18

弥央はサーフボードにうつ伏せになり、波を感じながら沖へと進んでいく。背後には紗波がいて、彼女の動きを見守りつつ、必要ならばすぐに助けられるように準備をしていた。弥央の心は高鳴っていたが、その音をかき消すように、波のリズムが静かに耳元で響いている。


「大丈夫、弥央。焦らなくていいから、自分のペースでやってみて。」紗波の声が背後から聞こえ、弥央は小さく頷いた。


弥央はやがて波を選び、タイミングを見計らって立ち上がろうとした。しかし、ボードが揺れるたびに心の中の不安が膨れ上がる。波が近づいてきて、弥央は立ち上がろうとするが、バランスを崩してしまい、海に投げ出されてしまう。


冷たい海水が一瞬で体を包み込み、弥央は水中でしばらく漂う。水面に浮かび上がると、すぐに紗波が駆け寄ってきた。


「大丈夫?怪我はない?」紗波は心配そうに弥央を見つめた。


「うん、大丈夫。ただ、なんか…やっぱりうまくいかないな。」弥央は水を払いながら、悔しそうに顔をしかめた。


「うまくいかなくても、それでいいんだよ。今日は最後のレッスンだけど、完璧にできることが目標じゃない。波に乗る楽しさを感じることが一番なんだから。」紗波は柔らかい声で励ました。


「でも…」弥央は言葉に詰まった。完璧を求めてしまう自分と、それを手放すことの難しさに葛藤していた。


「もう一度、やってみようか。今度は、ただ波に乗る感覚だけを感じてみて。」紗波は弥央にボードを戻し、再び挑戦するよう促した。


弥央は深呼吸をして、再びボードに乗り込んだ。波に身を任せてみよう、と自分に言い聞かせる。今度は力を抜き、ただ波に乗ることだけを考えた。そして、波が来るタイミングを見計らい、ゆっくりと立ち上がる。


ボードは揺れるが、今度はその揺れに逆らわず、体を波に合わせて動かしてみる。少しずつ、弥央はボードの上でバランスを取り、波に乗る感覚を掴み始めた。完全ではないが、少しだけ波に乗れた瞬間があった。


「やったね、弥央!」紗波が歓声を上げる。


「少しだけど、波に乗れた…!」弥央は驚いた顔で波の上に立っている自分を見下ろした。

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