第22話 5歳 お姫様には勝てないぜ

「ところで、なんで姫さんがこんなトコで働いてんの?」

「言っときますけど冒険者ギルドは国を跨ぐ大きな組織ですよ?スキルも合ってたので王都のギルドのそこそこ偉いポジションに座ったんですけど、退屈だから窓口やってたらあなたに絡まれたんです」

「姫さんなのに仕事かよ」

「王様は男の子が欲しくて頑張ったんです、結局駄目だったけど。妻は10人、王女ばっかり23人もいるんですよ、しかも私の母は子爵の出なので私達姉妹は本当に全然まったくの無価値。後が続かない王の血筋なんてむしろ邪魔って事ですね。でも一応王女ですから、それなりのポストに置いておいて、そのうちどこかの有力貴族の後妻という形で処分されるんです」

「……ほーん」

 つまんねぇ話を聞いちまったな。王という存在を穢さないでもらえますかね?


「あれ?もしかしてかわいそうとか思っちゃいました?」

「いや、国王気色悪い死ねって思った」

「ふふふ、そうですよね。本当に気持ち悪いです。さあこの部屋ですよ」

 まぁそんな事は今はどうでもいいんだ、世の中には理不尽も気色悪いやつもウジャウジャいる。それでも俺はそれを力で打ち砕くんだよ。



「じゃじゃーん!これが転職の祈り像です!賜り物ですからね!絶対に触らないように!」

「はあ?」

 見せられたのは30cmくらいの像。そこらの寺院にいけば置いてそうなふっつーの像だ。特に力も感じないし液晶画面も無い。転職ってクリスタルに込められた記憶とか、神官長が「カーッ!」ってやるとかじゃないの?

「嘘くせぇな」

「嘘じゃない!嘘じゃないです本当です!これ、この、こちらの像で出来るんです!私がサポートしますから!」

「うっそくせぇぇぇ」

「いいからやりますよ!目を瞑って転職したいと祈ってください!」


 うーん嘘くさい。だがまぁとりあえず軽くやってみよう。

(転職したい!転職したい!謎の像様!お縋りします!信じております!転職したい!魔法使いになりたい!お願いします!お願いします!!)

 嘘くさいせいで俺の気持ちの1/10くらいしか込められなかった。

「そのままそのまま、なりたい職業をイメージしましょう。戦士系ですよね?」

「魔法使いだ!絶対に魔法使い!」

「向いてないですけど」

 断言するなこのクソ女ぁぁぁl!


「むむむ!出てきましたよ!目は開けないでくださ~い。・・・あれ?」

「なんだ、もういいのか?」

「はい、目を開けてください。こちらが現在転職可能な魔法職の一覧です」

 ペラリと紙が渡される。一覧も何も無い、チラリと見ただけで狂魔術師としか書いてない。

「命がいらねぇようだなぁ!どうせ未来もねぇしなぁ!」

「違う!違うんです!転職候補はあたなの素養で決まるんです!あなた、魔法の勉強しました!?」

「は?」

「魔法使いたいのに魔法の勉強はしないって狂ってますよね。だから狂魔術師が出たんでしょう。よかったですね」

 舐めやがって腕へしおるぞ!……いや、駄目だやめとこう。そういうのよくない。


「あれあれ?先日はすぐ暴力を奮ったのに。もしかして………、私がお姫様だからですかぁ?」

「ッッッ!!」

「やっぱり逆らえないですよねぇ、私お姫様ですから!おほほほほほ!」

 ムカつく!しかし…!しかし……!許してしまう!!お姫様だから!!俺の中の少年の心が!お姫様の全てを肯定してしまう!!



「ふっふっふ、勝ちました。それでどうします?狂魔術師に転職したら魔力はぐんぐん伸びますけど、今の能力は半分になっちゃいますよ?」

「構わん。最初から決めていた事だ、やってくれ」

「わかりました。では目を瞑って祈ってください」

 目を閉じて狂魔術師に転職したいんだー!と祈る、でも非常に嘘臭いので片目をこっそり薄目にしとこう。

「にゃむにゃむにゃむにゃむにゃむ……カーッ!」

「あばばばばばばばば!!」

 突然頭をかち割る様な衝撃!頭の中に何かが書き込まれてる!?なんじゃあこりゃあ!!

「ふぅ、終わりました。確認してください」


「ステータス」

 ―――――――――

 アレキサンダー

 5歳

 ジョブ 狂魔術師

 レベル 1


 体力 27739

 魔力 282


 スキル

 狂化τ

 体力+5%

 体力+20%

 体力+50%

 体力+100%

 体力+200%

 体力+300%

 体力+400%

 体力+500%

 鍛錬ω

 天壌無窮


 スキルアーツ

 狂戦士化


 魔法

 なし

 ――――――――――


「うん、ちゃんと転職出来てるな。魔法覚えてないけど」

 ちなみに転職前がこれ。


 ―――――――――

 アレキサンダー

 5歳

 ジョブ 狂戦士

 レベル 552


 体力 55476

 魔力 552


 スキル

 狂化ρ

 体力+5%

 体力+20%

 体力+50%

 体力+100%

 体力+200%

 体力+300%

 体力+400%

 体力+500%

 鍛錬ω

 天壌無窮


 スキルアーツ

 狂戦士化

 ――――――――――


 ステータスが半分になった。以上、終わり。

「なんで魔法無いの?」

「狂戦士には攻撃スキルがありましたか?」

「いや、無いけど…」

「狂魔術師も職業魔法は無いです。狂ったように魔力が伸びます」

「だ、騙したな!」

「全然違います。魔力は上がるので自分で勉強して魔法覚えなさいって事です。どうせ勉強しないと他の魔法職が転職候補になる事も無いんですから、どっち道勉強するしか無いんですよ」

「ああああああああ!!」

「お勉強ちまちょうねぇ!まだお子様なんだからみんなと一緒におうたを歌って算数のお勉強でちゅよぉ!」


 クソ煽ってくれるじゃあねぇか舐めやがって!!だがお姫様が笑っているだけで世界平和を感じて前頭葉がトリップしてしまう!殴れねぇ、俺には殴れねぇ!!それでも!

「てい」

 ガシャアァァン!

「ああぁぁぁぁぁ!銀貨3枚もしたのに!!」

 やっぱりただの像じゃねぇか。

「やはり騙していたな。転職を行ったのはお前のスキル、そうだろう」

「うぐぅっ!」

「お前はそのスキルがあるからギルドに所属している。そして各ギルドは王都のギルドでしか転職できない。信用のあるものしか転職できない」

「お、おこちゃまの妄想ですね!?」

「最近おもしろい話を聞いてな。勇者ってのは神性がどうのって特別な存在らしい。産まれた時から選ばれているとは大層な話だ。しかも勇者は簡単に転職していたって逸話があるそうじゃないか。そんな選ばれた存在が実在するなら、他にも居てもおかしくないよなぁ?」

「う、うぅっ」

「お前たち王族には特別なスキルがある!それが転職だ!王族は特別なスキルゆえに長く王族たり得たのだ!!」

「くぅぅ・・・」



「そうです、私には戦闘職の転職を行うスキルがあります。でも王族みんなが持ってるわけじゃないし、商人や職人系の転職を行う子もいます」

「なるほどな、王が息子を求めたのもその辺りが原因か」

「お察しの通り、直系の息子に最も強く遺伝するとされています。私の子供に遺伝する可能性は低いんです」

 ほーん、なるほどねぇ。それにしても転職スキルくらいでよく王族だったもんだ。逆に奴隷になっててもおかしくないだろうに。

「職業は天から授かるもの。それを変更するスキルを天から授かるという事は、天の代行者であると解釈されています」

「心を読むんじゃない」


 解釈とかは興味無いが、こいつらのスキルは大変素晴らしく得難いものだ。しかも都合よく沢山余ってて不遇ときた。

「お前の姉妹って不遇なの多いの?」

「母親次第ですね。正式な王妃3人の娘は大貴族の娘でもありますからそれなりです。上の方のお姉様方は早めにいい相手を見つけて結婚してますよ。駄目なのは王の息子誕生を見限られた後に売れ残っていた、残り7人のなんちゃって妻の娘です。10人くらいかな?」

「ほーん、なーるほど」

 なるほどね。



「それで、魔法の勉強に適した場所を知らないか」

「それならアンティカですね、魔導王国アンティカ。竜の山の向こう側ですよ」

「そう言えば国名だけ聞いてたな。まぁとりあえず行ってみるか」

「いいと思います。まだ若いんだから未来の為に勉強しなくっちゃ!」

「お前も若いだろ、何歳だよ」

「お姉ちゃんはもう18ですよぉ、僕くんと違って大人なんですぅ」

「未来がねぇのか」

「まぁそれはね。一応王族の端くれとして生活に困ることもなかったら、仕方ないよ」

 なぁんか変な顔しててイラつくな。俺が気を使わなくても俺にビビらず話が出来る奴なのに、しょうもない王にいい様にされてんのか。




「ところで、お前にはまだ名乗ってなかったな」

「え?あれきさんだぁ5さい。ですよね?」

「聞け、俺の名はアレキサンダー!偉大な王になる男だ!アレキサンダー大王と呼べ!」

「は、はぁ…」

「俺は国を興す。その時にお前が必要だ。3年、3年待っていろ。お前の家族も、義姉妹も、まとめて俺の国に来い」

「いきなり何をいってるんですか?」

「気色悪い王の言いなりになって、気色悪い貴族の物になるよりいいだろ?身綺麗にして待っていろ!」

「……そうですね、そうなったら素敵ですね」

「必ずそうするから黙って待ってろ。俺は竜を打ち倒し!竜を従えた男!最高の国を作り上げるぞ!そのためにお前が必要だ!」

「ふふふ、はい。わかりました。3年後、必ずお待ちしているとお約束いたします」

「当然だ」


 こいつらの力は大変有用だ。俺の作る最強国家の兵士は最強の兵士で無くてはならない。全員が魔法を使える無双の戦士。職人も農夫も商人も魔物を狩り、自由に転職して力を得るのだ!姫たちには祭祀の職業でも与えておけばいいだろう、自由に歳の近い男を見つけて幸せになってもらいたい。

 思わぬ拾い物だったぜ!HAHAHA!!






「おーい!フレアー!」

『遅いよー!GYOOOOO!!』

 街の広場に待たせておいたフレアに飛び乗る。もちろん自慢の為にここにいてもらった。

 どうだ!俺の友達のフレアだぞ!竜だぞ!すげぇだろ!




「それじゃあ行くか!魔導王国アンティカ!魔法の力を得る為に!」

 だが学園編は絶許だ!


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