外ン堕異

篠原 亡

鬼のお話

むかーしむかーし。


 あるところに、鬼ヶ島がありました。その島では鬼族と呼ばれる人類が暮らしていました。鬼族は独自の文化と言語を持ち、当時の日本よりもはるかに高い技術を持っていました。もはやその有様は一つの独立国家といえるかもしれません。少なくとも、彼らは自らを日本国民だと考え、本国の住民のとことまた遠い兄弟だと考えています。勿論自らのルーツが本国にあり、そこから派生した人類であることを理解していたからです。


 一方、本国ではスマートフォンを始めとした機器が普及し、鬼ヶ島の存在も認知していました。しかし、その実態までは観測できておらず、どのような文化があり、どのような暮らしをしているのか。その一切が不明でした。一つだけわかるのは、未知のエネルギーを使い、高度な文明を持っていることだけです。


 最近見つかったその島は今や話題の的であり、やれ「宇宙人が住んでいる」だの「発達した恐竜の生き残りが暮らしている」だの「未知のUMAが住んでいる」だの様々なうわさが流れていました。一方、自分たちから派生した人類がいるという噂は一切ありませんでしたが、科学者たちの間では密かにその可能性があることがささやかれていました。メディアはより面白い様々な噂を取り上げ、科学者の説はあまり報道していません。


 そんなある日、鬼ヶ島に一番近い町で一人の赤ちゃんが誕生しました。その赤ちゃんは他の赤ちゃんと異なり、生まれた直後に泣かない子でした。しかし、呼吸は極めて安定していて泣かないことを除き、一切の違いはありませんでした。異常だったのはむしろ両親のほうでした。両親はその赤ちゃんを産んだ後、未知の病にかかったのです。その病は急速に両親をむしばみ、確実に死に近づけていました。母方の祖父母は何とかその両親の病を治療しようと慣れていないSNSを使い、治療法を探しましたが、ついに見つかることはなく両親はなくなってしまいました。父方の祖父母は赤ちゃんが産まれる前に亡くなっていたので母方の祖父母がその赤ちゃんのお世話をすることにしました。その祖父母は赤ちゃんの育成に専念し、SNSを見ることもなくなりました。


 それから十五年たったころ。


 赤ちゃんはオラトモと名付けられ、大切に育てられました。公立の中学校に通い、上位の成績をとっています。

 受験に向けて中学二年生の夏休みから勉強を始め、今では余裕をもって志望校に合格できるだろうレベルまでそのレベルを上げていました。友人も多く、両親がいないことを除けば一切のコンプレックスもない人生を送っていました。


 オラトモが自宅で勉強をしていると、祖父母がオラトモを呼びました。

 曰く、両親が死んでしまった真相を話す。とのことでした。なぜ両親が死んでしまったのか気になるオラトモは祖父母の話を黙って聞くことにしました。


が生まれる前に、ある島が見つかった。その島は、未知の生物が住み着いていて、未知の技術を持っている。もう習ったかもしれないが、鬼ヶ島と呼ばれる島のことだ」


 祖父は手元のお茶を飲み、一息つくと続きを離し始めました。祖母はうつむいたままその話を只聞いています。


「お前の両親はお前を生んだ後、お前を儂たちに預け船に乗って旅行に行ったことがあった。旅行から帰った後、お前の親は未知の病にかかった。そのまま二人は死んでいった。解剖しても、死因はわからなかったそうだ。そんなことができるのは、この世界に一ヶ所しかない!」


 祖父はそこまで言った後、激しく咳込みました。祖母は祖父にお茶を渡し、祖父が落ち着くまでその話の続きを離しました。


「鬼ヶ島の連中がに、お前の母に未知の病を感染させたの。テレビでも、鬼ヶ島の連中は未知の技術を持っていて、私たちでは考えられないことをたやすくやってのけるって言っていたわ。つまり、あの連中がお前の母を殺したの!」


 祖母はまくしたてるようにそういうと、再びうつむきました。落ち着いた祖父は最後の一押しだといわんばかりに話をつづけました。


「お前の両親が言ったのは、鬼ヶ島の近くの島だった。その島は鬼ヶ島と連絡を取っている、という話もある。そこで感染させられたんだ。お前にどうこうしてほしいわけではない。ただ、知ってほしかった」


 オラトモはその話を顔を青くしながら、聞いていました。授業で習った鬼ヶ島。いまだ何一つわからないその島が、両親を殺したというにただただ、驚愕するしかなかったのでした。

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