第22話 パトリック・エペー

 村で自己紹介や作戦会議をした後、オレたちはさっそく森に入った。


 今回の敵はゴブリンとオークだ。ゴブリンとオークは違う種族なのに、よく一緒に行動している。オークがその強さで外敵からゴブリンを守り、ゴブリンはオークのために食料を集めているらしい。共生関係ってやつかな?


 ゲームではただ単に一緒に現れることが多いという印象だったけど、それにはそんな訳があったようだ。こういうモンスターの生態を知るのもなにげに楽しいね。


 まぁ、倒すんだけどさ。経験値欲しいし。


「ふぅ……」


 足を取られて歩きにくい腐葉土の地面に辟易としながら、オレは盾を構えてヴィアラット領から連れてきた集団の先頭を歩く。


 オレは盾を持ってみんなを守る者だ。先頭に立つのは当然である。


 まぁ、オレの隣には父上がいるし、後ろから狩人のセザールもオレを援護してくれる。


 これではどちらが守っているのかわからないね。まぁどちらかと言うと、失敗してもいいからやってみろということだろう。


 実は、オレがこうして他領での狩りに来たのは、これが初めてではない。父上にお願いして、初回から派遣メンバーに加えてもらった。


 経験値を稼げるチャンスだからね。逃すわけにはいかない。


 バジルたちにはかなり羨ましがられたけど、オレも少しは強くなってるといいなぁ。


「領主様、見つけやした」


 前方の木の陰からぬっと現れる狩人のコーム。彼に父上は偵察と道案内を命じていた。


 見つけたということは、ゴブリンの巣穴を見つけたのだろう。


 実は、今回はゴブリンの巣穴は発見されている。エペー男爵領の狩人たちが、総力を挙げて見つけ出したものだ。


 後は殲滅するだけとなったところで、オークの姿を複数見つけたらしい。


 そこで、念には念を入れて父上に依頼が来たというわけだ。


 ぶっちゃけ、ゴブリンの巣穴が見つかっているなら航空戦闘であるヴァネッサを使うという手もある。彼女はその名の通り戦闘艦だ。ゴブリンやオークなんて簡単に蹴散らしてくれるだろう。事実、ヴァネッサから提案という形でそのような言葉もあった。


 だが、オレはヴァネッサの提案を拒否した。


 理由はいくつかある。まずはヴァネッサに任せてしまえば経験値が得られないこと。そして、ヴァネッサの攻撃力は過剰で、森ごと破壊しかねないことなどだ。


 オレは強くなりたい。最強になりたい。だから、少しでも経験値が欲しい。


 そして、森を破壊することは禁忌だ。


 森は魔獣の住処にもなる危険な場所だが、オレたちにさまざまな恵みも与えてくれる。そんな森を、しかも他領の森を破壊してしまったら、絶対に怒られる。


 だから、オレは今回ヴァネッサの力を使うのをやめた。


「でかしたぞ、コーム。さあ、案内してくれ」

「へい!」


 その後、合流したエペー男爵領の領民たちと協力して、サクッとゴブリンとオークを始末した。敵の親玉はゴブリンシャーマンだった。これはオレが倒させてもらったよ。


 今のオレのレベルはどのくらいだろうな?


 レベル10くらいにはなってるといいけど。ステータスが見れないのは不便だ。


 ゲームではレベル999がカンストだったけど、この世界はどうなんだろう?


 レベルはカンストするとして、各地の遺跡やダンジョンもクリアしていい装備も集めないとな。


「だっはっはっはっはっは! ガストン! お前の息子は強いなあ!」


 パトリックにバシバシと背中を叩かれる。辺境の男は手加減が苦手なのか、背中が痛いくらいだ。酒が入っているからか?


 今はゴブリンとオークを殲滅したお祝いで、村を挙げて祝勝会が開かれていた。


 村の中央にある広場。その中央には大きなキャンプファイヤーがごうごうと燃え、村人たちに混じってヴィアラット領の戦士たちも踊っている。


 普段は食べられないようなご馳走が並び、アイリッシュ音楽のような独特な楽しげな音楽も加わり、祝勝会は大盛り上がりだ。


「まさかこの歳でゴブリンシャーマンを危なげなく処理するとは思わなかったぞ? 将来有望だ!」

「うむ! アベルは自慢の息子である!」

「父上……!」


 父上に褒められて胸が熱くなる。オレはこの調子でどんどん強くなるぞ!


「そうだ、アベルはもうすぐ学園だろ?」

「はい!」


 パトリックが酒臭い息を吐きながら尋ねてくるので頷いた。


 そう。オレはもう半年もしないうちに学園に入るために王都に行くことになる。シャルリーヌも同い年だから、学園でシャルリーヌと出会うことになるだろう。


 そして、シャルリーヌと同級生ということは、ゲームの主人公とも同級生ということだ。ゲームではほとんど接点はなかったから、まぁあまり気にしなくてもいいか。


 そういえば、ゲームの主人公って男と女、どっちだろうな?


「学園には、ワシの息子が通っている。アベルの一つ上と二つ上の二人だ。学園であったらよろしくやってくれ」

「はい!」


 パトリックにガシガシと頭を撫でられながら、オレは元気よく頷くのだった。

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