第8話 4歳 鬼のお姫様はちょろい

 勇者。大きな勇気を持ち行動するもの。悪を挫き善を助ける正義の味方。

 ゲームだと大抵1人しかいない特殊な専用ジョブで、剣と魔法を使いこなす最強ジョブでもある。

 使命を持っていたり、特殊な出自だったりも定番だな。父親が裸マントのガチムチ親父だったりもする。

 超絶美少女に成長する幼馴染を持ち、多くの人に愛される奇跡と使命の子。つまり。

「俺は絶対勇者じゃないわ」


「そうなのか、実は勇者が生まれたという予言があるのだ。我が部族は勇者と縁を結ぶ為に探している。妹もその為にウロウロと聞き込みをしていて捕まってしまったのだ」

「生まれたってのは最近生まれたって事だよな?勇者って言ってもまだガキだろ、分かるもんなの?」

「勇者は妹と同じくらい、今は4歳か5歳くらいだそうだ。使命を持ち、幼い内からその潜在能力を示すという」

「つっても予言だろ?」

「そうだ。一族の巫女が命を懸けて宣託を受けるのだ。疑う理由はない。」

 ほーん。まぁ眉唾ではあるが、ここはファンタジー世界。レベルも魔法もスキルもあるのに予言や勇者を否定する事は無いか。


「まぁ俺はそういうのじゃないし、そういうのに成る気もない。他を当たってくれ」

「そうか。残念だ」

 あんまり残念じゃ無さそうな鬼姉ちゃん改めルバンカ。コイツ自身も一応聞いただけだろうな。




「それよりお前の妹の事だ。こんな事はもうやめろ」

「やめろというのか…。妹は諦めろと、人間に逆らうなと?」

「聞け。お前にはクソ高い懸賞金が懸かってる。懸賞を懸けたのは商業ギルド、ギルドはお前を知っていて身柄を欲しがっているって事だ。しかも他種族の人攫いもやっている。つまり商業ギルドの奴らは深く関わっている可能性が高いんだ」

「だからどうした!我等とて領都に奴らの本部が有るのは分かっている!だがあそこに手を出すことは…!」

 まぁ分かる。こいつらは6人しかいない。仲間を皆集めたら20か?30か?領都は高い防壁と領軍に守られているという、とても太刀打ち出来ないだろう。

 そこに居るかも分からない探し人を見つけ、奇跡的に奪還出来たとしても、次は人族との争いが待っている。こいつらが戦いを厭うかは知らんが、得策では無いわな。


「聞けと言っているだろ。俺に作戦がある」

「作戦?」

「うむ、まずは商業ギルドの長、または偉いやつを捕まえて脅して吐かせる」

「は?」

「次に正面から打ちのめして妹を奪還する」

「だからそれは!」

「領軍がごちゃごちゃ出てきたら征服する」

「………」

「これが一番早いと思います」

 母者がいつ産気づいてもおかしくないのだ、こんな事で時間を食っていられるか!!


「だが断っておく。俺はこの事で面倒を背負う気はない。だからお前たちには覚悟してもらう必要がある」

「なんだ、もうさっさと言ってくれ」

「俺は鬼のフリをする。つまり、鬼族が人間を蹂躙して仲間を取り戻すんだ。なに、正義はお前たちにある。仲間を救い出した後に堂々と凱旋すれば悪党は商業ギルド、鬼族は仲間を救いに来た無双の兵という事になる。蹂躙し!屈服させ!逆らえなくするんだよ!」

 最高だぜ!これを仮面を付けてやれるとはなぁ!王になる前の予行演習だ!



「馬鹿な!そんなこと……、仮に出来たとしてもその後はどうなる!」

「だから覚悟しろ。仲間を奪われてもまともな抵抗も出来ずに生きるか、堂々と敵を蹂躙し戦い続ける戦士として生きるか。戦う意志が無いなら俺に出来ることはない」

「我らは…、我らは平和に生きたいだけなのだ。地を耕し、森の恵と共に生きたいだけなのだ。人族と戦い続けるなど」

「お前は戦士じゃないのか?鬼族の平和な暮らしを守る戦士じゃないのか?他の奴はどうだ、一族を守る修羅となる覚悟は無いのか!」

 戦えよ!戦わせてくれよ!超暴れてぇんだよぉ!


「姫!私は戦います!姫の為ならばこの身がどうなろうと構いません!」

「よし君いいねぇ!修羅一号に認定する!他ないか!さあないか!」

 流石の側鬼、覚悟が違うわぁ。

「わ、わたしも!一族の為じゃなく、姫の為であれば何も躊躇いません!」

「いいねぇ!いいよぉ!君が修羅二号ね!もう一声いってみようか!」

 最後に逃げようとしていた一人、スバルカだっけ?姫だから側近二人が女性なのかな。素晴らしい覚悟だ。


「あ、あの。まずは長と相談してからがいいかと」

「俺達も嫌なわけじゃないんですが冷静になって報連相を」

「あぁ!?口でクソたれる前と後に『サー』と言え! 分かったかウジ虫ども!」

「「サー!命の限り戦います!サー!」」

 元気な返事でよろしい。まぁサーの意味は分からんだろうが俺も知らん。



「全員戦うそうだぞ、姫さんはどうするんだ?」

「お前たち……、しかし郷の子供たちは、彼らも戦い続ける事になるかも知れない。妹の為にそこまでさせるなんて……」

「お前、その郷の子供達が奪われた時はどうするんだ?1人の為には戦えないか?なら10人奪われたらどうだ?まだ残ってる人数が多いかな。なら100人奪われた時にようやく戦うのか?その時に誰がお前についていくというんだ」

「………」

「いいか、舐められたら終わりだ。族長の娘を攫って平気なら次はもっと攫うに決まっている。戦わなければ鬼族に残るのは奴隷の道だけだ」

「しかし…あの子達に………。私は…どうすればいいのだ……」

「わかっているはずだ、覚悟を決めろ。大丈夫だ、俺がいる。俺が守ってやる。どんな強大な敵であろうと俺が全て砕いてやる。俺について来い」

「信じて、いいのか?」

「勿論だ!俺に任せろ!!」

 ここでニカッとマッスルスマイル!さあ来い!


「アレキサンダー!アレキサンダー大王!我らは貴方と共に戦います!!」


「よく言った!お前の妹は必ず救い出す!そして鬼族の威信を示すのだ!」






 鬼姉ちゃんわからせ完了!!!

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