第27話 シオンとの再会(前編)

 ジークフリートに連れられていった中庭に、シオンはいた。

 月明りだけが辺りを照らす、静かな中庭。その中心にある噴水の縁に腰かけて、シオンは神妙な顔で俯いていた。



(本当にシオンだわ)


 記憶の中のシオンに比べ身体は大きく成長しているが、あれはシオンで間違いない。


 ここに来るまでジークフリートに懐疑的な思いを抱いていた彼女だが、はた目にも肩を落としたシオンの背中を見て、一気に警戒心が消え失せる。


 ジークフリートから「行っておいで」と優しい声で促され、エリスは芝生を踏みしめた。


 けれど、よほど深く考え事をしているのか、シオンはエリスに気付かない。

 そんなシオンに、エリスはそっと声をかける。


「……シオン?」


 するとシオンはハッと目を見開いて、ゆっくりと顔を上げた。

 その顔がエリスの方を向いて、泣き出しそうに歪む。


 次の瞬間、シオンの口から洩れる、縋るような声。


「姉さん……ッ!」


 ――と、そう呼ばれたと思ったら、気付いた時にはシオンに抱きしめられていた。


 すっかり大人の男に成長した弟の腕の中に、彼女の身体はすっぽりと納められていた。


「会いたかった……姉さん……」


 エリスの耳元で囁かれる、聞き慣れないシオンの声。

 それが声変わりのせいだと気付くまでに、エリスは数秒の時間を要した。


「シオン、大きくなったわね。もうすっかり大人だわ」

「――っ」

「わたしも会いたかった。ごめんなさいね、手紙、出さなくて……」

「……ほんとだよ。僕がどれだけ心配したか……きっと姉さんにはわからない」


 シオンの両腕が、エリスの身体を更に強く抱き寄せる。



 十六歳になったシオンの身長はエリスをとっくに超えていて、随分と逞しい身体に成長していた。


 エリスがおずおずと顔を上げると、当然顔立ちも大人びていて、何だか知らない人の様に思える。


(でも、そうよね。会うのは四年ぶりだもの)



 ――エリスがシオンに最後に会ったのは、もう四年も前のこと。

 そのときまだ十二歳だったシオンは、天使のように愛らしい少年だった。


 エリスと同じ亜麻色の髪と、瑠璃色の瞳。

 エリスもシオンも外見は母親譲りで、幼い頃の二人は性別こそ違えど、本当にそっくりだった。


 シオンは目が大きく童顔で、色白だったこともあり、よく姉妹に間違えられた。


 違うところと言えば、シオンの方は髪質がややくせ毛なところくらいだ。



 そんな愛らしかった弟が、会わない間にこんなに大きくなっているものだから、エリスはとても驚いた。

 けれど、自分をまっすぐに見つめるこの瞳は、紛れもなく彼女の記憶の中の弟のものだ。


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