この世の迷い人
宇山雪丸
ある神社
こんにちは。作者の雪丸と申します。
私は、愛知県で会社員として働いています。
この小説では、私が体験したり身近な人から聞いたりした不思議なお話をご紹介します。
記念すべき第一回目は、私が大学生の時に体験した不思議なお話をご紹介します。
当時の私は、今もそうですが神社などを巡るのが好きで、その日も岐阜県E市にある、とある廃神社に向かうため友人と共に真夜中の山道を車で走っていました。
その廃神社は元々は山奥にある集落の村社であったものの、明治時代に行われた「神社合祀」により麓の大きな神社に統合され、以来苔むした鳥居と朽ち果てた祠があるのみで、人々からすっかり忘れ去られた存在となっていました。
なぜあえて真夜中にその廃神社に向かったのかと言いますと、私の友人であるT氏からこんな噂を聞いたのです。
【深夜にその廃神社に行くと祭囃子が聞こえるらしい】
T氏は大学で民俗学を専攻していて、廃村に伝わる伝承を調査していた中で、その噂を耳にしたと言いました。神社が好きでオカルト話も好きな私に聞かせてやろうと、わざわざ電話でその噂を教えてくれたのです。
T氏の話にまんまと食いついた私は、廃神社へと向かうことにしたのでした。
廃神社に到着すると、私はなんとも形容しがたいその不気味な雰囲気に恐怖を覚えました。「村社 〇〇神社」と書かれた石柱が寂しそうに闇の中で佇んでおり、その奥に鳥居と祠と思しき残骸がありました。
私は写真を撮り、ゆっくりと鳥居の方へ足を進めました。足を止めると、自分の息と鼓動が聞こえるのみで、完全な静寂が私たちを包んでいました。
私達は噂の真相を探るべく、しばらくその場で待機していました。しかし待てど暮せど祭囃子は聞こえません。聞こえてくるのは自分の呼吸音と鼓動そして風の音のみ。
1時間ほど待機したものの何も起こらず、私達は車に乗り、帰路につきました。
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さて、記念すべき初回のお話は以上になります。
T氏はそれ以降も色々なネタをくれることになりますが、大概スカです。
今回の廃神社も結局何も起きませんでした。
ただ、1点どうしても思い出せない事があるんです。
あの日、確かに私は友人と2人で廃神社に行ったのですが、その友人が誰なのかが全く思い出せないのです。
顔ははっきり覚えているのですが、彼がいったい誰なのかがまったくわかりません。
そもそもなぜ彼と一緒に廃神社へ行くことになったのかも全く思い出せません。
彼はいったい誰なのか、私の記憶が作り出した妄想なのか。真相はわかりません。
私にある彼との思い出はただ一つ。
あの廃神社の夜だけなのだから。
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