嫌な臭いにまつわる実体験

かわしマン

死臭にまつわる実体験

 突然ですが死臭って嗅いだことありますか?

 まぁなかなか嗅いだことあるよって人はいないのかなと思います。

 孤独死をされて何日も気づかれずに放置されてしまっていた方の近所に住んでいた人だとか、警察関係者や特殊清掃に従事されている方だとか、そんな人でないと経験はないのかなと。

 僕はと言いますと、これが死臭なのかな?と思うような臭いを嗅いだことがあります。


 二十代の半ばあたりの時期はフリーターでして、とある小さな清掃会社で道路に落ちているゴミを拾うアルバイトをしていました。

 歩道を大きなビニール袋とトングを持ってトボトボと歩きながら、路上駐車をして休憩しているトラックドライバーの方たちがポイ捨てした、コンビニ弁当の空き容器や雑誌などを拾っていくんです。

 缶、瓶、ペットボトルは再利用するために他のゴミとは別に仕分けておかなければいけませんし、乾電池やスプレー缶など火災の原因になる物が入っていた場合には、それらも取り除かなければいけません。

 なので、ひとつのビニール袋の中に色々なゴミが雑多に混在している場合には、ビニール袋を一度開封して中に何が入れられているのか確認しないといけないのです。

 江東区の東京湾から程近い、大きな幹線道路のゴミ拾いをしていたときの話です。

 中身がある程度見える半透明のビニール袋に入れられたゴミが大半なのですが、その時、中身が分からない黒いビニール袋にまとめられたゴミを拾いました。

 そういった場合にも律儀に開封して中を確認しなければいけません。

 僕がその黒いビニール袋を乱暴に破いて開けた瞬間、今まで嗅いだことのないような強烈な異臭が漂ってきました。

 生ゴミが腐った臭いとも違う、魚などの生臭さとも違う、なんとも形容しがたい、ありとあらゆる有機物を寄せ集めて腐られせ熟成させたような、生理的嫌悪感を覚える強烈で独特の異臭でした。

 

 中身を確認すると猫の死骸が入れられていました。

 茶色い毛並みをした猫だと記憶しています。

 可哀想な事に目を見開いたまま苦しそうな表情を浮かべ息絶えていました。

 なぜこんな所にビニール袋に入れられて投げ捨てられていたのかは分かりません。ただただ酷い事をする人間がいるものだなと、とても嫌な気持ちになりました。

 生き物の死骸を見つけた時には役所に連絡して、しかるべき処置をしなければいけません。私はすぐに社員の人に報告をして、その死骸を規定通りに保健所かなにかの施設に運びました。

 

 黒いビニール袋を開けた時に嗅いだ、強烈で独特な異臭は僕の記憶に深く染み付いて忘れられない物になってしまいました。

 そして、この時に嗅いだ臭いが、ひょっとして死臭というやつなのかなと思ったのでした。


 それから数年後、今度はその強烈で独特な、死臭かもしれない臭いを中央線の車内で嗅ぐことになります。


 夜の十時から十一時くらいの平日だと記憶しています。

 僕はその頃住んでいたアパートの最寄り駅である武蔵小金井駅から新宿方面へと向かう上り電車に乗っていました。友達と新宿で飲む約束をしていたのです。

 はっきりと明確に覚えていないのですが、三鷹、吉祥寺を過ぎておそらく西荻窪か荻窪あたりの駅で、とある一人の男性が、僕がいた車両に乗り込んできました。

 チェックのシャツにジーンズ姿の二十代か三十代の、ぱっと見はどこにでもいる普通の若い男性でした。

 しかし、この男性が強烈な異臭を放っていたのです。

 僕はその異臭を嗅いだ瞬間に、猫の死骸が入っていたビニール袋を開封した時に嗅いだのと同じ臭いだとすぐに思いました。

 ホームレスの人たちが放っているような、何日もお風呂に入らず、同じ服を着ているがゆえに漂ってくる臭いとはまったく違う気がしました。

 生ゴミとも違う、魚の生臭さとも違う、ありとあらゆる有機物を寄せ集めて腐られせ熟成させたような複雑で、しかし本能的に「これはヤバい……」と直感させる異臭が車両中に漂いました。

 同じ車両に乗っている人は五十人ほどいたと思いますが、皆「これはヤバい」と直感したのか、蜘蛛の子を散らすように他の車両へと逃げて行ってしまいました。

 車両には、異臭を放つ男性と、僕と、僕と同じ様に我慢強い、スーツを着たサラリーマンの男性の三人だけになりました。

 いくら悪臭を放つからといって、刃物を持っていた訳でもないのに、一斉に誰もが一目散に他の車両へと避難していくのは異様な光景でした。

 それだけ本能的に誰もが「これはヤバい」と思うような臭いだったのだと思います。

 異臭を放つ男性は何が独り言を呟いていました。何を言っているかは聞き取れませんでした。

 異臭を放つ男性はすぐに一駅か二駅で電車を降りました。中野に到着する頃には居なかったと記憶してるので、おそらく阿佐谷か高円寺で降りたと思います。


 しかしあの男性はどういう理由であの強烈で独特な、死臭かもしれない臭いを放っていたのでしょう。

 僕は悪い想像を何通りか考えてしまいます。

 皆さんはどう思われますか?

 


 


 

 

 

 

 

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嫌な臭いにまつわる実体験 かわしマン @bossykyk

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