開放地区 -しきたり-

判家悠久

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 東京23区、Y線高品駅は2000年初期に、東海道新幹線駅の開業と共に再開発される。高層ビル群は、商業テナント及び自社企業ビルとして、華々しくも開業され、人流の多さは東京駅にちょと相当するか。

 ただ、急激な新街作りは当然ながら弊害を生む。一般人の目にはとても見えないが。


 ◇


 俺秋桜孝士郎は、ミレニアムの全東京支店大経費削減で、何となく龍ケ崎精密機器の本社に編入される。

 憧れの本社かも。現実は無計画にも程がある。集約した本社ビルには、人員分の席も椅子も無い。トイレは打ち抜きワンフロアで、トイレは1つ。軽く200名詰めるフロアに、個室は3つ、当然その席にはまず座れない。

 いや、そもそも営業に出るから、昼間は閑散するだろうの運営計画だろう。ただ時代の波は来ている。IT時代に入り、大凡の営業はメールでやり取りするから、営業部に一日中いる営業は、半数それ以上はある。部長は営業に行けというが、用事もないのに取引先に行っても仕方あるまい。


 俺は営業補助課におり、営業のサポートと今後の納品計画のプランニングをする。嫌なんだよな、ずっと会社にいる営業の大爆笑の幾つも。仕事してくれも、待つのも仕事と、意味が見出せない不文律がある。そういう事してるから、大経費削減の始末なのに、リストラされないと思ってるのだろうか。まあ給料低いけど終身雇用の会社って、こんな緩さかもしれない。


 ◇


 俺の朝の出社は、本社の南側ドアが開く8時そこそこには着く。高品駅のラッシュは、ややそこからの始まりなので、人と人がぶつかる事は無いのでストレスはやや少ない。

 本社の南側へと連なる道路は、新幹線の線路に則している。やや裏道でも、混み合わない事を皆が知っている為に、それなりに人通りはある。

 俺は左のビル側を歩く。やや眠い。耳にはヘッドフォンをして、CDウォークマンを聞き、やっと奮起を促している。


 不意に左肩がドン、重心がぶれる。


「あっつ、すいません」


 あれ、俺は見渡すが誰もいない。そんな筈はも、誰か俺と同じ身長の男性で、肩と肩がぶつかって、相手も相当な衝撃の筈だが、やはりいない。

 ああ、そういう事か。


 その背後から小走りでやってくる、可愛い系男子の同社東京5区営業部第3課佐久間敬が、嬉々とやってくる。まあそういうの好きだからな。


「秋桜さん、急によろけてー、誰に謝ったんですか。俺、非常に興味があります」

「いやその、佐久間さんさ。これから営業に行くガタイの良い男性にぶつかったらしい」

「来た。この時間に、営業に行く真面目な営業マンいませんよ。ここら一帯、ドブ板を一枚一枚剥がす営業なんていませんって。何せ本社機能地域ですよ」

「いや、走り抜けたんじゃないの」

「あのですね。秋桜さんと、ここからここ、この植垣との隙間って、ずっと30cmですよね。こんな隙間をどうやって走り抜けるんですか。あれですよ、あれ」

「まあ、いることはいるけどさ」


 俺は周りをぐるり見渡す。抜けは多いが、高品駅の再開発地域には結界が張られている。その結界の境界線には、動物の浮遊霊がやたら多い。全部を浄化するには、相応の神社があるべきだろうが、そんなスペースがあったら中堅ビルを、ストンと建てられる。行政の倹約もいよいよ世も末の時代だ。


 ◇


 その後、高品駅の開発をやや調べた。再開発地域とあって、尋常ではない作業員が作業されている。やはりそっちの線か。

 そして、ある日の会社帰りのコンビニで、都市伝説雑誌を立ち読みする。高品駅の怪奇。内容を掻い摘むと、作業工程を詰め込んだせいで、高所より落下した作業員がままいるらしい。そして、それが夜な夜な現れると。

 意外に、東京にも、その存在が分かる方いるんだなと。

 ただ霊は、夜になると輪郭がちょい見えるだけで、昼からも気配としては存在する。今も成仏出来て無いって事は、未だ今生に名残りがあって、朝から作業現場に通い詰めている事だろう。

 俺がぶつかった場所は、ホテルの立地だ。もう出来上がって営業しているのに、する事は無いだろうに。取り敢えず、朝通勤する際は、植垣から2m離れる事にした。

 何か出来ないのか。くれぐれも言うが、俺は一般人で祈祷師ではない。








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