恐るべき才能 その2

 ビクッ!


 っ! 魔力が乱れた? 


 最初に違和感を感じ取ったのはメルトだった。


 

 一瞬。ほんの一瞬だったけど、レオーネさんの魔力が乱れたような気がした。


 でも、アネッサさんがかけている魔法で押さえているはずだし、僕の魔法だって……


 小さな違和感。


 しかし、その小さな違和感がある確信へと変わるにはそう時間はかからなかった。



 ドクン……


 今度は……っ!


 これはヤバイ!



「アネッサさん!」


「っ! 『障壁』!」


 メルトがアネッサの名を呼んだ瞬間、レオーネを覆い包むように何十もの障壁の魔法を展開するアネッサ。


 すると、すぐに。



「う……うぁー!」


 突然、レオーネが目を見開き、暴れ始め、体の所々から火花が散り始める。



「……きたね。皆! レオーネを抑えな! 『抑制』! 『鎮痛』!」


「はい!」「レオーネ様を抑えるんだ!」「絶対離すんじゃないぞ!」


 急に周りを襲い始める熱気。



「冷気の魔法を使える奴は周りに展開しな! それ以外は意地でもレオーネを止めるんだよ!」


「「「はい!」」」



 う……熱い。


 手が焼けるように熱くなるメルト。


 レオーネを触っている手の表面は爛れ、酷い痛みが襲う。



 ……とうとうきた。


 それに続き、回復魔法の副作用でもある、酷い頭痛や精神に直接響く痛みも現れる。



「ぐっ……はぁ……はぁ……」


 常人には既に耐えられない痛み。


 このぐらい……まだ、なんてことない。もっと……もっと早く。


 しかし、メルトはそんな痛みを押し殺し、回復魔法の速さと質を向上させていく。



 もっとだ。もっと……。この人を完全に治せるぐらいの力を……もっと……っ!



「さぁ、皆! 最後だ! 気張りな!」



~~~


 それから何時間が過ぎたのだろう……


「うぅ……俺もう無理……」「俺もだ……」


「ほんと……情けない男達だね。一番大変だったのはメルトだってのに。そこの……」


「私でしょうか?」


「そうだ。お前だ。レオーネとメルトの容体はどうだ?」


 アネッサは椅子に座り、情けなく地面に座り込むレオーネの付き人達を一瞥、そして、一番の問題である二人の状態を聞く。



「はい。レオーネ様は試合前と変わらずとは言えませんが、呼吸が安定しておられて、静かに眠られています。ですが、メルト様は……」


「なんだい。もったいぶらず全部話しな」


 アネッサはイライラした様子で話を続けるように言う。



「……一人では到底出来るはずもない高度な回復魔法をお使いになったはずなのに、今はどこも異常なく、ベットで横になられているなんて……信じられません」


「なんだい。そんなことかい」


 アネッサはフッと鼻で笑う。



「当り前さ。私の弟子なんだから」


 そして、アネッサは口の端を釣り上げながら、近くにあった飲み物を手に取る。



 まぁでも、あれは私でも驚きだったね。


 腕の大半を焼かれながらも魔法を中断しない精神力。


 それでいて、最後までやり切ってしまう魔力量もそうだが、絶対に患者を助けるという意思。


 あの子の凄さを今一度知る事になるとはね。


 そう言いながらも、途中途中にメルトへ魔法をかけ。レオーネの治療後、床に倒れ込んだのをいち早く気づき、メルトの息が整うまで回復魔法をかけ続けたのは他でもない、アネッサであった。



「あの子なしじゃ、絶対にレオーネを救う事は出来なかった。それは分かっているんだろうね」


「はい。もちろんです」


「ならいい。私達、回復師に出来る事はやった。後は、そっちでどうにかしな」


「はい。アネッサ様。このご恩は決して……」


「そんなのはいい。もし、何かしたいんだったらメルトにでもしてやんな」


 レオーネの付き人は大きく頭を下げ、治療室から去っていく。



「はぁ……今日も一段と疲れたね」


 そう言ってアネッサは口一杯に飲み物を含む。



「でも、悪い気はしない」


 そして、今日一日で起こった事を思い返していくのであった。

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