回復魔法の成り上がり~手当たり次第に負傷した戦士を回復させていたら、何故か赤髪美女ランカーやら、モフモフ白尻尾美女達に好かれ過ぎてしまったのだが~
ガクーン
闘技場の裏のお仕事
『さぁさぁ皆様! 今日のトリを飾るのはこの二人だ!』
異常な熱気に包まれるコロッセオにも似た円形闘技場。
四方を観客が塞ぎ、真ん中には二人の人影。
『ステージの右側にいる女性。真っ赤に燃える様な髪を靡かせ……』
司会者の声が会場内に響き渡り、今日最後を飾る二人のステージということもあってか、観客のボルテージは最高潮を迎える。
「ぜってー勝てよ!」
「お前に全財産をかけたんだからな!」
様々な掛け声が投げかけられる中、司会者の進行は続く。
~~~
場所は変わって、闘技場の地下。
「うぐ……」
「た、助けてくれ!」
「う、腕が痛い。誰か……」
そこには、闘技場で負傷した戦士たちがベットに所狭しと並び……
「サイ! この人に回復魔法を。エイリーン! 樽一杯に水を溜めておくれ」
その脇を忙しそうに通る、医療に携わる者達がいた。
「アネッサさん。俺もう無理……「弱音は終わってから聞くよ!」」
「私も今日はへとへとで……「なら、回復魔法でもやるかい?」や、やります!」
アネッサと呼ばれる女性に叱咤され、嫌々ながら魔法を使い始める二人。
「はぁっ! くっ……」
最初に魔法を使い始めたのはサイと呼ばれた茶髪の少年。
顔を歪め、痛みを格闘するかのように負傷者の腕を掴み、回復魔法をかけていく。
すると、負傷者の傷がみるみるうちに塞がり、その者の顔色が良くなっていく。
「……ぷはぁ……」
茶髪の少年は久しぶりに呼吸をしたかのように、一杯の空気を吸い、地面に座り込む。
「はぁ、今日はもう……本当に無理」
「よくやったね。サイ。今日はもう休んでいいよ」
「はぁはぁ……。ふぅ。はい……」
明らかに先ほどよりも顔色が悪いサイ。そんなサイの限界を知ってか、休みを言い渡すアネッサ。
「アネッサさーん! こっちも準備終わりました!」
「分かったよ! ちょっと待ってな! ほんと、忙しいったらありゃしない……」
次から次へと舞い込んでくる仕事。
「はぁ。いつになったら怪我人が減るのやら」
アネッサは額に浮き出た汗を拭きとり、天井の先。現在、ラストを飾る強者同士の戦いが始まっているフィールドがある方へと視線を向ける。
「こんなこと考えてても仕事が減るわけじゃない。まずは緊急性の高い患者から……っ!」
アネッサは呼ばれた方へと体の向きを変え、移動しようと考えていたその時。
「あの馬鹿っ!」
ここにあるはずのない人影を捉え、怒りと心配が入り混じった顔になる。
「メルト!」
アネッサが叫び、その視線の先には一人の黒髪の少年が。
「っ! あ、アネッサさん……」
その少年はヤバいといった表情を浮かべ、弱弱しく名前を呼ぶ。
アネッサはメルトと呼んだ少年へと駆けより。
「お前って奴は!」
「あいたっ」
愛の拳骨をお見舞いする。
「何でこんな所にいるんだ。お前は今日、非番のはずだろう」
「そうだけど……」
メルトは痛そうに拳骨を食らった箇所を手でさすりながら、周囲を心配そうに見つめる。
この子って奴は……
「また、非番の日に忍び込んで患者に回復魔法をかけていたのかい?」
ギクッ。
メルトの体が大きく震え、視線が泳ぐ。
素直でとてもいい子なんだがね……優しすぎるのもこの場所ではかえってこの子を破滅の道へと向かわせてしまう。
「いいかいメルト。いつも言っているが、回復魔法は一日に何回も使っていい魔法じゃないんだ。あれは使用者に負担がかかりすぎる。いくら回復魔法に適性があるからと言って毎日のようにかけていたら……」
回復魔法:使い方は無限大で万病に効くとされているが、実態は使用者の命や精神と引き換えに対象者の傷や病を癒す諸刃の剣である。また、その効果が高ければ高いほど使用者に深刻なダメージを負わせることとなり、回復魔法を生業とする者は昔と比べて大幅に数を減らしている。
まるで、過去に何かあったかのようにアネッサは目を細め、メルトの頭の上に手を乗せる。
「で、でも……」
「でもじゃない。幸い、今日は重傷者がいない。だから、今日は休んで明日に備え……」
アネッサが今日は休むよう、メルトを病室の外へと追いやろうとしていた時。
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