氷姫と呼ばれるクラスメイト、ガチの氷使いだった
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第1話 氷姫は誰とも仲良くならない
恋や愛がわからない。
別に人間嫌いじゃない。友だちと遊ぶのは好きだし、動物を愛でるのも好きだ。SNSで流れてきた恋愛漫画の一ページでニヤケもするし、好きな人同士がむすばれたシーンで幸せ気持ちにもなれる。
ただ、オレ自身は当事者じゃない。当事者にもなろうと思えないのだ。
誰かに恋焦がれて苦しくなることもなく生きてきた。
恋愛感情がピンとこないだけで色恋に憧れていないわけじゃないが、彼女がいなくても平凡な日々に満足している。
なにもない毎日がつづけばいいと思うし、その努力も惜しまないつもりだ。
そんなたんぱくな自分を隠していないからか、クラスメイトの評価は『たんぱ君』『うす眼鏡』『お塩平八郎』『殺人衝動のない吉良吉〇』とかんばしくはない。
……眼鏡は関係なくね?
まあ彼氏彼女がどうとか、他校の子と付き合いたいとか。まわりの恋愛空気にもうちょっと合わせるべきかなもと思う。一応高校生だし。
ただ、わからないものはわからない。
それに、よくわからないまま話に混ざるのも失礼だとも思っていた。
『そもそも相手がいるの? 好かれると思っているの?』と問われたら。
『……そうっすね!』
曖昧な笑顔を返すしかないわけだが。
とまあ、今日も今日とてオレは愛すべき平凡な日々を生きていた。
私立
都市の再開発地域にあり、歴史は古いが校舎は建て替えたばかりなので比較的新しい。海外交流に力を入れていて、留学生も多い。
文学やスポーツで一定の成績を収めている大きな学校だ。
オレはそこの普通科で、可もなく不可もない生徒をやっている。
休み時間。
廊下の窓にぐでーんともたれながら友だちとダラダラしていた。
「――つまり、生天目は恋をしたいわけだな」
友だちの田宮君がスマホを見ながら言った。
「オレがそんなことをいつ言った」
「顔に書いていた。恋はいいぞー、恋は毎日が楽しくなるぞー」
「毎日を生きるだけで十分楽しいよ。で、今度はどのVtuberなんだ」
「黄泉平坂子ちゃん」
「……また、なかなかにキてる名前だな」
「だろう! 和風オカルトVでさー。カクリヨから現世につなげているって設定なんよ。転生体じゃないし、新人Vの中でめちゃ期待してる子!」
田宮君は声を加工していてもVの転生体をみぬく力をもっている。
推しVに投げ銭を投入しては、刹那の恋に生きるのが趣味だとか。
「田宮君のは恋なのか?」
「愛がなければできない芸当だろ!」
「…………愛、わからない」
「いかに手間と時間を注げるかが、愛だな!」
「それっぽいですけども」
架空愛戦士だと公言している田宮君を呆れつつ、羨ましくもあった。
オレも熱をあげるものがあればと思うけれど……これといって見つからない。まあ平凡な日常を楽しく過ごせている。それで十分。足るを知るだ。
そうやってダラダラしていると、ゾクリと背筋が凍りつく。
体感温度が下がった……気がする。
彼女が来たのだとオレも田宮君も察した。
雪森シナノ。
【氷姫】と呼ばれる女の子だ。
ツカツカと、上履きなのにそんな効果音がでているような歩き方でやってくる。
怖いぐらいに整った顔立ちには、ツンとした表情がはりついている。腰まで伸びた銀髪は歩くたびにサラサラとゆれていた。今日も不機嫌なようで、誰も寄せ付けないオーラを展開しながら周りを萎縮させていた。
氷姫は今日も周囲を凍らせていた。
氷姫なんて仇名も転校してきたその日につけられたのだから恐ろしい。
彼女は春ごろ、この鴎外高校にやってきた。
とんでもない美少女だ。話題を一瞬でかっさらい、男女問わずお近づきになろうとしたのだが。
教室で質問責めにあっていた彼女は一言こう告げた。
『邪魔』
空気が氷点下までおちこんだのを覚えている。
学校はムラ社会みたいなものだ。毎日同じ顔を合わせて学んでいくわけで、コミュニケーションの断絶は精神的な死に等しいとわかっているはず。
なのに、雪森さんの表情には拒絶しかなかった。
馴染む気なんてない。むしろ、貴方たちが私に合わせろ。美少女の瞳はどこまでも冷たく、雄弁にそう語っていた。
『用件がすんだなら散ってくれる』
トドメの一言がこれだもの。
転校以来、雪森さんが誰かと仲良くしていることなんて見たことがない。
いったいなにが不満なんだろうなーと、つい見つめてしまう。
「……」
雪森さんと視線が合ってしまい、慌てて目を逸らす。
あの冷たい視線を前にすると悪いことをした気になるのは、オレだけじゃないはずだ。彼女の美貌に見惚れる人は多いけれど、そのせいか遠くから眺める人ばかりだった。
雪森さんが廊下を通りすぎるのを待つと、コロンコロンとなにかが転がってくる。
……バッチ?
金属製の丸いバッチで、三本足のカラスが刻まれている。
凝ったデザインだな……雪森さんのか?
拾って渡そう。あー……でも、すごく睨まれるだろうなあ。あとで机に置いておくか。だけど大事なものだったら困るだろうし。
「雪森さん」
「なに?」
雪森さんがふりかえる。自分の悪いところ全部が見透かしそうな瞳だ。
隣の田宮君は『なに声をかけてんだよ』みたいな顔でいた。
「このバッチ、雪森さんのだよな? 落としたよ」
オレは丸いバッチを彼女に差しだす。
雪森さんは失態を恥じるように唇を噛み、オレからふんだくる。
「……私の落ち度だけど、余計なことはしないで」
「わかった。もうしない」
他に言うことがあるでしょーと思ったが、親切を押し売りしたいわけじゃない。
田宮君はもの言いたげにしたが、雪森さんの眼力に負けていた。
雪森さんがオレを一瞥して去っていく。
氷姫と呼ばれる彼女の人生に、オレがこれからも関わることはないのだろう。
今の会話もオレの日常には珍しいことで、雪森さんには取るに足らないことだ。伏線なんかない。
そう、思っていた。
※※※
放課後。
オレは通学リュックを背負って、そのまま自宅マンションには向かわず、遠回りして帰っていた。欲しい新刊があったのでお気に入りの書店で手に入れたかったのだ。
ここらへんは再開発地域なので周りには建設中のビルがなにかと多い。
なにをこんなに慌てるように再開発しているのかなーと思いつつ、路地裏にさしかかったときだ。
聞き覚えのある声がした。
「……私になにか用?」
「いいから俺たちに付き合えよ!」「いっぱい可愛がってやるからさー!」「ははっ、逃げるんじゃねぇぞ!」
女の子が不良三人組にからまれている。
長い銀髪……雪森さんだ!
雪森さんは不良相手でもおかまいなしに睨んでいた。
いくらなんでも無茶すぎるって! なんとかしなきゃ!
そうして助けた雪森さんとだんだんと仲良くなり、彼女の自然な笑顔を見るようになっていった……なんてのはありえないか!
バカなことを考えてないで助けよう!
――十数分後、オレは建築中のビルの柱に隠れていた。
雪森さんにバレないよう様子を見ている。
「私、面倒がきらいなの。まとめて凍らせてあげる」
彼女は右手に氷をシャキーンとまとわせて、不良たちと戦っていた。
なに⁉⁉⁉ どゆこと⁉⁉⁉
オレ、バトル系ストーリーのモノローグしてたっけ⁉⁉⁉
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
出オチ!
思いついたらいてもたってもいられず、見切り発車スタートしました。
この先どうなるかわかりませんし、出オチすぎるゆえにどん詰まりになって唐突に終わるかもしれません。
「いいから書けやオラァ!」などなど思っていただけたら、作品の概要ページから☆☆☆で応援していただけると嬉しいです!
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