第19話 5歳 ドラゴンてレア
何故俺の分の耐火ポーションが無いのか?一晩で稼げる金だと1人分が限界だったんだ。火除の魔道具が高すぎて、小市民の命をなんだと思ってるんですかぁ!ってなった。
まぁ魔物対策の装備が高額なのも魔物買取額の高騰に影響を与えていると考えれば文句も言えないな。一応マントだけは持ってる、子供用に作り直した時の残りだ。
とういう訳で今回は生身で向かう。策は考えてあるが、戦いにならないのが一番だ。
会話で解決できればいいな。邪龍はDark、竜王はNeutral、龍神はLightだから、竜王だったら会話が可能なはずだ。世界の半分をくれるかもしれん。
大体今時のファンタジーだと竜は人間の美女に変身して、嫁になったり特大オムレツを作ったりするもんだろ?変身しなくてもフレンズになって竜騎士に転職も有りよりの有り。出会いが楽しみである。
まぁとりあえずは雑魚狩りだ。竜が近くにいるなら割り込みがあるかもしれないので注意を払いつつ、幼女のレベルを上げよう。
「来たぞ!目標!サーペントスライム!距離4800!方位135!俯仰角-8!撃てー!」
「え?え、えい!」
でまかせ観測からの幼女砲台発射!だんちゃーく!飛距離2メートル!
「真面目にやってくれる?」
「………」
めっちゃビキビキしてる。こんな子が幼稚園にいたら恐怖で支配されてしまうぞ。「!?」を毎ページ浮かべてそうな勢いだ。
別に冗談じゃない、実際魔物は見つけたし攻撃の意志を持っている。これで経験値が入るならラクチンだろ?
「まぁ見てな」
転がった石を拾って投げた。途中で石がバラバラになった。
「………」
「………」
「この辺りは植物が少ないし岩も脆いようだから気をつけるようにな!窪んだ場所には絶対に近づくなよ!」
「もっと近くに来た魔物でお願いします」
「はい」
その後は寄ってきた魔物相手に、どうしたら幼女のレベルが上がるか検証した。
経験値表記があるわけじゃないので少々分かり難いが、攻撃の成否どころか有無すら関係なく、一緒に戦う意思さえあればレベルは上がった。
「本当に知らなかったんですね、でも再確認出来てよかったです」
「知ってたなら早よ言えよ」
「実践した事は無かったので」
当然だが昔からとっくに調べられていた事だった。検証大事。
ほとんどが岩山に擬態した雑魚たちだったが、竜の山を登り始めると以前に狩ったゴルドリザード?等の大物も出てくるようになった。カバンちゃんもレベルが上がってニコニコだ。
「金持ちって金使ってレベル上げしねぇの?」
「ある程度はしますよ、でもすごくお金がかかるんです。もちろん危険もありますし、育児が難しくなる面もありますからほどほどです」
なるほどな、子供が力をつけて「それあなたの感想ですよね?」と連発してきたら親子で血を見ることになりそうだ。
その後も「これ金取っていいのでは?」というくらい魔物を狩り、中腹近くまで登ったと思う。カバンちゃんは既に疲労が顕著だが、ここは頑張ってもらうしかない。ここまで接待してきたんじゃないんだ、カバンちゃんが生き残る為に必要だと思ったから魔物を狩ってきた。疲れたかどうかなど知ったことじゃない。
「雑魚が出なくなったな、いよいよか。細かい場所はわからないんだよな?」
「はい、これ以上は近寄れなかったそうです。ですが竜の習性を考えると頂上付近、それも大きな体を収める場所があるはずなので、頂上まで登れば容易に見つけられると思います」
「よし、耐火ポーションは飲み直しておけよ」
慎重に辺りを窺いながら山を登る。しかしここは道無き岩山、空から見ればこちらは丸見えで、隠れる場所といえば精々岩陰だ。幼女の疲労も激しく、再び抱えて歩くことになった。
「申し訳ありません、歩く練習はしていたのですが」
「いちいち謝るな、ここまでよくやった。それより俺の後ろを見ておけ」
倒した魔物の質と数を考えれば幼女のレベルはそこらの戦士気取りと変わらないだろう。やはりレベルだけ上がっても大したことはない、本人の基本性能が無ければ駄目なんだ。
竜の巣を探しながら黙々と登る。
この地形で空から竜に襲われるのは流石に怖い、山肌は茶色一色で見分けが付き難く、自然と歩みが遅くなり精神的な疲労を感じるようになった。
「もう頂上ですよ」
顔を上げると大きな岩の先には空しか見えない。おや?しかしこれは。
登り切るとそこには大きな火口が開いていた。深さは10メートル程か、広く浅い休火山の火口。何やらゴミの様に色々と積まれてある。カラスみたいな習性だが、間違いなくここが竜の巣だ。
「見つけたな。素直にさっさと登ってしまえばよかった」
「竜が帰ってこないうちに宝を探しましょう」
竜の宝物は中々の物だった。キラキラ光る物を集めているのかと思ったが、中には絨毯や壺なんかもある。金属の剣は分かるが木の杖なんてどうして集めたの?なんか高そうだし転職後のために貰っておこうかな。
「あった!ありました!」
カバンちゃんは王冠を見つけて大喜び。俺は適当な杖だけってのも悔しいな、何かいい物はないかな?
「よかった…これでお母様も」
おい家庭の問題を口にするな、絶対聞きたくねぇぞ。
くだらない宝やカバンちゃんの家族問題に意識を逸らしたのがよくなかった。
ゴウ!
突然赤い壁が迫ってくる!竜の尾撃だ!
「ふん!」
ドゴンッ!!
両足を踏ん張り、両腕を顔の前で揃えてブロッキング。ミチミチに満ちた筋肉が大質量の攻撃を受け止めた。感じた事の無い強烈な衝撃。早い、でかい、重い、そして何故か体に力が入らない?カバンちゃんは衝撃でころころと転がっている。
「正々堂々不意打ちとは流石竜、でかい体で隠密とは恐れ入る」
『GYAGAAAAAA!!』
猛り狂う竜、こちらをさっさと仕留めるつもりなのか翼を使う気配はない。
伏せた姿勢で体高8メートル、体長は尻尾を抜いて10メートルってとこか。
言葉が通じるかは分からんが、もう戦いは始まったんだ。ここで殺す。それがもっとも安全だと判断した。
接近戦だ、距離を取るのは絶対に駄目。食らいついたら離さんぞ。
「飛燕竜尾脚!」
まずはさっきのお返しだ。狙うは顔面ではなく腹、低い弾道の両脚蹴り!
音速の壁を突き破りマッハで突き刺さるはずの技だが。
「お、おそい!?」
スピードが出ない、力が籠もっていない、踏切が甘い、何だこの腑抜けた技は!
ブン!
ちんたら飛んでいる俺をはたき落とそうと巨大な腕が迫る。
「がぶぅ!」
はたき落とされそのまま踏みつけられた。重い!動かせない!なぜだ?なぜこの程度の物が何故動かせない?
『GUU・・・』
竜の目が細められ、口を閉じたまま牙を見せる。こいつ笑ってやがる!
「このクソボケがぁ!【狂戦士化】!」
スキルアーツを発動する!体に力が漲り竜の足を押し返す事ができた。トカゲ風情が舐めやがって!
「ドラァ!!」
バギャアア!
全力で爪をぶん殴って砕いてやった。調子が悪くても俺はお前より強い!殺してやるぞ!
『GYAAAA!!』
竜が腕を持ち上げて仰け反る。図体はでかいが戦闘経験が少ないのか?雑魚狩りばかりしてきたんだろう、腹を見せるとはとんだ間抜けだ。
「飛燕竜尾脚!」
今度こそ全力!蹴りつけた地面は弾け飛び、音速を超えた衝撃波を置き去りにして竜の腹にインパクトドライブ!時速1200km!質量3000kgの筋肉の塊だ!潔く死ね!!
「な、なに!?」
蹴破れ無い!今までどんな物でも貫いてきた俺の技が、柔らかい竜の腹を貫けない!どうなってるんだ!これが生物の腹か!?
『GYAAAAAA!!!!!!』
貫けずに蹴り飛ばしてしまった事で距離が空いてしまった、竜は距離を詰めること無く首を引いて溜めを作る。不味い!ブレスがくる!
目を配るがカバンちゃんが見当たらない。炎からは氷晶が守ってくれる、後は直撃でさえ無ければどこかに潜んでしがみついて耐えられるはずだ。
『GAAAAAAA!!!!!』
竜のブレスが発射される。やはり炎のブレス、渦を巻き迫りくる火炎旋風!
「ぬうううん!メガトン・トルネード・アレキサンダーパンチ!!」
引き絞り捻り上げた拳から放たれる渾身のトルネードパンチ!生み出されたトルネードが竜のブレスとぶち当たり炎を撒き散らす!
「きゃあああ!」
突然幼女の叫びが響く、見ると撒き散らされた炎がカバンちゃんを襲ってるじゃないか。だが炎はカバンちゃんに当たる寸前で消え去った。氷晶の力か、それとも魔道具か耐火ポーションか、対策しておいてよかった。
そこで俺は少しほっとしてしまった。
『GUUUUU』
嫌らしく細められる目、二チャリと上がる頬、あの野郎!
溜めの態勢に入るクソ竜。うぜぇぶっ殺してぇ、だがそれはまた今度にしてやる。
ごく短い溜めの後に再び放たれるブレス、俺では無くカバンちゃんに向けて発射されたブレスを、俺は全身で受け止めた。
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