第4話劣等血統

 美しい姉の性奴隷になった翌朝になる。


「朝か…起きるか」


 早朝4時に起床する。


 かなりの早起きだが、この14年間でもう慣れてしまった。


 いつものように起きてすぐ、城砦内の教会に行き朝のミサ。


 その後は領主館の大広間で、簡単な朝食を。


 着替えを終えて稽古のために、城砦の中庭に向かっていく。


 この辺は朝のルーティンなので、何のトラブルもなく進んでいく。


「あっ、姉さん…」


 だが中庭前でトラブル発生。


 三女のアンジェ姉に、バッタリ会ってしまう。


 今朝はタイトなワンピース型の装飾されたドレスを、令嬢らしく華麗に着こなしている。


 https://kakuyomu.jp/users/haanadenka/news/16818093082955888089


「おはよう、ジノ。朝から稽古、精が出るわね」


 俺の後ろに他の騎士がいた。


 だからアンジェ姉は天使のような笑みで、俺に挨拶してきた。


「う、うん。頑張るよ」


「それじゃ。皆さんも、稽古、頑張ってください」


 アンジェ姉は家族以外の前では、とても外面がいい。


 何故なら、これも嫁入りのための戦略。


 この時代の令嬢や姫は、常に民に笑顔を向けて、人気を獲得する必要があるからだ。


 特に他国に嫁いだ時は、美人で愛嬌があるだけで、国民は熱狂してファンになってくれる。


 だから野望が異様に高い彼女は、常に自分の好感度を高めるトレーニングをしているのだ。


「そこまで徹底していると、逆に尊敬しちゃうよ」


 俺はアンジェ姉は怖くて逆らえないけど、あの徹底した覚悟には敬意は持っている。


 そんなことを思っていると、中庭から一人の青年が近づいていく。


「相変わらずアンジェの奴、外面は完璧だな、ジノ」


「グラートン兄さん! 見ていたんですね」


 この人は俺の兄グラートン。


 17歳で次男なので、アンジェラ姉の兄もである。


 俺は兄妹の中では、このグラートン兄が一番仲が良い。


 ちなみに我が兄弟は


 ――◇――


 長男:ダンテ(20歳)サルチン家の次期当主。口数はあまり多くない、真面目な性格。既婚者(嫁:イタリアン半島のナポリン王国の貴族の令嬢)。


 長女:ロゼッタ(18歳):隣国ジェノヴァン公国の貴族に嫁入り済み。


 次男:グラートン(17歳):好青年で万能タイプ。父が結婚相手を探し中


(三男、次女は早死に)


 三女:アンジェラ(16歳)野心家で裏表がある才女。父が嫁入り先を探し中。


 四男:ジノ(14歳)俺。


(五男、四女は早死に)


 ――◇――


 こんな感じだで、けっこう早死にした姉弟が多い。


 医療が未発達な中世の時代なので、乳児と子どもの早死に率は、どうしても高くなってしまうのだ。


 だが男子が3人、女子が2人も成人しているので、近隣の領主よりは、ウチはかなり恵まれている。


 特に長男のダンテ兄上は健康で、既に嫁も貰っている。


 だからサルチン伯爵家は、あと数十年は安泰だろう。


「まったく、我が妹ながら、大した奴だよ。もう少しお淑やかになってほしいよ、アンジェには」


「ですね。でも、そこが姉さんの魅力だけど」


「あー、俺の嫁さんは、大人しくて、健康的な子が、良いな。見つかって欲しいよ」


 次男のグラートン兄は現在、親に嫁を探してもっている最中。


 噂によると今は、二人の令嬢が候補が上がってるという。


 次男が嫁をもらうのは、もしもダンテ兄が男子を産む前に、不慮で死んでしまった時のためだ。


(中世の次男は長男のスペアタイヤ…か)


 そんな歴史家の言葉を思い出す。


「グラートン兄さんの次でいいから、俺も婿入り先、早めに決まって欲しいな…」


 俺は四男なので嫁は貰えず、どこかに婿にいくしかない。


「ジノの場合は…なかなか難航しそうだな」


 だが弱小の伯爵国の四男を、わざわざ婿に取ろうとする貴族令嬢は多くはない。


「俺は婿り先が見つからなかったら、聖職者か役人にでもなるよ」


 俺は剣術は苦手ではないが、戦争はあまり好きではない。


 だから傭兵や騎士にならず、安全な職に降りる方が好みだ。


「ジノには才能があるんだから、せめて”血統”が良ければ……いや、すまん。今のは忘れてくれ」


 俺の血統のことを思わず口にして、謝罪してくる。


 サルチン家は俺の血統を口にするのは、タブーとされていたのだ。


「気にしてないから。それじゃ、また!」


 グラートン兄と別れて、俺はまた移動を再開する。


「俺の血統か…ん?」


 そんな時、向こうからまた別の人が、俺に近づいていくる。


「ジノ、これから稽古? 精が出るわね」


 優しい笑顔で声をかけてきたのは、30歳のスレンダーな女性。


「はい、マリヤ母さん!」


 この人が俺の生みの親、マリヤ母さん。


(産みの親だけど、本当に美人だよな…)


 見た目は、20代前半と言っても通じる若々しさ。


 胸は大きくないけど、タイトなワンピース型のドレスがよく似合う、色白で美人な北欧女性だ。


「カテリーナから聞いたけど、夜伽の練習は上手くいっているみたいね?」


「は、はい。ちゃんとできました」


 こんな美女な母親に、性行為のことを聞かれるは、現代人の俺にとってはかなり恥ずかしい。


 だが、この世界の貴族では、これも当たり前の会話。


 親としては将来の子どもの性行為は、絶対に成功して欲しいのだ。


「貴方の相手も、早く見つけてあげたのっだけど、難航してて。やっぱり私のせいかしら…」


 薄幸の美人の母が下を向いて、更に悲しい雰囲気になってしまう。


「母さん、そんなことないよ! 俺がもっと手柄を立てて、立派な家に行くので。見ていてください!」


 だから俺は満面の笑みで、力こぶを見せて安心させてやる。


 何故なら14年間、このマリヤ母さんから、俺はたくさんの愛情で育ててもらった。


 前世は親がいなかった俺にとって、この人だけが”母親”なのだ。


「ありがとう、ジノ。それじゃ、稽古、頑張ってね」


 マリヤ母さんは優しい笑顔に戻って、立ち去っていく。


 だが、その背中は、まだ悲哀に満ちている。


「俺の母さん、第二の婦人…か」


 アンジェラ姉、グラートン兄、ダンテ兄上、長女の4人の生みの母が、第一婦人ビアンカ夫人だ。


 そして俺の生みの母が、あの第二婦人マリヤ。


 つまり俺だけは母親が違うのだ。


(一夫多妻制…か)


 このヨーロッペ大陸で普及ししているイリスト教では、王侯貴族は妻を三人まで娶れるのだ。


 そして俺だけ一人も結婚候補が見つからないのは、母親側の血統が原因の一つだった。


「母さんの実家、モスクワフ公国…」


 マリヤ母さんは、ロシア風のモスクワフ公国の公爵家の三女だ。


 公爵家の令嬢なので格は高かそうだが、モスクワフ公国の”格”に少々問題があった。


 モスクワフ公国は大国だが、辺境の新興国。


 そのためイリスト教圏内の王国内では、格がかなり下なのだ。


 一例だが


 ――◇――


《イリスト教圏内 王家格付け》


 一流:フランス風なフランクス王国、オーストリア風なハプスブルクル家、神聖ローマン帝国、スペインリ王国、イングランドン王国など


 二流:上記以外の歴史ある大国と中堅王国、公国


 三流:モスクワフ公国などの新興国


 ◇


 https://kakuyomu.jp/users/haanadenka/news/16818093082955903648


 ◇


《この世界での男性の爵位順位》


 皇帝

 国王

 ――(越えられない身分の壁)――

 公爵

 侯爵

 伯爵

 ――(越えられない身分の壁)――

 男爵

 子爵


 ――◇――


 こんな感じで、母のモスクワフ公国は、他の国から三流と見なされている。


 だから俺は下等血統とされており、未だに結婚候補すら見つかっていないのだ。


 先ほど、グラートン兄が『せめて血統が良ければ』と悔やんでくれたのは、この俺の血統のことを言っていた。


 それに比べてアンジェ姉たちの母親、ビアンカ夫人の血統は良い方。


 父のブルーノ伯王も良い方なので、ダンテ兄上やグラートン兄たちは、ポンポンと縁談が決まっていくのだ。


「俺は結婚を諦めた方が良いのかな? いや…それは嫌だ」


 この世界では貴族以外は、生活環境がかなり悪い。


 少しでも長く生き延びるためには、俺は貴族でいる必要があるのだ。


 あと、俺は中世ヨーロッパの貴族社会が大好きなので、絶対に上の貴族になりたいのだ。


「それじゃ、やっぱり両家の貴族令嬢に、俺が婿入りするしかない。でも…」


 今間のままでは両家に嫁ぐのは、不可能近い。


 何か変化が”大逆転”が起きない限り…。


 そんなことを思っている時だった。


「ジノ様! ここにいたんですか⁉」


 父の従者が、息を切らして俺に向かってくる。


 かなり焦っている様子だ。


「どうしました?」


「た、大変です! モスクワフ公国が、マリヤ様の兄上が…」


 こうして明るい未来がないと思われていた俺の人生に、最大の大事件が起こったのである。

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