神前に麒麟

ふわポコ太郎

女神の価値観

 ヒロインは祖国のために、人質となった存在の前からスッと立ち上がる。


 傷物な下々女を従兄弟に自慢されたところで……所作一つ一つを感覚では無く理屈で知る女神にとって、それはもう退屈な話と時間だった。


「てっきりイビルディア人と結婚しなかった事をボロくそになじられるもんかと思っていたよ。あれ?セレナ従姉妹ねえちゃん。もう帰るの?サタンが誇る精強な護衛はどこに?えっ!それぞれが武勲をたてるのに夢中?いやいや流石に不味いでしょ。金で雇った連中なんて信用できないよ。」


 それはもう人間の女ごときが、自分より上なはずが無い。と自信に満ち溢れた名前の持ち主は最初から分かっていた。


 とはいえ、分家筋とはいえ神の血を引く殿方がここまで低レベルの女を選ぶとは驚きですね。……と呆れながらも宗教観まるだしな祝福を下々に与えて、務めは果たしたと言わんばかりにスッと背中を向けた。


 宗教国家たるイビルディア帝国が高くかかげるは現人神サタン


 脈々と受け継がれた血統を受け継ぐのが……祖国の上層部から排除を望まれているセレナ。


 己を磨き続ける彼女は最後の女神として歴史に名を刻む。


 当然、月明かりが照らすは普通の女とは産まれも育ちも違いすぎる女神様。


 人質が暮らす屋敷を出ていくセレナを……歩くたびに揺れる両胸を、偶然見かけし巨影は怪しく笑った。


 腹は引っ込んで尻はでている……デブをぽっちゃりと誤魔化すような下劣さ等微塵も感じさせない程に、間違いなくストイックな体型維持を行うであろう心構えが滲み出ていた。

 

 そんな良個体を値踏みし、性欲を漲らせた事を隠すことなく目を血走らせながら……十一人の背中を見送る。

 

 そんな世間知らずで地理感の欠片もない彼女が、人目少ない場所に連れ込まれるのは当然であり……後ろから複数に襲われるのは無理も無い事。


 五等分の報酬金で雇われし連中は気づいてしまった。


 女神を綺麗な状態で返そうが、汚して返そうが……何なら手に入るモノが増えるのは後者だと。

 

 うな事やったら殺されるだろ。と考えるのは失うモノが有る人間だけ。


 知能すら足りない!下半身と脳が直結した存在からすれば、今の快楽と快感が全て。


 やめてください!殿方十人がかりで女神に乱暴をしようなんて最低です。というフラグガン立ちのそそる声色に対して、統率されたハイエナのごとく彼らは襲いかかる。


 数の暴力プラス、女体は同レベル帯の男と比べて遥かに劣る出力しか出せないという性差……それらがもたらすは圧倒的な不利。


 この瞬間、金が報酬として動く可能性は完全に無くなった。


 最強の軍人国家たるはイビルディア。

 治世で歴史を習えば子供ですらソレを知る。


 I字バランスを容易く行得るほどの体感と柔軟性。


 それらは可動域を根幹とする行動……すなわちキックの威力に絶大な影響を与える。


「ふぅ。東亜皇国の殿方はどうして筋質が貧弱で悪いのに……ハッ!だからこそ優秀な女神わたしに乱暴しようとするのですね。弱い殿方の子供を妊るくらいなら女神わたしは死にます!そんな惨めな生涯絶対に嫌です。」


 弱者五人を張り倒した、セレナは意味不明な事……現世の真実を言いながら得心。


 産まれながらの役目からか、美しさを損なわないためか過剰な筋肉を搭載できず。


 当然イカれた鍛錬や実戦で傷をつけれないのが現人神たる……いや女の身体。


 それでも男五人を瞬時に張り倒すのだから、先天的にセンスがあるのか?後天的に理合を若い身ながら掴んでいるのか?あるいは両方か……


 まぁハッキリいって日雇いで報酬をもらっているゴロツキが世界全土で見て……男女混合として見ても上位二十五パーセントに入るであろう女神様に喧嘩で勝てる訳等最初から無かったのだ。


 当然、上の大半は異性ばかり。

 全く女神わたしを力で屈服させられない殿方なんて、この方達は下着を脱がして確認をするまでもありませんね。と口にした瞬間、セレナの前には第二陣たる五人の追加。


「我々を見た時点で貴方様なら分かるはずかと……」

 リーダーと思われるは長身の男。


 その手には……女性一人もとい女神を囲む四人の異性が手には目隠しと手鎖。


 えぇ、絶対に勝てませんね。他の四人ですら女神わたしより遥かに強いですし……東亜皇国の未来は意外にも明るいようですね。と降伏の意を示すかのように両手を前へ。


「ゲヘヘ胸がデカ過ぎて、何をするにもゆっさゆっさしてやがる。」

「なぁ、リーダー。別に生かしておけばいいんだろ。人質としては命さえあれば事足りるし……ゲヘヘ。」

「あぁ安心しろ。アジトに連れこんだらマワして楽しむぞ。コレはイビルディア帝国の執事様から承った依頼だしな。大金も手に入ったしそれなりの部屋に連れ込んでやるよ。ゲヘヘ!」


 獲物を前に舌なめずりをするは三流。

 こんな連中に、女の身体で産まれたが故に勝てぬのだから……男抜きなら最強の肉体を持つセレナは己が宿命を呪う。

 

 色欲にまみれた五人の加害者が、これより好きでも無い異性から乱暴されるであろう被害者。

 対極線上の双方から……同時に集中が途切れた。


 最強の雄は機を逃したりしない。

 瞬間産まれながらの強者たる麒麟児、主人公たる進矢は、野生の勘と言わんばかりに動く!無論それは完璧なタイミング。


 不意打ちと評するには、余りにも酷い暴力の嵐。


 相対的に弱者男性となった五人が、突風に荒らされた様に壁や地面に、絶対強者の膂力で叩きつけられた。


 人はそんな簡単に吹き飛ばないぞ。という意見には、あぁ見たことないんだな。と返させていただこう。


 そもそも最強の雄を前にすれば、ヨーイドンでやったところで結果は同じであろうが。


 生の暴力を見ると女性は引くというが……圧倒的に強い雄の登場に、最強国家の軍人達を知る女神ですら、見つけた。と凄まじい程の笑顔。


 ここでようやく主人公とヒロインが邂逅。 

 もう少しの間だけ猛る雄は、目の前にたつ美しい雌を、何だこの良個体!俺に抱かれる為だけに産まれたでしょ。そのスタイルは目に毒だろ!と下劣な言葉を口に出さない程度の品性。


 もう少しの間だけ異性が互いに向ける矢印は正常な方向を向いていた。


 何ならこの瞬間までは、一目惚れして公共の電波にのせれない行為へGOだろ。


 先に書いておく、彼女はイビルディア帝国に対して不信感を持っている。

 そうでなければ他国の血を入れようとしないであろう。


 差別だと思うかもしれないが古き時代。

 女神セレナは多様性を……いや本能に従っているだけで何も考えてないな。


「責任も取らなくていいです。愛情も愛着もいりません。ただ女神わたしに優れた子供を産ませてください。えぇ、もっと強い殿方が現れ無い限りは貞淑の化身ゆえ他人に股を開いたり等しませんよ。それに金も地位も現人神サタンの身故コチラで用意できますし……だから愛人たる貴方様に何不自由させませんよ。まぁ代償として他の下々雌とは一切の性行為……いいえ付き合う事も許しません!フフフ女神わたしの身体を見れば貴方から欲しがりますよ。」


 天性の捕食者にコレを言われた瞬間、進矢は何かを察する。


 何ならこういうパターンの女は何度か見ているし、経験もしているが!今回は余りにもレベルが違いすぎた。


 あっこの異常者マズイ。と判断した進矢は即座に距離をとる。

 力に狂った獣では無く……純然たる戦士。


 据え膳を前に、下がる。という弱さを優しさとはきちがえた負け犬の様な行為すら、お可愛いこと……いいえ可愛すぎます。と真実の愛に目覚め……いいや相手が絶対強者だから動物じみた欲に溺れているだけか。


 一応セレナを弁護するなら、男に対して格好いいという感情はカエル化の可能性がある……が可愛いいと異性に思わされたならば!女性は絶対に真実の愛を逃してはいけない。


 まぁ、逃がすんですけどね。

「どうです?ホテル代もコチラで持ちますし、一番いい部屋を取りますよ?そうだ授かりの儀一回ごとにお給金もたくさん出しますよ。だからお願いします。逃げないでください!……って速!その巨体でまさかのスピードタイプとは!その身体能力絶対に欲しいです。女神わたしが産む次代の父親に相応しいです!それが無理なら一生護衛をしてください。」


 男女の身体能力差故に、双方がトップ層の身体能力を持つ者同士ですら……瞬発力、持久力という概念によって、当たり前だがぐんぐん距離は広がっていく。


 女神が執着するだけあって未来の時代で、男女混合古今東西最強は誰かという問いかけに……平均と全盛期に分けてもtire1の左側にしてトップメタたるは彼。


 今はまだ名前も二つ名も違う……麒麟児を冠する進矢の真価に気づいている人間はまだ少ない。

 


 

 





 








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る