モブ騎士に転生したので全力で異世界を楽しむ
句木緑
第1話 転生と命の危機
ビリビリッと体中が痺れるような不思議な感覚に襲われる。
「姫様、お逃げください!」
まだ意識が朦朧としている時、声が聞こえた。
なんだ、ここ。どうなってるんだ。
「いえ、逃げるわけにはいきません。国が無くなれば私は死んだも同じ…最後まで共に戦います」
声の方へ振り向くとそこには数十名の騎士と王座の傍に立つ鎧とドレスを合体させたみたいな恰好の金髪美女。ここは城の謁見の間だろうか、ゲームでよく見る部屋と似てる。
そしてなんかシリアスな雰囲気…というかなんか重いな…。
おわっ!? 俺凄いゴツゴツした鎧着てる!
見るとその鎧は近くにいる騎士と全く同じもので、実践向きというよりは儀礼用という感じだ。無駄に派手でカッコイイ感じだな。
よくわからんが、俺もこいつらの仲間ってことなのか…?
状況から考えれば恐らくそうなのだが、こいつらの顔など見たことがない。
最もあり得そうなのは気を失ってる間に誘拐され、特殊なファンタジーコスプレプレイをさせられてるってところか。
うーん…ん?
おっ、剣もあるじゃん。かっけー!
腰に差してあった剣を鞘から抜いてブンブン振り回してみる。
重いかと思ったけど意外と振り回せるじゃん。いいねいいね、ゲームみたいで興奮して来た。
「おいお前! 恐怖で狂ったのか!? 敵はすぐ近くまで来てるのだぞ、しっかりしろ!」
急に騎士の一人が近づいてきたかと思うと俺の両肩を掴んで激しく揺さぶり怒鳴って来た。
迫真の演技だな。
ドンッ!―――その時、部屋に轟音が鳴り響く。
部屋の入口の大きな扉が破壊されたのだ。
空気中に舞った塵で視界が遮られ、その中から一人分の足音が聞こえる。
「来るぞ…!」
俺の両肩を掴んでいた騎士は短く警告すると剣を引き抜き構えた。
「………あっ」
そして姿を現した”それ”を見て俺は気づいた。
ここ…ゲームの『エルダー・ファンタジー』の世界だ。
目の前にいるこのバケモノ。
頭に二本の角、紫色の肌、四本の腕。
ゲームに登場する魔人四天王の一人、魔人ゲラモそのものだ。
このシーンにも見覚えがある。ゲームのオープニングで魔王軍の侵攻によってローヘン王国が滅びる直前。この後近衛騎士団は皆殺しにされ、姫は連れ去られ拷問の後に死亡。
あれ、もしかしてこのままだと俺死ぬんじゃね?
「追い詰めたぞイリス姫。剣の在処を言えば無能な部下を含め、命を助けてやるが………どうする? クックック」
魔人ゲラモは下品な笑みを浮かべながら挑発するように言った。
見たことあるー! マジでゲームまんまじゃん。ゲームだと上から見下ろす視点だったけど、騎士の一人の視点で体験するのは変な感じだな!
「教えるはずがないでしょう…私は誇り高きローヘン王国の人間、最後まで魔族に屈することはありません!」
「おー…」
姫が剣が抜いて高く掲げるのを見て周りの騎士は奮起し戦闘態勢に入る。そんな中俺は姫のセリフを頭の中で先読みしつつ、やっぱりあのセリフを言ったと感動。
「これだから人間は………雑魚は殺して、姫は回収だな」
魔人ゲラモは呆れた様子で、ふぅ、と一つ息を吐いたかと思うと次の瞬間―――俺の全ての感覚が一瞬シャットダウンした。
あ…れ…。
……な…んだ…?
突然パソコンが固まったみたいに思考がスローになった。
何が起きたのか知らなければと思い、目を開くがチカチカしてよく見えない。
数秒、多分数秒だと思う。時間間隔さえも曖昧な中、やっとまともに感覚が機能するようになって気づいた。
ああ、俺吹っ飛ばされたのか。
立っていた場所から10mは吹っ飛んで壁に衝突し、めり込んだようだ。
やべぇ…鎧が砕けてる…ここを殴られたのか。流石魔人四天王は伊達じゃないな。
より感覚戻ってくると腹部に激痛が襲う。
あばら骨数本いったか…なんてアニメキャラが言いそうなセリフが思い浮かぶ。本当に折れてるかなんて、わからない。こんな激痛を味わったのは初めてなんだ…。
「ぐああああああ!」
響き渡る絶叫。
騎士の一人が踏み潰されている。
騎士たちが魔人ゲモラを取り囲み、同時に剣で斬りかかる。が、魔人ゲモラはそれよりも早い動きで一、二、三と順番にただの拳で兜ごと騎士の頭を粉砕する。
特別なことは何もしていない武器も魔法も使わずに素手だけで騎士たちは蹂躙されていく。一方的な虐殺状態である。
まあ勝てないだろうな…魔人はどいつもレベル80は超えてたはずだし…。
くそっ、このままじゃオープニングが終わる…。その後は城が焼かれてローヘン王国は滅亡、ここは魔物のうろつく廃墟になる。
このまま死んだフリして気づかれなかったとしても確実に死ぬ。
どうする…?
思考を巡らせ解決策を探すも答えは見いだせない。戦うのも、逃げるのも、隠れるのも駄目ならあとは何が残っている。何か…何かないのか…。
ここが本当に『エルダー・ファンタジー』の世界ならゲームの知識が活用できるはず。
あ、そうだ…剣。
さっき姫と魔人の会話にもあったが、このローヘン王国には古の四剣が一つ王剣カリバーンが保管されていたはずだ。
この剣はラスボスである魔王を守る結界を破壊し、HPの半分を削るという最強であり必須のアイテム。魔王はまともに戦ったら到底倒せないよう設計されており、カリバーンありきでラスボスの強さは調整されている。
俺の記憶が正しければそのカリバーンはここに、この部屋にある。
廃墟となったローヘン王国は物語終盤に訪れるエリアで、主人公はここを探索しカリバーンを手に入れるのだ。普通は世界中を旅して情報を得た状態じゃないと見つけられないし、使えないのだが…当然俺はこのゲームをクリア済み、知識なら頭ん中に入ってる。
―――いけるぞこれは。
気持ちが昂り、武者震いまでしてきた。こんなにワクワクするのはいつ振りだろう。脳内シミュレーションは完璧、あとは実行するだけだ。
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