第10話 尋ね人(後編)

 ◇



 その夜、アレクシスはエリスの部屋を訪れた。


 緊張を誤魔化そうと自室で酒を飲みすぎた挙句、「やはり女を抱くなんて無理だ」と逃げ出そうとしたところをセドリックに捕まり、「この薬を飲めば嫌でもできますから」と媚薬を飲まされたせいで足取りは覚束なかったが――セドリックの「もしかしたら、本当に彼女が尋ね人かもしれませんよ」との言葉に励まされ、どうにかこうにかやってきた。


 だが、下着姿のエリスを一目見て落胆した。

 エリスの肩の左右どちらにも、火傷の痕がなかったからだ。


(ああ……違った……)

 

 期待を裏切られたアレクシスは、酒が入っていたことと、エリスが処女ではないと思い込んでいたために、つい強く当たってしまったのだ。

 

「お前を愛する気はない」と。


 その後は夜伽を早く終わらせようと、かなり手荒に抱いてしまった。



 アレクシスはエリスの寝顔を見下ろし、罪悪感に顔を歪める。


 彼は生粋の女嫌いであるが、世の中全ての女性の心が汚れているわけでなはないということを、頭ではきちんと理解していた。


 しかし、今さら後悔しても遅い。


 あれだけ手荒に扱ったのだ。エリスは自分を恐れて、この先二度と近づこうとは思わないだろう。

 そしてその状況こそ、自分が本来願っていたものであるわけだが……。


「…………」


(それなのに、何だ、この不快感は。俺は何をこんなに動揺している)


「――ああ、くそっ」


 アレクシスは苛立ちに任せて後頭部を掻きむしる。


 起こしてわざわざ謝罪するというのもおかしな話だが、かと言って、このままというのも寝覚めが悪かった。


(不本意だが……仕方ない。せめて医者の手配くらい……)


 アレクシスはバスローブを無造作に羽織り、使用人を呼びつける。

 そして、「宮廷医を呼び寄せろ。――ああ、女の医者だ」との指示を出し、自分は部屋を後にしたのだった。

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