民主主義合衆独立国家・北海道

ちびまるフォイ

国家転覆にいたる刺客

「我々! 道民は!! 独立国家・北海道をここに建国する!!」


急きょ行われた大演説にときの首相は言葉を失った。

すぐに幹部たちを集めて緊急会議が開かれる。


「北海道がなんか独立国家とか言い出したんだが……」


「今日エイプリルフールでしたっけ」


「いやガチっぽい」


「まあ大丈夫でしょう。北海道ごときに何ができるんだ」


「そうだそうだ。こっちは天下の首都・東京様だぞ」


緊急会議を開かれたが結果はとくに進展なく、

とりあえずノルマで「遺憾」とだけ言っておいた。


しかし、事態は想像以上に深刻であることを思い知った。


「しゅ、首相! 大変です! 北海道からの物流が止まりました!」


「なんだって!?」


「独立国家になったからには対等の貿易をと要求しています!」


「まあほら、北海道が欠けたところで他の都道府県があるだろう?」


「首相、北海道は日本国内の小麦の約70%を生産してるんですよ!?

 これが止まるというのは……」


「じゃあ輸入すればいいだろう。さっさと交渉してきてくれたまえ」


「関税が高すぎて無理ですよ」


「そんなぁ!」


独立国家となった北海道は生産していた食料のすべてを

国内すなわち北海道で消費する完全自給自足を実現。


そうなると今度は本州側の方にしわよせがおきた。


物価は上昇し、食卓に並ぶ食品の数が減る。

やがてその怒りの矛先は首相へと向けられた。


「どうしよう、めっちゃDMで殺人予告くるんだけど!」


「首相が遺憾しか言ってないからでしょう!?」


「しょうがないだろう! 北海道がめちゃくちゃやってるんだから!」


「もともとは同じ日本という国だったんです。

 なんとか交渉して有効的な関係を結んで、

 また前みたく貿易をしてもらいましょうよ」


「そういうの苦手なんだよなぁ……。ほら僕人見知りだし」


「知らないですよそれは」


「あ、そうだ。いいアイデアが思いついた」


「なんです?」


「交渉なんて不要だよ。ちゃちゃっと乗っ取っちゃおう」


「発想が圧政を強いる独裁者の思考なんですが」


「ほら今は独立国家・北海道をこっちは認めてないわけじゃん」


「そうですね、立場上そうなってます」


「ってことは、北海道は今テロリストによって占拠され

 日本との分断をさせられているかわいそうな状況だということになる」


「こじつけがすごい!」


「なので、自衛隊を派遣してもなんら問題ないわけだ!

 テロリストに占拠された北海道を取り戻す聖戦とか言えばいい!」


そうして独立国家北海道に自衛隊派遣が決まった。


自衛隊の隊員たちは美味しい海鮮が食べられるぞと息巻いていたが、

いざ北海道の現状を知ってしまい絶望の底に叩き落されることとなる。


「さ、寒い!! なんて寒さだ!!」


「どうして道が一車線しかないんだ! ここは二車線のはずだろう!」


「地面がスケートリンクじゃないか! 歩けっこない!」


「なんで歩道に雪の壁が作られてるんだ!」


人間がおよそ生活できうる限界ギリギリまで極まった終末の土地。

それが北海道。


ドラマや映画と現地のギャップに自衛隊隊員たちはノックアウト。


持ってきた銃は雪が詰まって鉄くずとなり、

視界の悪さに分断されしまいには矛盾脱衣する隊員すら現れた。


たいした反撃もないまま自衛隊はほぼ全滅となり、

ますます北海道は自信をつけた。


「見たか本州のボンボンども!

 我らには北の大地の神が味方している!!」


もはや力づくでも取り戻す方法はなかった。

打つ手なし。


緊急会議も開かれなくなったかと思うと、

秘書が見たのは逃げじたく中の首相だった。


「首相なにやってるんですか。北海道はいいんですか」


「もうむりだよぉ! 手は尽くしたが取り戻せない!」


「で、なんですかそのスーツケースは」


「しばらく海外に行こうかと」


「逃げるんですか! 北海道も片付いてないのに!」


「だってどうしようもないじゃん!

 この国にいたらめっちゃ怒られるもん!」


「それでも首相ですか」


「じゃあお前が北海道取り戻してみろよぉ!」




「あいいんですか?」



「え」


思わぬ秘書の答えに首相も目がテンになった。


「で、できるの? だって自衛隊も交渉も無理だったんだよ?」


「まあ見ててください」


秘書は自信たっぷりに言ってのけた。

そして数日後、北海道の国王から緊急メッセージが届けられた。


「もう勘弁してくれ! なんでも言うことを聞く!

 独立国家も解体し都道府県に戻る!! もう許してくれ!」


あっさりと白旗を上げた。

あまりのあざやかさに首相は口が開きっぱなしになった。


「ひ、秘書くん。君はいったい何をしたんだ?

 北海道を沈めるとか脅したの……?」


「そんなのできっこないじゃないですか」


「じゃあいったい……」


秘書は優しい笑顔で答えた。



「北海道へ観光客を死ぬほど送り込んでやりました」



ときの政府が発令したキャンペーン「北海道へ無料でGO!」

北海道の食料が食い尽くされるほどには好評だったという。

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