第31話 シャルリーヌ③
「お手紙では誠実な人だと思ったのに、あなたってすらすらあんなことが言えるのね。お父様は辺境の貴族は純朴で素直だって言っていたのに……」
シャルリーヌが熱そうに顔をパタパタと扇いでいた。
「素直な気持ちでシャルリーヌに見惚れていたんだよ」
「もー! そういうところよ! わかったから少し黙ってて!」
しゃべれないと悪口言われるし、しゃべれば黙れと言われるし、シャルリーヌってばわがままな子なのかな?
まぁ、そんなところもかわいいけど。
「何よ、その生温かい視線は……」
「いや、かわいいなと思って」
「もー!」
シャルリーヌが手をバタバタさせていた。かわいい。
ゲームの時のシャルリーヌも小動物みたいでかわいかったけど、こっちのシャルリーヌもかわいいなぁ。
「またそんな目で見て……。でも、ごめんなさい。信じてもらえないかもしれないけど、あなたの大切なものを傷付けるつもりはなかったの。ただ、ちょっとあなたに嫌われようと思ったら、あんなこと言っちゃって……」
「どうしてオレに嫌われようと思ったの?」
「ふぅー……。正直に言うと、わたくしはあんまりこの婚約には乗り気じゃないのよ」
そう言って難しい顔で腕を組むシャルリーヌ。
あんまり考えたくないけど……。
「……オレのことが嫌い?」
「なんだかからかわれているような気がムカつくけど、嫌いではないわ。あなたの問題じゃなくて、わたくしの問題なの」
「どういうこと?」
「わたくしはね、この王都が好きなのよ! 最新のドレスや、化粧品。流行はいつだってこの王都から始まるわ。王都にはお友だちだってたくさんいるし、劇場だってある。でも、あなたと結婚したら、わたくしは辺境に行くことになるわ。わたくし、王都を離れたくないの!」
「なるほど……」
たしかに、考えてみればそうだよなぁ。生活の場所が変われば、気軽に友だちにも会えなくなるだろうし、それまであった交友関係も切れてしまう。それに、辺境での生活も楽しいと思うけど、洗練されたお菓子や大きな劇場があるわけでもない。
王都では容易く手に入った物が、辺境では手に入らない。
あとは、本人はまだ気が付いていないのか、もしくは敢えて避けたのかはわからないが、シャルリーヌが辺境での生活に満足できるかも問題だな。
今日来てみてわかったが、ブラシェール伯爵家はとても裕福だ。きっとシャルリーヌは不自由なく大切に育てられてきたのだろう。
そんな彼女が辺境での生活に馴染めるか。オレもちょっと疑問だな。
辺境では不自由を楽しむような気概を求められることが多いから。
オレだって世界屈指の大都市東京からこんな異世界の辺境に転生して不便を感じたことは一度や二度じゃない。
オレの場合、元々アウトドアに興味があったからよかったけど、興味がない人にはただただ不便なだけだからなぁ。
でも大丈夫。オレには秘策がある。
「シャルリーヌが王都で暮らしたいのはわかった。オレとしてはシャルリーヌに一度は辺境での暮らしを体験してみてほしいけど、まぁ強制はしないよ」
「そう……」
シャルリーヌは少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「やっぱりわたくしは王都を離れたくない。お父様とお母様にそう言うわ。お父様とお母様は乗り気だから言いにくいけど、この婚約はやっぱりなかったことにしましょう?」
「ちょっと待った。いつ、オレが婚約を諦めるなんて言ったんだ?」
「え? でも、わたくしは王都で暮らしたくて、あなたは辺境で暮らしたいんでしょう? どうしようもないじゃない」
「それが、どうにかできるとしたら?」
「何を、言ってるの?」
シャルリーヌは不思議そうな顔でオレを見ていた。
わかってはいたけど、シャルリーヌってオレのことが好きなわけじゃないんだなぁ。シャルリーヌにとって、オレとの婚約よりも王都で暮らせる方が大事のようだ。
まぁ、オレはゲームを通してシャルリーヌのことを知る機会があったけど、シャルリーヌにとってオレは何度か手紙をしただけだからね。嫌われてはいないようだけど、いつかはシャルリーヌにもオレのこと好きになってほしいな。
「実はオレ、飛空艇を持ってるんだ」
「えっ⁉ 飛空艇持ってるの⁉ ウチも持ってないのに⁉」
シャルリーヌが、今日一番の驚きをみせた。目を真ん丸に見開いてかわいらしいね。
「お父様が、飛空艇は高いから買えないって言ってたのに……。あなた、すごいお金持ちなの?」
シャルリーヌの目がオレを値踏みするように見て、こてんと首をかしげた。
きっとどう見てもお金持ちのように見えなくて不思議に思ったのだろう。子どもは素直だね。
「いや、飛空艇は拾ったんだ」
「拾った……? 飛空艇って拾える物なの!?」
またシャルリーヌが目が零れそうになるくらい驚いている。シャルリーヌって反応がいいなぁ。かわいい。
「オレの持ってる飛空艇はすごく速くてね。王都とヴィアラット領だとだいたい片道二十分くらいなんだ。だから、用があれば飛空艇に乗って王都に来ればいいよ。その逆でもいい。住む場所は好きに選んだらいいよ」
王都やヴィアラット領にこだわる必要もない。好きな所に別荘を建てて住んでもいい。それこそヴァネッサに住んでもいいな。今のヴァネッサには家具はないが、厨房やトイレもあったし、ちゃんと水も出る。使っていない部屋もたくさんあるし、家具を揃えたら快適に住めそうだね。
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