いなだく

憂類

プロローグ

 皆さんは「恐怖」というものに出会ったとき、どのように対処するでしょうか。一般的には「恐怖」のもととなる物事から逃げるであるとか、目を閉じて見ないようにするであるとか、とにかく遠ざけるような行動をなさるのではないかと思います。心霊現象や殺人鬼、天変地異などに代表される「恐怖」の原因は、自らの身体や精神に対して重大な危害を加える原因であるのと同義ですから、それを遠ざけようとする動きというのは、生き物としてとても自然な反応と言えるでしょう。しかし、これには例外が存在します。例えばお化け屋敷や心霊ホラー番組、ジェットコースターにバンジージャンプなど、世の中には「恐怖」の原因にあえて対峙し、それを楽しむというコンテンツが数多く存在しています。これらに共通することは、実際にその「恐怖」の原因からもたらされるであろう危害が実際には加えられず、すんでのところで確実に回避されるという環境、コントロールされた、安心感のある環境であるということです。我が身を危険に晒すことなく、「恐怖」がもたらすスリル、興奮、そして謎を享受することができる。こういった娯楽は、身近に危険が少ない現代人にとって、非常に誂え向きなものであると言えるのではないでしょうか。実際に、近年はモキュメンタリーホラーであるとか、○○からの脱出であるとか、そういった現代的な恐怖体験を味わえる作品、アトラクションが人気を博しています。

 ここまでで私が挙げた「恐怖」をコンテンツ化したものは、その裏に全て「人」が関わっており、安全が保証され商業化されているものです。これらの他にも廃墟探索や心霊スポット巡りといった恐怖コンテンツは存在しますが、それらは裏に「人」が存在しておらず、誰も知らない、意図しない"何か"に出会う可能性が存在する、危険な娯楽と言えるでしょう。では裏に「人」が存在していれば、その恐怖体験は全て安全なのでしょうか?悪意を持った人間が「恐怖」の原因を隠していて、それに出会ってしまったとき、我々はどうなってしまうのでしょうか?

 これは私の移住先で起きた、そんな出来事の記録です。

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