第9話 4歳 仲間になってポンコツ化はRPGの基本

 名も知らぬ領都に攻め入ることになった。

 穏便だとか隠密だとかは考えていない。真正面から叩き潰し、踏み躙り、征服して屈服させるのだ。反撃など考えさせない。

 だが殺しはよくない。鬼の軍勢は仲間を取り戻すためにやってきた地獄の戦士ではあるが、命を懸けて戦う必要は無い相手だと思わせなくっちゃいけない。過度な恨み、過度な恐怖は要らぬ諍いを呼んでしまう。関わり合うな鬼族とは、そっとしておくんだ。

 見せしめは必要だが慈悲も見せなくてはな。愚かな民衆をコントロールする必要がある。


「攻撃開始は明後日の朝だ、出来る限りの仲間と武装を集めて領都の近くに集まっておけ」

「はい!・・・え?」

「俺はその前に妹の所在やらを確認しておくからな」

「待ってください!そんなにすぐ準備出来ません!ここから領都までだって徒歩で一日かかります!」

「あ?」

「必ずやり遂げます!!」

 うんうんこれだよ。個人の事情など知らん、口答えも要らん、勝手に意見を垂れるな。屈服した相手は大変扱いやすい。それで失敗したら?そりゃ俺のミスだ、全力でやれば出来ると考えたからやらせている。それが駒の使い方だ。


「それじゃルパンカは妹の確認やらあるからついてこい、側近の二人は世話役だな。後は招集に走れ」

「承知!」

「では行くか、走るぞ」

「え?」






「ばはぁ!ぜひぃ!おうぇぇっぷ!」

「おらペース落ちてんぞ!そんなんで天下取れると思ってんのか!」

「ひめ!がんばってください!」

「ひめぇ!もう少しで見えるはずです!」

「あぁひぃ!ひゃういあぅぅっ」

 何言ってんのか分かんねぇな。

「もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメ!諦めたら!」

「うんばあ!もうおうえがっ」

「頑張れ頑張れできるできる絶対できる!頑張れもっとやれるって!やれる!気持ちの問題だ!頑張れ頑張れそこだそこだ!諦めるなよ!絶対に頑張れ!積極的にポジティブに!頑張れ頑張れ!」

「おうっ!おうっ!おうげぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ひめぇぇぇっ!?」

「ぎゃぁぁぁっ!」

 ふむ、追い込みすぎたか。



「うっうぅっ」

「いつまで泣いてんだ、大事の前の小事だ。妹の為に限界まで走ったことを誇れ」

「アレキサンダー大王の前で…吐き散らかすなど……」

 ルバンカはめそめそと泣き続けている。ゲロ吐いてクッソ汚いし臭いし汗塗れだが、今そんなのどうでもよくね?トレーニングの結果は全て美しいんだよ、努力の結晶だぞ。

「ルバンカ、全力を振り絞って汚れたお前は綺麗だ。他の誰がどう思おうと、俺にとっては今のお前が一番美しい」

 だからさっさと走れ。誰もお前の格好なんか気にしてないぞ。

「あ、アレキサンダー大王っ!」

「いいぞ!その顔だ!よし走るぞ!」

「え?」




 ローペースながらも走り続けたおかげで夕方までに領都に着いた。大きな町では暗くなる前に出入りを止めちゃうから急いだのだ。ゲームで夜に着いたら町に入れないって事ある?不便だから24時間頑張ってほしい。

「げぇぇぇぇ!エロロロロロロ!!」

「ひめ、全部吐いちゃってください、楽になりますよ」

「大丈夫ですよ、もう着きましたからね。よく頑張りましたね」

 それにしてもこの三人の差はなんだ?戦闘力はルバンカが一番高いと思うんだが。


「さっさと列に並ぶぞ、怪しいものを持ってるならそこらに隠しておけ」

 町に入る前に門番チェックがあり、列ができている。

 祭りでも無いのにこんな事ある?何かを探しているのかもしれん。妹に釣られてやってくる美しい鬼の姫とかな。まぁ今は美しくないので大丈夫か。


「アレキサンダー大王、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「迷惑なんぞない、胸を張れと言っているだろう。それと俺は角が生える前の子鬼だからな、大王なんて呼ぶな。アレキサンダーと、いやここではアレクと呼べ」

「えぇっ!いきなりそんな…!あ、アレクっ!ひゃ!」

 こいつ頭イカれてんのか、自分の格好考えてから「ひゃ!」とか言えや。

「姫っ!よかったですね!」

「頑張ってください!」

 鬼族の考えることはよくわからん。



「次っ!ここへは何をしに来た!」

 高圧的で厳しい雰囲気の門番だ。こういう門番がいる町はいい町だっておばあさんエルフが言っていた記憶がある。悪党の住まう町なんだが。

「交易の話をするために来た。行き先は商業ギルドだ」

 代表はルバンカだ。我々には何も隠す事など無い。正々堂々と話をつけに来たというスタンス。

「お前は異種族だな!種族名はなんだ!」

「赤鬼族だ」

「ここでの恥は種族全ての恥となる事を覚えておけ!通れ!」

 いかめしい門番をやり過ごして中に入った。厳しくはあったが真面目な仕事ぶりは感心出来る。流石は領都ということか。


「すんなり入れましたね、あ、アレクっ」

「いいから普通に話せ。それと宿を探すぞ、さっさと着替えないと臭いからな」

「なぁっ!?くっ!殺せ!」

 こいつ仲間にした途端にポンコツ化するのやめてくれん?最初もっとカッコよかったやん。綺麗な姉ちゃんだと思ってた俺の純情を返せよ。

「あそこの宿にいくぞ」



「らっしゃーい」

「2晩泊まる、3人と1人だ。いい部屋があるならそこにしろ」

「子供!?あ、いや。3人部屋は無いんだよ、4人部屋なら安いよ」

「いいから適当に部屋を分けてくれ、金ならある」

「あ、あの!私は別に一緒でもいいんだぞっ」

「俺は一人部屋だ。全員食事はいらない」

 なんでいきなり色気づいてるんだよ、ぼく4さいだよ?今まで感じたことのない怖気を感じてしまった。冒険者ギルドの新姉に会いたい。

(姫、ゆっくりいきましょう。慌てる必要はありません)

(そうです、あの方はまだ子供、今は距離を近づけるだけで大丈夫です)

 こいつらも叩きのめしておくべきだったと後悔した。この反省はこの街で活かしたいと思う。


「お前らは体を清めて自由にしていろ、俺は情報を取ってくる。金を置いていくのでなるべくいい服に着替えて美味い物を食うんだ。全部使ってしまえ。お前たちの恥は種族の恥、姫とその側近として堂々と振る舞うんだぞ。朝には戻る」

 金貨30枚を渡した。町の大人の平均収入4年分ってとこか。帰ってきてもクセェままだったらお仕置きだ。




 さて、お楽しみタイムだ。反省を活かさなくっちゃなぁ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る