第31話ごめんなさい

わたくしの名前は相沢十川


わたくしは男であることに縛られた


それがいやで鎖から解き放たれたいから自分は誰かを助けることでごまかした


一人の少女が瓦礫の上に立っていてその周りには炎で囲まれていた


「誰か助けて」


顔がぐちゃぐちゃになりながらそう叫ぶ少女


「ごめんなさいごめんなさい」


謝りながら両手で目をぬぐう少女


自分は助けようと手を伸ばすけど助けることが出来ず自分だけは助けられてしまう


涙で顔がぐちゃぐちゃになって目の前が見えにくくなる


なんでなんでごめんなさいごめんなさいそんな言葉が自分の心を支配する


海の中に沈んでいく感覚に陥り


いやでいやで仕方がない気分になるけど


それでも自分なりに頑張って手を伸ばそうとするけど沈んでいく感覚は消えないまま


そしてわたくしは裏切られて忘れることにした


だから俺様として生きていくことに決めた


ヤンキー漫画の主人公は


「俺様は諦めないいつだって太陽のようにきらめいてやる」


笑顔がトレードマークでどれだけピンチでも諦めずピンチを乗り越える


ああなりたい自分も強くなりたい


だから出来るだけたくさんの人を助けようと努力した


俺様が伸ばした手は届かないまま泡となって消えるはずだった


「ごめんなさいごめんなさい誰か助けて」


だが彼は手を掴んでくれた


いつか助けることが出来なかったあの少女の言葉を口にした


「なんであたしのことを助けてくれなかったくせに」


そんな言葉を少女の姿をした幻影は言ってくる


分からない分からない


俺様の頭がギシギシと握りつぶされるみたいに痛い


心が壊れるみたいに辛い


でもあの日助けることが出来なかった少女の痛みはこんなものじゃなかったそう思うと余計に少女の幻影は濃くなる


「ねえなんであたしのこと助けてくれなかったの」


彼はわたくしの手を掴む力を強める


「分かってるだから全部任せろ」


「本当に?助けてくれるのこのわたくしを」


「おうよ」


彼の笑顔がまるで少年漫画の主人公みたいにキラキラと輝き少女の幻影は薄くなる


でも本当にこのまま少女を助けることが出来なかったわたくしが助けられても良いのだろうか

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