邪神様のお通りだ!〜最強の力を手に入れたので、憧れだった邪神ロールプレイを楽しもうと思います〜
座頭海月
クラス召喚されて最序盤で見捨てられた後に地獄の底から這い上がる系主人公
第1話 異世界と無能
「ここは…?」
目が覚めると、真っ白な世界で倒れていた。
「おいおいおい!何処だよここ!?」
「どうなってるの!?」
「何がどうなってるんだ…?」
周りではクラスメイトが騒いでいる。
「お、智樹も目が覚めたか?」
「剛…これ、どうなってるんだ?」
「んいや、俺も分かんねー。目が覚めたらみんなでここに倒れてたんだよ」
隣にいた友人、彩藤剛に聞くが、どうやら何も分からないようだ。
すると…
「目が覚めたようですね、勇者達よ」
突如として光が眩く輝き、そこから金色の髪の美女が現れた。
「あ、あなたは?」
頭脳明晰、運動神経抜群な学校でもカーストトップのイケメン、神谷勇也が突如現れた美女にそう聞くと、彼女は答える。
「私の名前はイリテム。グラナを守護する女神…勇者様、どうか私の世界をお救いください」
「世界を…救う?」
そう疑問に思ったことをつぶやくと、女神はこちらに目を向け話しだした。
「えぇ…グラナはいま、魔王と呼ばれる存在によって滅亡の危機に瀕しています。グラナに住む人々は、魔王によって多くの命を失いました。そこで、人々は魔王に対抗すべく、勇者と呼ばれる聖剣に選ばれし存在を召喚することにしたのです」
「それで選ばれたのが僕達と……えーっと、女神様?つまり、僕たちはその勇者で…魔王?を倒さないといけないってことですか?」
「そうです」
「ふざけんな!!誘拐じゃねぇーかよ!!」
「さっさと元の場所に戻せよ!」
「意味分かんないよ…お家に帰してよ!」
「異世界召喚キター!」
それを聞き、クラスメイトは口々に騒ぎ出す。
それもそうだろう。いきなり別の世界に呼び出されて戦えなんて、普通受け入れられるものではない。のだが…
「みんな!少し聞いてくれないか!」
勇也が声を上げる。
「確かに僕達にそんなことをする義務はない。でも、僕は目の前で困ってる人を見捨てたくはないんだ。だから、協力したいと言う人は僕と来てくれ、戦いたくないっていう人は、召喚された先で待っててもいい」
「「「………」」」
その言葉に、全員が沈黙する。
そして…
「私は戦います!」
学校でも1、2を争う美少女であり、財閥のお嬢様でもある綾瀬早苗がそう手を上げる。
「まぁ、やらなきゃ帰れないのならやるしかないわよね…」
彼女に続いて黒い髪をポニーテールにまとめた美少女で、神谷の幼馴染である、九条美奈が立ち上がる。
「私も私も〜!」
そんな彼女たちについていくと元気よく立ち上がるのは、小さな身長と長い茶髪をツインテールにした美少女、獅子堂蓮子。
そんな彼女達を見て勇気が湧いたのか、一人、また一人と立ち上がっていく。
「仕方ねぇなぁ」
「いっちょやったりますか!」
「…みんながやるなら私も…」
「ふふふっ…拙者も協力するでござるよ!」
「…ぼ、僕も…」
クラスメイトたちはどんどんと声を上げていき、最終的にはほぼ全員が戦う意志を示した。
「ありがとうございます!勇者様!」
そんな姿を見て、女神イリテムは感激の声で感謝を述べた。
「それでは、皆様には異世界でも戦えるように、ジョブを解放します」
「ジョブ?」
「はい。グラナでは、適正と呼ばれるものがあり、異世界からの召喚者には、素晴らしいジョブが秘められているのです」
女神は九条の胸へ手を添えると、眩い光が目の前を覆い尽くした。
「貴方のジョブは───聖女です!」
「凄いんですか?」
「えぇ、グラナでは回復能力を使えるジョブの中でも最上位のジョブですよ!」
どうやら相当強いジョブなようで、女神は嬉しそうに笑みを浮かべた。
そして、女神様はどんどんとジョブを解放していく。
「貴方は剣聖のようです…!」
「ふーん、剣聖ねぇ?」
「貴方は…舞姫ですよ。素晴らしいです…」
「舞姫ってかわいい〜!」
「貴方は───勇者です!!!」
「僕が…勇者…」
九条や獅子堂もなかなかのようで、女神様は感嘆の声を漏らす。そして最後の二人のうちの一人、神谷は女神にそう言われ、自分の胸に手を当て噛み締めるようにそうつぶやく。
「まあ、妥当だよなぁ」
「勇者って俺達全員じゃないのか〜」
そうやって拳王のジョブを得た剛と話していると、ついに俺の番がやってくる。
(みんな神谷の方に注目してて誰も聞いてないけど…良いの来い!)
どうせなら強い力がほしいと思いながら、女神の手を受け入れる。
「貴方の能力は………は?」
「え?いま、は?って…」
「あっ…いえ、ゴホン。えーっ…智樹様のジョブは──暴食です」
「ぼ…暴食?」
「…まぁ、頑張ってくださいね」
すると、さっきまでの声とは違う、冷たい声であしらうようにそう言い、勇者もとに移動する女神。
その日から、彼らにとっては第二の青春…そして、俺にとって地獄の日々が幕を開けたのであった。
………………………………
……………
……
「お?あれ真城じゃねぇ?」
「無能がなんでここにいんだよ〜?」
「おい!穀潰し、今日も的やれよ」
「………」
廊下を歩いていると、突然茶髪で両耳にピアスを空けた背の高い少年に胸ぐらを掴まれ、そう脅される。
彼の名前は桑原龍鬼。日本では問題行動をよく起こすことで有名な不良であった。
そんな彼の隣にいるのは、肥満体型の塚本と、痩身の松原。どちらも良い噂は一度も聞いたことのないような男達である。
そんな桑原達に、智樹はなにも答えなかった。
「ちっ…最近お前まじでつまんねぇな…まあいいか」
「うぐっっ…」
その様子にムカついたのか、桑原は智樹を突き飛ばし、智樹はその場に倒れた。
「焼き尽くせ!」
そんな智樹に手を向けると、桑原の手からは炎が吹き出る。
「あ゛がぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」
その炎に体を焼かれた智樹は悲鳴を上げるが、誰も智樹を助けることはなかった。
理由は彼は『無駄飯くらい』であるから。
彼らが召喚されてから一月が経過した。
異世界の生活は、彼らにとってはとても刺激的な毎日であった。
まるで羽のように軽い体、光や炎、水といった魔法のような奇跡を操る力、そして、召喚された先は王城での貴族のような扱い。
そんな生活の中で、彼らは1ヶ月という短い時間で少しずつ変化していった。
その中でも一番の違いは今まであったカーストが実力によってガラリと変化し、4つのグループができたことだろう。
まず、勇者である神谷や神谷に恋する女性陣。そして上位の能力を持つものが数名の、真の勇者パーティと呼ぶべきグループだ。
彼らは異世界でも持ち前のコミュニケーション能力や容姿を活かし、数多くの貴族を仲間につけている。勇者である神谷は王女様に気に入られたりメイドに迫られたりと色々と大変ではあるそうだが…
2グループ目は、生産系や技術系の、表立って戦わないものの、強い武器などを作り出せるような者たちが集まったグループである。
3グループ目は、葛原龍鬼率いる不良集団。
数は少ないが実力、能力的に上位の者たちが多い。メイドや貴族の娘に勇者と言うことを盾に手を出したり、街に出て奴隷や村娘とも無理やり体の関係を持っているようだ。
だが、それを咎められるのは神谷くらいで、他の者たちはその行為を黙認していた。
4グループ目は、元々クラスでも立場のなかった者たち。今まで葛原達にイジメられていた通称陰キャと呼ばれる者たちが集まったグループである。とはいえそんな彼らの中でもまとめ役の福山拓斗は能力がとても強いため、どうやら現在は葛原達の標的にされてはいないようだ。
そして最後が、真城智樹。
暴食という意味不明な職を与えられ、どんなに試しても超常的な力を扱うことはできなかった。
ただ満たされない空腹感が体を支配し、人より飯を食べる以外何もできない。
そんな彼は異世界人からすら無視され、葛原達のグループにサンドバッグにされる日々を送っていたのであった。
(………く………そっ…)
殺してやる。ただそのどす黒い感情が彼の全てを支配する。だが、焼ける体はもう限界だと悲鳴を上げていた。
逃げることも抵抗することもできず、そのまま智樹は意識を…
「何やってるんだ!葛原!!」
そこで、廊下の奥から、葛原よりも体格のいい少年が現れる。
「あぁ!?チっ…彩藤かよ」
パッと、炎が消える。奥から現れたのは、智樹の親友である剛であった。
「大丈夫か!?」
「…ぁ………」
うまく声が出ないようで口をパクパクと開けたり閉じたりする。必死の表情で彼を抱きそう声をかける彩藤。智樹の体はそれほどまでにボロボロなのであった。
「糞…今すぐ綾瀬さんのところに連れて行くからな!」
「おいおい、そんな無能助けても何もいいことねぇだろ?置いてけよ」
「…っ、覚えとけよ」
葛原にそう捨て台詞を吐き捨て、智樹を担ぎ廊下を走る彩藤。
そして数分後、とある部屋のドアを叩く。
「綾瀬さん!居るか!?」
「彩藤くん?こんな時間にどうしたの…って!智樹くん!?!」
「すまない!今すぐ治療できるか!?」
「う、うん!」
綾瀬は智樹に手を伸ばし、ヒールと呟くと、光が智樹を包み込んだ。
「ぅ…はぁ…ぉ…?生きてるのか…」
「智樹!!」
「うぐっ!?やめろ!男に抱きつかれる趣味はねぇって!」
傷の治った智樹に剛が抱きつくと、智樹はそう文句を言う。
「良かった…」
「ぁ…綾瀬もありがとう。助かったよ」
「いや、私は全然…それより!誰にやられたの!」
「ん?あぁ…葛原にちょっとな…」
「また葛原くん…やっぱり王女様に言ってどうにかしてもらったほうが…!」
「いや、いいよ。性格はあれだけど、あの実力は本物だし、多分王女様も…」
「そんなことないよ!王女様も優しいし、絶対話せばどうにか───」
「もういいから!!」
「っ───」
智樹がそう言うと、綾瀬は口を閉じる。
「…ごめん。治療ありがとう」
そう言い智樹は部屋を出ていった。
「あー…悪い、智樹も新しい環境に馴染めてなくて、人が信用できなくなってるんだと…」
「ううん…私が無理言っちゃっただけだから…」
気まずい空気が流れる。
「じゃ、じゃあ俺も」
「う、うん!また明日」
「さーちゃん〜!」
すると部屋に、獅子堂が飛び込んでくる。
「蓮子ちゃん?」
「おや?お邪魔だったかな〜?」
「いや。ちょっと訓練で怪我しちまって治療してもらいに来てただけさ」
「へ〜」
「それより蓮子ちゃん、どうかしたの?」
「王女様がみんなを集めてだって〜」
「王女様が?こんな時間に?」
「うん、なんか色々話したいことがあるらしいよ〜。じゃ、他の人達も呼んでくるからいつものところに来てね〜」
「うん。ありがとう蓮子ちゃん」
「んじゃ、俺は智樹呼んでくるよ…」
「ぁ…うん…よろしくね」
静かな部屋から逃げるように剛は部屋から出ていく。
「………智樹くん…」
一人残された部屋で、綾瀬はそう呟いた。
………………………………
……………
……
「勇者様方には明後日、王都に一番近いダンジョンに挑戦してもらいます」
「ダンジョン…」
「不安がらないでください。こちらからも上級騎士を同行させますので、安心して挑んできてくださいね」
金色の髪と、青い瞳の美しい少女が、不安がる皆を安心させるように微笑みを浮かべる。
そんな彼女に目を奪われる者たちは少なくなかった。
まあ、それもそのはず。彼女の見た目や声はまるでアニメや本に出てくるような美しさで、女神イリテムとは違い、人間らしさという温かみのある美しさが、高校生である彼らを魅了する。
ただ一人を除いて、だが。
「………」
裏を知っている人間としては、あまりにも胡散臭い笑みだなと彼はそう感じていた。
「王女様よぉ?もしダンジョンってのを攻略したらなんか貰えんの?タダ働きってわけじゃねぇよな?」
「勿論です。これから先、勇者様には沢山の経験を積んでもらいますから、そこは疎かにはしませんよ。何でもご用意致しましょう」
「ふーん…何でもねぇ?」
それを聞いた葛原達はニヤニヤと王女の体を舐るように見るが、そんな視線に気が付かなかったのか王女はニコニコと葛原の方に視線を返す。
普段ならそんな葛原を止める神谷は、何かを考えているように俯いている。
他の者たちもまた、『これから』の未来に思いを馳せていたのであった。
──────────────────────
以下、特に本編に関係のないあとがき
というわけで新作です。
最近私生活が忙しいので全然執筆活動をするタイミングがつかめず全体的に更新が遅くなっています、申し訳ありません。
とはいえ何もしないのはどうなのかと思い、とりあえず書き貯めている小説を公開しようかなと思って投稿しました。
王道だけど王道じゃない新感覚ファンタジー物ですので偶にでいいので見に来てください。
あ、星と感想もちゃんと全部目を通しているのでどんどんご意見ご感想送ってください。執筆活動の励みになります。
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