアレキサンダーくん、大きくなったらお姉ちゃんと結婚しようねぇ。ぷくくく」
「………うん」
「え?あの、アレキサンダーさん?」
「はっ!なんでもない、ではまたな!」
「そうですか、これはこれは。くっくっくっくっくっ、またお会いしましょう」
くそっ!ストレスが溜まってるのが悪いんだ!
気を取り直してリリスに報告だ。
「剣はたぶん勇者が持ってるぞ。勇者が盗んだのかは分からん」
「そうですか、勇者様が。ある意味持ち主に帰ったとも言えますね」
「随分反応が薄いな?」
「もう終わった事ですので」
幸薄そうににこりと笑う、こりゃあよくない傾向だなぁ。まぁ俺が何をするわけでもないが。
『元気出すのです。きっと楽しいことも見つかるのです』
「ありがとう、大丈夫」
全然大丈夫じゃ無さそうなんだがな。
「オババーおるかー」
「オババと呼ぶなと言っとるじゃろうが!わしは10歳の幼女なのじゃ!」
「きっつ……」
「ぶっころされてぇのかこのクソガキャア!」
「あぁそうそう、そういうのでいいよ。見た目は気にしない」
のじゃロリとか1ミリも興味無いから止めて欲しいんです。
まじで脳みそまでガキになってる説が濃厚だな。やべぇアイテムだぜ。
「それで、葉っぱと実は調べてんの?」
「うむ、葉の方は薬効が多すぎてそのまま食べれば十分じゃな。余計な加工はいらんのじゃ」
「実の方は?」
「ふふふふふ、聞いて驚け!これは可能性の実と言われるだけあって、食べた者の可能性を伸ばす効果があるのじゃ!」
「可能性?若返りじゃないのか?」
「それは効果の一部じゃな。これを食べると、可能性言い換えれば限界を先へ延ばすのじゃ。100年程度しか生きられぬ者は200年生きられる様になる。元が50歳の者は200年の人生の中の50歳、つまり25歳程度の若さになるわけじゃ。これを3個食べたら…カッカッカっ!わしは後10年は幼女じゃのう」
「ひでぇ話だ、しかしそんなのよくわかったな」
「調べたら本に載っていたのじゃ。もちろん確認もしたから間違ってないと思うぞ」
限界を伸ばすか、あの頃にこそ欲しかったものだな。
「それ、若返りの成分だけ抜けないか?」
「む?それはかなり難しい注文じゃの」
「無理か」
「そうではないが…、若返りの成分を煮出したり出来る物ではないのじゃ。やるなら魔法でアプローチせねばならん。繊細な魔法操作が必要なのじゃ、わしだけじゃ無理じゃの」
「残念だ。ところで、加護って知ってるか?」
「ん?聞いた事はあるがよく分からんのじゃ。人の触れる領域ではない」
「そうか」
村で話をして回ったが特に収穫は無し。可能性の実は今後に期待だな。
本命はフレア、というか竜の谷の長老だ。あいつならきっと知っている筈。
夜になったら帰ってくるというフレアを待った。
久しぶりに家でゆっくりと弟の相手をした。たまにしか帰って来ない兄に懐くわけもなく、それでも俺のことをあんちゃんと呼んでくれる。
めんこいのう、めんこいのう。弱く無垢な弟を見ていると命の尊さってやつを感じてしまう。
こんな俺だが、人の命は奪いたくない。そう思わせてくれるのはこの村にいる連中のおかげだ。
母者と和解せず、オババの心も知らずに生きていたら、俺も勇者みたいに力に溺れていたかもしれねぇ。
だから、勇者は俺が止めてやろう。俺と変わらない歳だ、ちょっと間違えちゃっただけだよな。
まだガキなんだ、誰かが止めていればきっと違う道もあったはずだ。
話したこともない相手だけど、俺が一番わかってやれる気がした。
翌朝。
『いい天気だね!行こうアレキサンダー!』
「あぁ頼むぞフレア」
竜の谷は流石に遠い、勝手に入ると揉めそうだしフレアと会えてよかった。
『全然いい天気じゃないのです。晴れの日の方が方が多いんだから普通の日なのです』
『なんだよ文句あんのか!腹立つー!』
「喧嘩すんじゃねぇよ」
竜と精霊って仲悪いの?それとも火属性と水属性だから?
「あぁそうだ、すまんがちょっとだけ寄り道してくれ。たぶんまだ歩いて移動してるから」
『GAAAAAAAA ! !』
「うわぁ!竜だ!逃げろ、かないっこない!」
「助けてくれぇぇぇ!」
逃げ惑う兵士共。攻撃を当てずにちょっと落としてやるだけで崩壊してやがる。
『ぼくこういうの久しぶりかも』
「やりすぎるなよ、さっさと引き上げよう」
元盗賊を移送しているのを見つけて襲った。捕まったのはまだ昨日の事だしな。
あの勇者がチンタラ付き合っている訳がないと考えたが予想通りで助かった。
別に助けてやる義理は無いが、俺の心に余計な物を残すからな。
竜の谷。長老の穴。
「長老、久しぶりだ。聞きたいことがあって来た」
『あーん?おぉ、おんしは!…おんしは……誰じゃったかの?』
「少し前に可能性の実を分けてもらったものだ。その時は世話になった」
『あぁそうじゃそうじゃ!あの時の生意気な小僧じゃ!人間が来るなんて珍しいのに2度も来るとはの、しかも精霊まで連れておるとは数奇なもんじゃ』
『こんにちは竜の長老様、私は水の精霊王の娘、ケトなのです』
『あぁこんにちは精霊殿、ゆっくりしていくといい。それで聞きたい事とは?』
「加護について知りたい。竜と戦った事はあるが、勇者と戦おうとするとそれ以上に力が失われたんだ」
『はっはっはっ、きっと聞きに来るとおもったわい。おんしならきっと勇者とも魔王とも戦おうとするとな』
「知っているのか」
『もちろんじゃ。解決方法もな。まず竜とのちがいじゃな。簡単じゃ、勇者の方が加護が強いからじゃ、竜王様はもっと強いがの』
「それは分かる、どうやったら突破できるんだ」
『そう慌てるんじゃないわい。まずな、竜やそこの精霊殿への加護は種族全体の物、それに比べて竜王様や勇者、魔王の加護は専用に与えられるものじゃ。だから強弱があるんじゃな』
「つまり?」
『慌てるなとゆうとろうが。勇者は魔王と戦う。だが一騎打ちではないの、双方に手下がいる。そして手下は加護の影響を受けない。つまり強い加護を持つものは加護を分けられるんじゃ、弱い加護でも持っていれば強い加護の影響を受けない』
「おぉ!それじゃその加護を貰えばいいんだな!」
『そうじゃな。だがおんし、誰に加護をもらうつもりじゃ?勇者の加護をもらっても勇者と戦えば失うじゃろう。勇者と戦うなら魔王の加護なら貰えるかもしれんの、しかしそれはおんしが魔王の下につくという事じゃ。おんしにできるかのう?』
「なんだ?別に一時的に下につくくらい…それくらい……」
『はっはっはっ!それが出来る者は一人で加護持ちと戦おうとはせんのじゃ!』
「何だそれ……他に方法は無いのか?」
『おぉあるぞ!3つある!すきなのを選ぶがよい!』
「なんだよあるのかよ、教えてくれ」
『1つ、先程の弱い加護をもらう方法じゃ。一番簡単じゃの。2つ、邪に堕ちる事じゃ。勇者も魔王も敵対はしておるが真っ当な存在じゃ、真に邪悪な者は他におる。邪に堕ちれば加護を無視できるし強化もされるぞ』
「邪悪?それでいいじゃないか、どうすればいい」
『人間の所にダンジョンがあるじゃろう、深く深く潜ればよい。自然と邪に染まっているはずじゃ』
『駄目なのです!それはもうアレキサンダーじゃなくなるのです!』
『ちょうろうはダンジョンは絶対ダメって言ってたよね?』
『うむ、だがそれを望む者もいるという事じゃ』
「わかった、それでもう一つは?」
『はっはっはっ!もう一つはな!真に王となることじゃ!王には加護はないが加護の影響を受けぬ。この世界の制約から外れるのじゃ。ただし王とは一人立つ者ではあらず!王となればおんしの持つ力はすべて失われる!過去の竜王様と同じ様にな!』
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