返品不可

日月 透

返品不可(※一話完結)

 ――カン、カン、カン


 踏切が少し不穏な音を立てる。経年劣化により初期の軽やかで明るい音は今や見る影もない。

 夏の夕暮れ、ヒグラシがカナカナと鳴く逢魔が時。突如としてそれは起こった。

 地面が揺れ、周りが崩れ始める。


 ――地震だ。


 夏休み、本屋で大量に本を買った日に、僕は大地震に襲われた。地面が揺れ、思うように動けないほどの大地震。


 横揺れ、縦揺れ、ぐらぐらぐら。


 大量の本で重たいバッグに翻弄されながら揺れが収まるのを待つ。

その時、街灯がフッと消えた。


 ――停電?


 しかし踏切は相も変わらず仕事が来るのを待っている。


 ――おかしい。


 そう感じた時、不意に浮遊感に襲われた。

 人間というものは単純なものだ。恐ろしいことが起きると目をつむる。

 そして次に目を開けた時、カン、カン、カンとやはり少し不穏な音を立てる踏切があった。


 先程までのは一体何だったのだろうか...?...夢?..いいやこんなところで私は寝はしない

 では一体...?


 もやがかかったような頭で首をひねりつつ、帰路に就こうとする。

 すると次の瞬間、ふと後ろから手を引かれるような感覚に襲われた。振り向くが、誰もいない。


 気のせいか。


 そう断言すると、再び帰路に就く。


 帰ったら仕事だな。案件進めなきゃ...。




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