第19話 ヴァネッサで帰還

 とりあえずヴァネッサの艦内を探索してみる。まるで展望台のような所もあれば、シャンデリアの付いたまるでパーティー会場のような広い空間もあった。もちろんトイレもあるし、厨房のような所もある。


 内装はシックな落ち着いた雰囲気で、深紅の絨毯やピカピカに磨かれた木材など高級感がハンパない。


「すごいな。まるで高級ホテルみたいだ」

『ありがとうございます。ご自分で操縦なさいますか?』


 なんとなく艦首にあるまるで展望台にあったふかふかの椅子に座ると、ヴァネッサが問いかけてきた。


「操縦はしない。オレは操縦できないからね。任せるよ」

『ご信任ありがとうございます。出発しますか?』

「うん。そろそろ出ようか」

『かしこまりました。ドラゴン級航空戦艦ヴァネッサ、発進シークエンスに入ります』


 ヴァネッサの声に呼応するように、コックピットのたくさんのボタンが光り始める。なんだかテンションが上がるね!


『メインハッチ、開きます』


 目の前の大きなモニターの向こう、ライトで照らされた巨大なハッチが開いていく。


 しかし、開くハッチの向こうから大量の土砂が流れ込んできた。たぶん、長い月日の間に地中に埋まってしまったのだろう。


「どうするか……」

『武装のロックの解除を申請します』

「武装のロック?」


 爆弾かなにかで土砂を吹っ飛ばすのだろうか?


「いいよ。ロック解除」

『武装ロック解除を確認。使用します』

「うおッ!?」


 その時、ピカッと閃光が走った。目を閉じた瞬間、ドーンッと爆発音が響き、ヴァネッサが微かに振動する。


 目を開けると、夕暮れに染まった空が見えた。


『進路オールグリーン。ヴァネッサ、発進します』


 そして、ゆっくりとヴァネッサが進みだす。


 え? 今の武装何? ミサイルとかじゃないよね? ピカッと光ってドカーンだったよ? え? レーザー兵器とか? すげー!


 でも、滑走路としては短すぎないか? 吹っ飛ばした土砂の道なんてかろうじて穴は開いてるけど凸凹だし、これで進路オールグリーンは噓でしょ?


 そう思っていたのだが――――。


「う、浮いた!?」


 なんと、ヴァネッサがふわっと浮いた。まるで気球かなにかのようにふわりと。


『当艦は反重力装置を装備しております』


 反重力装置!? なにそれすごい!?


 そして、そのまま空中をゆっくりと進みだすヴァネッサ。その動きは、本当に重力の縛りから切り離されたようにスムーズだ。


 すごいなヴァネッサ。オレの想像以上のスペックだ!


 ヴァネッサの性能に驚いていると、いつの間にかヴァネッサは空中へと浮かんでいた。


『目的地の設定をお願いします』

「目的地……。とりあえず、ヴィアラットの本村へ」

『エラー。地図を検索しましたが、そのような土地はありませんでした。新たに設定しますか?』

「あ、うん」


 さすがのヴァネッサもヴィアラット家なんて知らないよな。そのことにちょっと安堵している自分がいた。


「ここから、こっちの方向に歩いて一時間くらいした所に村があるんだ。そこに行ってくれる?」

『かしこまりました。村は殲滅いたしますか?』

「しねーよ! 何言ってるんだよ!」


 ヴァネッサ、清楚そうな女性の声なのになんて物騒なんだ。


 あれか? 武装のロックを解除したから使いたいのかな?


「いいか、ヴァネッサ。絶対に村と村人を攻撃しないでくれよ」

『かしこまりました』

「じゃあ、出発してくれ」

『到着いたしました』

「はっ!?」


 いや、たしかに歩いて一時間の距離だからそんなに時間はかからないだろうけど、こんなコントみたいなことあるのか?


 だが、コックピットの窓から確認してみると、ヴィアラット家の邸宅が見えた。


 うん。本当に到着してるね。


 どんだけ速いんだよ!? もはやギャグの領域じゃん!


「あの一番大きな家の隣に着陸してくれ」

『原住民を多数確認。原住民からの攻撃が予想されます。反撃しますか?』

「しないよ!? とにかく、絶対攻撃は禁止で!」


 ふわりと家の庭に着陸すると、コックピットの窓から父上が大剣を持っていそいそと家を出てくるのが見えた。


 しかも父上は大剣を上段に構えて、今にも突撃してきそうだ。


 もしかして、敵だと思われてる?


「外に出る。タラップを出してくれ」

『推奨されません。原住民からの攻撃が予想されます』

「いいから!」


 オレは急いで椅子から立ち上がると、外に出た。


「子どもたちを逃がせ! 男たちは武器を持って集まるのだ!」


 外への扉が開くと、父上の大声が聞こえてきた。


 やっば! やっぱり敵だと思われてる!?


「父上! オレです! アベルです!」

「なにっ!?」


 オレは転げ落ちるようにタラップを降りると、父上の前に立った。


「アベルが出てきた!? アベル、これは何だ!?」


 父上がものすごい剣幕で訊いてくる。こんなに真剣な表情をした父上を初めて見たかもしれない。


「話せば長くなるのですが……」

「手短に!」

「拾いました」

「ん? さっぱりわからんぞ!」


 ですよねー。やっぱり最初から話そう。どこから話すかな……。

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