第36話 勇者の戦い
「いた!逃さないぞ!『連射』!」
『ギュゥゥ』
「やった!これで武芸家もLv100だ。勿体ないけどイベントまではこのままにしよう」
遠出してレアメタルスライムを狩って効率的にレベル上げを勧めた甲斐があった。ミレイはついてこなくなったけど、あいつは既にレベル100を超えている純ヒーラーだから後ろで回復魔法を投げてくれるだけでいい。
「ステータス」
―――――――――
アレス
7歳
ジョブ 武芸家
レベル 100
体力 996
魔力 212
スキル
加護(勇者)
アイテムボックス
命中増加
風の加護
戦士の心得β
体術β
武芸百般
スキルアーツ
召雷
ブレイブモード
スティール
隠身
影刃
狙い撃ち
連射β
パワーシュート
チャージ
パリィ
曲射
不意打ち
鎧通し
稲妻蹴り
縮地
後の先
居合斬り
魔法
回復魔法Ⅰ
――――――――――
転職を繰り返した事でステータスは勇者の時よりも低い。それでもスキルはだいぶ増えた。
最上級職を出すためには大量の職業を経験しなきゃならないんだ、今は基本ジョブばかりこなしているのでステータスが低くても仕方ない。
それでも上級職のレンジャーと武芸家を上げた、折角の高ステータスは魔法職のレベル上げ時に失われるけど、それでも確実に村を守りたいんだ。
村が襲われるのは俺の8歳の誕生日、魔王軍の部隊が勇者の存在を察知して殺しに来る。魔王軍のボスは強くて基本的には負けイベントになっている。ここで俺とミレイだけが逃され、同じく勇者を察知していた国の部隊に助けられて15歳まで王都で訓練する流れだ。
だが二周目以降では勝利することも出来て、そうなると村は無事なままで修行に出ることになる。記念アイテムが貰える程度のお遊び要素でしか無いんだけどな。
「俺は勇者なんだ。みんなを守って、ヒロインも全員攻略してハッピーエンドだ」
アイテムボックスから水の剣を出して構える。この剣の攻撃力があれば村を襲う魔物のボスも倒せる、防具もアイテムも無いから短期決戦だ。並の武器では倒しきれないかもしれない。
だからこれは必要だったんだ。それにこの剣は数年後には俺に貸し出される剣なんだから、ちょっと早くなったくらいは平気なはず。
そう自分に言い聞かせて村に帰った。そしてすぐにそれが間違いだと気付かされたんだ。
村に帰ると見知らぬ人達が町の広場に集まって座り込んでいた。100人はいるか?この村の人口より多いかも。
「なんだこの人たち?」
「難民?の人たちらしいよ。色んな町で大変な事になってるんだって」
ミレイが教えてくれる。なんだそれ?そんなイベント知らないぞ。
「なにそれ?何かあったの?」
「しらない、あの人達に聞いてみたらいいじゃない」
クソっ、最近のミレイは反抗的な態度が多い。だがこの村を守りきれば俺への好感度が上がるはずだ。我慢我慢、絶対ヒロイン全員並べてやるからな。
「すみません、みなさん何があったんですか?」
「子供か。内乱だよ、分かるか?国の中で殺し合ってるんだよ!もうこの国は終わりだ」
「内乱?……なぜ?」
「はぁ…、水の都リヴェールの水の魔道具が奪われたんだとさ。勝手にくたばればいいのに、その町の連中が国中で暴れてるんだよ。数が多いし迷惑な話だぜ」
「水の………。え、でも、水くらいで」
「知らねぇよ。とにかく水の町は壊滅してるって話だし、アイツラは色々な町に勝手に居着いて暴れたんだ。小さい町や村は占領されて滅茶苦茶だ」
そんな、あの剣はいつかは抜かれて俺に渡されるんだから、今無くなったからってちょっと混乱するだけの筈だろ?なんでこんな事に。
難民の人達を見ると俺と同年代子供や母親に抱かれた赤ちゃんもいる。これが俺のせいだっていうのか?でもこれは必要だったんだ、仕方ないじゃないか。
「あ!そうだ!この村は危ないんだ!他に行った方がいい!」
「うるせぇ!どこに行っても同じだ!うせろ!」
駄目だ、ここはもうすぐ襲われるんだ。こんなに沢山の人を守れるわけがない。
でもこの人達を追い出すってどうすれば?ここに居たら村人の食料すら足りなくなるが、出ていっても行き先なんてない。
どうすればいいんだよ。
こんなのはシナリオに無い、解決方法なんて分かるわけが無いだろう!それでもここは危険だと言って回ったが、全く聞き入れられる事はなかった。
3日後、結局何も思いつかないまま俺の8歳の誕生日が来た。
もうごちゃごちゃ考えても仕方ない、俺は勇者なんだ、敵を倒せばいい、必ず上手くいくはずだ。
「ちょっと散歩してくるよ」
家を出て、アイテムボックスから出した装備を身に着けて村の外れへ移動する。何度も繰り返しプレイしたから覚えている。生まれ変わってから何度も思い出して確認した。こっちの方からNPCが走ってきて襲撃を知らせてくれるんだ。
「おーい!アレス!逃げろ!魔物が襲ってきた!逃げろ!」
これだ、このセリフの後に後ろから投げ槍に貫かれる。それが惨劇の始まりだ。
「『縮地』!」
ガキィィン!
水の剣が槍を弾く。この剣さえあれば怖いものはない。
「うわぁぁ!アレス、今のはいったい」
「おじさん、みんなに家の中で隠れるように伝えて。今のを見たでしょ?ここは俺が足止めするよ」
「わ、わかった!危なかったら逃げろよ!」
森から続々と魔物が出てくる。そこらにいるスライムや獣みたいなのじゃない。魔族に支配された魔物達、武器を持つトロールやオーガ、魔法を使うデビル達もいる。
死ぬはずだったNPCを助けた。ここからはシナリオがずれるかもしれない。それでもボスを倒せば撤退するのは変わらないはずだ。
「俺が勇者だ!かかってこい!『召雷』!」
メギャアアア!!
勇者のみが使える強力なスキル。轟音と共に稲妻が迸り、余裕たっぷりに歩いていた前線の魔物たちを消し炭に変える。
『ボオオオアアアアアア!!!』
戦いが始まった。もう戦う事しか出来ない。父さん、母さん、ミレイ、町のみんな、無事でいてくれ。
『ブゴォォォ!』
オーク戦士の繰り出す槍を掻い潜り、切れ味に任せて袈裟に切り裂く。剣術の練習なんてしたことはない、それでもスキルが的確な回避を教えてくれる、武器の扱いを教えてくれる。これまでのレベル上げの成果だ。
『ゴオオアアアアア!』
巨大なトロールが迫る、こんな奴の攻撃を受け止める気はない。
「『稲妻蹴り』!『鎧通し』!」
高速飛び蹴りで怯ませ、体の内部から破壊する掌打を打ち込んで倒す。格闘家の技だ、豊富なスキルの中から最適なスキルを選択する。
『シャアアアアア!』
「『スティール』!」
リザードマン達の連携攻撃、槍の薙ぎ払いをかがんで躱し、剣の振り下ろしを横に飛んで避け、狙いすましたもう一本の槍を盗賊のスキルで奪い取った。
「『パワーシュート』!」
レンジャーのスキル、狙いすまして投擲した槍は凄まじい威力を発揮してリザードマン3体を串刺しにする。
「いける、やれるぞ!『召雷』!」
距離を取ってもう一度強力な勇者スキルを放った。勇者のスキルは強力だが燃費が悪い。それでも雑魚をまとめて減らす事でボスを引きだしたかった。
『撃て』
ドン!ドン!ドン!
「!!」
突如巨大な槍が投げ込まれる!しまった!派手なスキルを使用する隙を狙われたんだ!
必死に身を捩って回避を試みるが、避けきれずに一本が太腿を切り裂いた。
「ぐぅぅぅっ!」
『ふん、これが勇者か。魔王様が警戒する程の者でも無かったな』
現れたのは真っ黒なタキシードを身に着けた気取った男。ゲーム通り魔族の伯爵だ。
「弱くて悪かったな魔族野郎、後ろに隠れていなくてよかったのか?」
『ふむ、不快だ、死ね。『ダークエッジ』』
ここだ!
「『パリィ』!」
ガキィン!
怪我で上手く体を動かせなくても、発動したスキルが無理やり体を動かしてくれる。不用意な攻撃を弾き返され、魔族が体勢を崩した。
「『ブレイブモード』!『縮地』『影身』」
勇者専用の強力なバフを発動し、高速で移動して姿を隠した。物理系への転職を繰り返したせいで魔力が足りない、ここで決めるしかない!
「ちっ!逃げたか。追え!住民を皆殺しにして炙り出せ!」
誰が逃げるものか!俺は勇者だ!みんなを守るんだ!!
「『縮地』!『不意打ち』!『居合斬り』!!」
『なにっ!?』
今の俺に出来る最大の攻撃!ブレイブモードで2倍の攻撃力、発見されていない状況からの不意打ちで更に2倍、居合い切りで更に2倍だ!
魔王撃破後2周目相当の体力に、魔王にも通じる水の剣、そこに8倍の火力のスキルが合わさった一撃!俺の7年間の集大成!
魔族がギリギリで反応して剣で受けるが、そんな物で止めさせない!
『ぐぅぅぅううううう!こんなチビに!!』
「うおおおおおぉぉぉ!!」
『魔王様!魔王様ー!』
ズバァァァァ!!
受けた剣ごと胴体を真っ二つに切り裂いた!勢い余って射線上の魔物達を巻き込んで剣閃が走る!
「やったぞ!ボスを倒した!」
後は雑魚達だ、統率する魔族がいなくなれば魔物達が強い相手と戦う理由はない。
『ギャウウウウ…』
「残れば殲滅するぞ!『召雷』!」
メギャアアア!!
3発目の召雷、生き残った魔物たちも恐れをなして逃げていった。もう俺も空っぽだ、逃げてくれなかったら危ないトコだった。
「いててててて」
興奮が覚めたら足の痛みで立っていられなくなった。本当はミレイに補助してもらうつもりだったんだが、人も増えちゃったから呼ばなかったんだ。
ミレイには攻撃スキルがはないがレベル100を超えているし、回復スキルでみんなを助けてくれるはずだ。
「傷を癒せ、リバリス・ケリナ・フラウディア」
俺に使えるのは勇者Lv5で覚える初歩的な回復魔法だけ。まぁないよりずっといい、早く足を直して村に戻ろう。疲れたよ。
30分後、村に戻った俺が見たのは、背中から血を流して意識を失っているミレイだった。
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